「おい、ねぇってば！聞いてんの？！速い！速すぎるってぇぇ！」

タイヤが「にギリギリ耐えています」と言っている様な凄い音がする。

下り坂を疾走している自転車には、楽しそうにハンドルをる森塚と悲鳴を上げる冬李が乗っていた。

『俺の腹にちゃんと手をまわして、離れないで』

「っ．．．まわしてるよ」

森塚のこういう所も苦手だ。

優しい聲で囁かれると、大事にされていると思ってしまう。

あとで傷付くのはもう嫌だから。

他人以上友人未満たにんいじょうゆうじんみまん。

付かず離れずの関係で居たい。

＊＊＊＊＊

冬李と森塚が學校の正門をくぐる頃には、校庭中にホームルーム開始のチャイムが鳴り響いていた。

『あ～チャイムが．．．。これは遅刻決定だな』

「．．．ごめん」

髪をワシャワシャとかきす森塚が、小さなため息を吐いて校庭を見回した。

『あー違うから。俺が迎えに行くのが遅かったのが悪い』

「．．．うん。それは知ってる」

『．．．容赦ねぇ』

冬李が小さく頷いてカバンを肩にかけ直す。口まで數メートル。スタスタと歩きだす冬李を森塚が追いかけた。

＊＊＊＊＊

久しぶりに張する。最悪な思い出しかないココに、自分の意思でまた來ている。

『大丈夫か？震えてる．．．』

「．．．震えてない」

『．．．教科書とか持ってないだろ。職員室行ってクラスとかも聞かなきゃいけないし』

職員室、あの頃と先生が変わってればいいけど．．．その可能は低いだろう。ここの學校は木がを張る様に永く住み著いてる働いているヤツが多い。

『俺もついて行こうか？』

「っそれぐらい！．．．それくらい僕だけで行ける。アンタは先に行ってくれればいい。遅刻してるんでしょ？」

『．．．わかった。帰りも一緒に帰ろうな』

獨りで行ける。隣に誰もいなくたって、今までずっと獨りだった。今更．．．

「．．．アンタの自転車なしじゃ帰れないから、そうさせてもらう」

『おう』