《カノジョの好度が上がってないのは明らかにおかしい》第60話 クラスメイトと悪巧み

次の日。會議に臺本班の連中が完原稿を持ってきた。

それにざっと目を通せば、なかなかの完度の腳本だった――のだが、読んでいるこっちが気持ち悪くなるほど、神谷と六実のいちゃつくシーンが多い。特に、最後の魔王から姫を助け出した後のシーン。

倫理的に駄目だろ……ってくらい結構過激なシナリオになっている。

恐らく、あの六実の言葉を盾にとって神谷が要求を推し進めた結果がこれなのだろう。

普通の集団なら、この臺本が配られた段階で改稿を求める意見が出るだろう。

だが、今の実行委員會のメンツにはそれはできない。なぜなら、全てのメンバーがこの前の六実の言葉を聞いているからだ。

こんなふざけている臺本なのに文句の一つも言えない。このことに多くのメンバーは神谷に対するフラストレーションを募らせているはずだ。

そう、これでいい。

どうせ、最後のシーンなんて演じてやる気はないのだし

さて、となると次の課題は裝作りだ。

これは俺にどうすることもできないので、得意そうなやつに頼もうと思う。

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俺が視線を手元のスマホに向けると、その中のティアがあざとく敬禮した。

そして直後、彼は俺の目の前に現化した。

普通なら、どこかに隠れてスマホからは出るのだろうが、この閉された會議室なら、そこの人々の記憶をちょいといじるだけでいい。

「じゃあ、行ってきますね」

「あぁ、頼んだ」

はすたすたと裝班の連中のもとに歩み寄ると、自然な流れで彼らの作業にじっていた。

さらに、談笑じりに彼たちにもコツを手ほどきする余裕っぷり。

さすがはナビゲーターと言ったところだろうか。

ともかく、これで裝問題は解決することだろう。

さて、殘るは神谷魁人という存在自だ。あいつをどうにかするのは、文化祭當日。それまでは下準備を頑張ってやっておこう。

俺がそう覚悟を決めたとき、部屋の端の青川が目にった。

そんな俺に彼は気が付いたようで、青川は俺を手で招いた。

対して俺は、黙って彼のもとに歩み寄る。

「お疲れさま。なーんか、こそこそ裏で糸引いてるみたいだね」

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「言い方に悪意がないか?……まぁ、その通りだからなんともいえねぇけど」

俺のその言に青川は苦笑い。そして、「ともかく」と前置く。

「かおるんの働きでいいじに作業が運んでるのは間違いないよ。ありがとね」

「別に、神谷がむかつくからあいつに一つ恥かかせてやろうって必死こいてるだけだし」

「あー、なるほど。普段何にも頑張ってなさそうなかおるんが、やけにがんばってるなぁ、と思ったらそういうことか。あれだね、人の不幸のためならどんな努力も惜しまない! みたいな人種なんだね」

「いくら俺でもそこまで切れ味のある皮は初めて言われたぞ」

「お褒めに預かり栄です、かおるん殿」

「褒めてねぇっての。お前は埼玉のジャガイモ小僧か」

わざとらしく俺をからかう青川に、俺も彼をからかい返す。

そんな、何でもないやりとりに変な慨をじてしまっている自分が恥ずかしく、俺は視線を窓の外に向けた。

「あ、そういえば。かおるん、月さんから何か言われなかった?」

「ん? 凜から?」

突然の問いに俺は首を傾げる。

しかし、直後彼の問いが示す意味について理解した。

「あー、なんかこの前の夜、急に押しかけてきた」

「夜に? 押しかける?」

その二つの単語に青川は目を輝かせる。

そんな彼に俺は手刀を食らわせる。「うぎゅっ」と謎の言葉を放ったわが校の會長に俺は説明補足。

「ただ訪ねてきただけだ。ってか、お前凜に変なこと吹き込むなよな。こっちが迷だっての」

そう口をとがらせていう俺。それに対して、チョップされたところをでていた青川は急に悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「でも、私が月さんに劇のことを教えた結果、かおるんはこうやって積極的にいてるわけでしょ?」

