《引きこもり姫の事~?そんなことより読書させてください!~》引きこもり蟲
この世に生をけて十七年。何の事故も無く平々凡々に學問をこなしそれなりに良い績を取っているのだ。
「凜りん音ね、何度言ったら分かるんだ。書庫には二度とるな」
何故。親に支障をきたすことなど何もしていない。すべきことはした。なら私の好きにして良いだろう。
「全く。どうしてお前はそう世間に溶け込もうとしないのだ。確かに私達はお前のその格に何の反対もしていなかった。
だが友達も作らない、クラスに馴染もうともしない、いじめにあっても怒りも泣きも笑いもしない、おまけに六ろく條じょう家と子みこ柴しば家、そして我が尾ねお家の子ども十人の中で一番の問題児と言われているのに何故反論しないのだ!」
いじめで笑う人はいません、どんだけドMなんですか。いや個人の自由を止める義理は私にはありません。
「そんなことよりも父さん。書庫を立ちり止にしたら私自殺すると前から言ってるでしょう。この會話も何回目ですか。飽きましたよ私」
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「私も飽きたさ。お前のその富な言葉と裏腹に頬が重力に負けてるその能面顔も。誰に似たんだか」
実の娘を能面呼ばわりするなんてきっとあなたに似たんでしょうね私は。
「おっと、こんなことをしてる場合じゃないんだよ。凜音、応接間に行くぞ」
「嫌です」
「何故だ!?」
  嫌な予しかしないからです。
「だ、大丈夫だぞ。決して子ども達全員に話があるから呼び出しているわけでは無い。た、ただし話をと思ってるんだよ」
  ……やっぱりか。後の九人はもういるんだろうな。はぁ~面倒。
「嫌です、私はいないものとして進めてください」
「そうも行かない。おい、凜音を引きずり出せ」
  強手段使うの早いよ父さん。まあ私は何が何でもここから出る気はありませんでしたから無駄だけれども……おい待て、いかついプロレスラー的な護衛よ。何も肩に擔ぐことないだろう。いつの間にか本も取り上げられてるし。
「よし、今日は簡単だった。お前を雇って正解だったよ今こん野の」
  このプロレスラーは今野さんって言うのね。じゃない、降ろせ! 本! 本を読ませろ――!!
六條、子柴、尾の兄弟姉妹を並べてみよう。
六條家は四人、上から二十二歳の長男・正宗まさむね、二十歳の長・子あいこ、十九歳の次・麗子れいこ、十八歳の次男・吉宗よしむね。
子柴家は三人、二十歳の長男・桃李とおり、十七歳の長・月海るな、次男・風柳ふうり。
そして尾家も三人、十八歳の長男・真まこと、十七歳の長――私のことだけど――凜音りんね、十六歳の凜華りんか。ご近所に寄れば仲は良いらしい。
  まあ溫厚組だものね私達は。主に吉宗兄さんとまこちゃんが喧嘩してるけど大一日経てば解決してるし。
何で推定風に話してるかって? だってここ二、三年まともに話してないもの。誰とも、そう、誰とも。
「遅いよ凜音! 何で書庫から出てこないのよ」
「今も無理矢理出されたのよ月海。何で誰も無視してくれないのよ。私いなくても話進むじゃん」
「否定はしないよ凜音。でも今日はどうしても外してはいけないらしいよ」
正宗兄さんが説明してくれた。兄さんの長所って怖じなく喋ることだよね。否定しないんだ。
もういい、ここまで來てしまったのだから出席しないわけにもいかないし、さっさと終わってしまおう。
「忙しい時期にごめんよ皆。折角の休みを使わせてしまって」
「良いよおじさん。別に苦でも無いし。さっさと話進めちゃいましょう」
「ああ、今日はとある方から見合いをしたいと言われた者がここにいるという話なんだ。神宮じんぐう寺じさんという人で小説家として有名な方なんだ」
神宮寺。ああいたなそういえば。えーっと題名は
「え、誰それ」
「“虛きょの涙なみだ”の作者」
確かベストヒットセラーだか何だかに賞した人でしょ? テレビは見ないけど帯で分かった。
「結構なお金持ちさんだったわよねぇ」
「お金持ち!?」
  子姉さん。何でそれを月海達の前で言うんだ。でもこの三家も大分裕福でしょ? 書庫を持つ程には。
「線してるよ皆。おじさんすみません。誰がその方と見合いをするのですか?」
「……」
  父さんが固まった。
「「父さん?」」
「おじさんどうかしましたか」
  まこちゃんと華ちゃん、正宗兄さんが口を揃えた。こういう所よく揃うんだよね。
「その見合い相手がな……凜音なんだよ」
 
  ……私の名前が聞こえた気がする。
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