《引きこもり姫の?そんなことより読書させてください!~》閑話 影薄さん

「桃李ちゃーん!どこー?」

月海が僕のことを呼ぶ聲がする……それも目の前で。

「ねえ風柳。どこにいるか分かる?」

「さあ。今日はどこに行くとも言ってなかったし」

「桃李ちゃんに洋服來てほしいのに〜。すっごい似合いそうなもの作ったんだよ」

「僕が來てあげよっか?」

「あんたじゃ似合わん。桃李ちゃんにしか似合わないように作ったの」

ありがとう月海。でもね、目の前の僕を見つけてくれればそれだけで嬉しいんだよ。

そろそろ呼ぶか。

「桃李ちゃ――ん!!」

「月海」

「あ、とう……近いぃぃぃ!」

そりゃあ僕の膝の上に乗ろうとしてたんだからね。餅を付くじで倒れ込んでくる。

「ご、ごめんね桃李ちゃん。悪気は無いんだよ全然。信じて」

「大丈夫だよ月海。それより僕に服を作ってくれたんでしょ? 見てみたいな」

月海の顔が申し訳なさから一転花のように輝いた。

「そうなの! 待ってて今持ってくるから!」

「行ってらっしゃい」

バタバタと音を立てて月海が自分の部屋へ駆け込んでいる音がする。

「兄ちゃん。月海の人形になっても気にしないよね」

「まあね。もう何年もの付き合いだし今更」

それにそのおで僕は服を選ばなくて済むし會計の時も誰かに代理を立てなくて済むし。

「は、はい桃李ちゃん……て、ティーシャツ」

「ありがとう。息整えてから言ったらどう?」

月海が持ってきてくれたのは僕の好きなカーキで無地のティーシャツ。え? そんなの著てるから空気なんだって? まあそれも月海に聞かれたけど僕が吉宗や真みたいな服著て似合うなんて思ってないからね。

「著てみれば兄ちゃん」

「うん。そうしてみる」

著ていた服――これも月海が作ってくれた――をいで風柳に渡して著てみる。

お小遣いを叩はたいて作ってるらしいから大事に使わないとね。高校生のお金なんて高くないんだから。

「どう?」

「丁度良いね。きやすい」

月海が褒められて顔を輝かせた。

「でしょでしょ! 桃李ちゃんよく麗ちゃんに絡まれてるからきやすい方が良いかなと思ったの! じゃあ凜音のところ行ってくる」

なんだかんだ言っても凜音と月海より仲が良いカップル――変な意味じゃ無いよー――いないと思うな。

喧嘩する程仲が良いってこういうこと言うんだろうね。

「兄ちゃんどこ行くの?」

「え? ああいや部屋に帰ろうとしたんだけど」

「影になって?」

「……」

昔から僕が聲をかけない限り兄さんも姉さんも――凜音さえも見つけられないのにどうしてか風柳にだけはいくら空気と化そうとしてもすぐに見つかってしまう。

「兄ちゃん」

「ん?」

「兄ちゃんは別に影じゃないからね」

月海と似ているようで似ていないその笑顔に僕は意味が分からなくて狼狽えるのだった。

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