「……っ! ……お前のそういう、『わたし、何でもわかってます』みたいなところ嫌いだ」

「そう? 私は好きだけど」

微笑んでそう答える青川に俺は思わず苦笑い。

い外見とは似ても似つかないその頭には心底驚かされる。

出會った當初はなんでこんなガキみたいなのが生徒會長に……なんて思ったものだが、今となってはなるべくしてなったのだな、と納得せざるを得ない。

俺が脳でうんうん頷いていると、突然六実が人の群れから抜け出してこちらへ駆けてきた。

「馨くん、たまには教室の手伝い行かない?」

「あー……ちょっとぐらいは顔出しとくか」

「うんっ! 一緒に行こうっ」

心行きたくないなーと思いつつも、俺はそう答えた。一応クラス委員という立場だし、一切教室の方に関與しないというのもまずいだろう。

「ひゅひゅー、お熱いねぇ、お二人さん」

「おい青川やめろ。作業中の奴らががカッターをこちらに向けだした。が流れる」

「あははー、それはないでしょ……、ないよね?」

なんだか謎に張りつめた空気の會議室。これ以上ここにいると息が詰まって窒息死しそうなので、俺は教室の外に出た。

そして、六実とともに歩くことしばし。俺は自分の教室に足を踏みれた。

どうやら、模擬店ではお化け屋敷をするようで、著々と準備が進んでいる。

へぇー、意外と本格的なんだなぁ……なんて心で呟きながら進んでいると、いつの間にか隣にいたはずの六実は子の群れに吞まれていた。

さて、六実がいなくなったことで俺がクラスの出しを見る理由はなくなった。ていうか六実と一緒にいないのにクラスに一人でいるなんてやだし。きっと男子諸君の嫌味とか罵言とか暴力とかを浴びせられるだけだし……。

よし。帰ろう。

俺がそう決心し、踵を返したその瞬間。

「あー朝倉、こっち手伝ってくれないか?」

「おっ朝倉じゃん。折角だし頼むわ」

後ろからそんな聲が聞こえた。

ん? 何? 幻聴かな? などと思いながらも無視はできない。俺は上半だけひねってその聲の方向に顔を向けた。

そこにいたのは何人かの男子。集まってお化け屋敷の飾りを作っている。

確かにみんなせわしなく手をかしており人手が十分には思えないが……。

「俺?」

「うん、お前」

自分を指さし、拍子抜けたような顔で確認する俺に、彼らは笑って頷いた。

……えぇっと、納得はいかないがとりあえず手伝いを要求されたんだから斷るわけにはいかないよな。

俺は彼らのもとへ近づき、筆をけ取ると、言われるままに看板の塗りを始めた。

しかし、どうしたのだろう。クラスの男子は基本的に俺に対して常に害意を抱いているものだと思っていたが……

「ん、朝倉、そこはグラデーションで頼む」

「……こんなじでいいか?」

「おっ、もうできてんじゃん。すげーな、朝倉」

そういうと、彼は俺の肩をぽんと叩いて微笑みかけてきた。

いやいやいや、どうしたの? ほんのし前まで俺に漲る殺意を向けてきていた方々とは思えないのだが……。

……ちょっと待った。そういえば、六実が転校してくる前まではこんなじに誰とでも一言二言は話してたな。人間関係もまぁ普通に築けていたし。……広く淺くではあったけど。

俺は六実のおかげでぼっちとしてのレベルをかなり上昇させていたのか……。

そんな謎の慨を抱いている自分に呆れ、俺は一つため息をついた。

それが橫目にったのか、近くにいた男子が気遣わし気に話しかけてくる。

「まぁ朝倉……そう気に病むことはねぇって」

「そうだよ。そういうの一回二回は誰だって経験するから。気にしちゃだめだよ」

「は? ……ありがと」

もしかして心の聲を普通に聲に出していたんだろうか……と思いつつ、俺は勵ましてくれた二人の男子に一応謝の言葉を贈る。

というか、誰だって一回二回はぼっちとしてのレベルが上がることがあるのだろうか……。んなわけないよな……。

「まぁな、高嶺の花ってやつだろう。はた目から眺めてるのが一番幸せなんだよ」

「そうそう」

「ちょっと待った。お前ら、なんで俺のこと勵ましてた?」

なんだか、不穏なセリフが聞こえたので、俺は思わず彼らに訊きかえす。

「いや、なんでって……」

「朝倉が、小春さんにフラれて落ち込んでたから……」

「フラれて……?」

「あぁ。小春さんって神谷って奴と付き合うことになったんだよな?」

その言葉を聞いて、すべてがつながった。

前の會議で六実が言った、神谷とのシーンを増やすことに対する肯定。それは勇者である神谷と関係を持つことと、並びに魔王である俺との関係を切ることを意味する……なんて、あの場にいたやつらは解釈したのだろう。

そんな噂が広がって、尾ひれがついて、結果、俺が六実にフラれて神谷と六実が付き合うことになった、という勘違いを生むことになったのだ。改めて、高校生の想像力のかさに心させられる。

……しかし、この狀況は俺にとって好都合だ。

「そう、俺は神谷に六実を奪われてしまったわけだ。それは俺だけじゃなく、お前らにとっても気持ちが良いものじゃないよな?」

「まぁ、な。朝倉みたいなぼっちならまだしも今までも友達がかなり多かった神谷に小春さんまでとられちゃあな」

おいそこ。何気なく俺をディスるな。

なんて、言っている場合じゃない。俺はカバンから紙の束を取り出すと、彼らの前に置いた。

「じゃあ、偽の勇者から姫を取り戻さないか?」

ニヤリと笑う俺の顔は魔王そのものだったに違いない。

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