《~大神殿で突然の婚約?!~オベリスクの元で真実のを誓います。》古代の神々に聞こえる。神殿ではお靜かに
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アケト・アテン王國の中樞、首都カルナヴァルの大神殿は代々の王の居住地である。溢れる空と広大な大地が見渡せる絶景は、王であるティティの住まいでもある。
――先日までは……の話。
(突然現れた軍事國テネヴェからの軍に、居城は瞬く間に押さえられた。父と母にはまだ逢えていない。王のわたしだけ捕獲され、王の前に引き摺り出され!)
「さて、我が妹。思う存分ぶはいいが、古代の神々に聞こえる。神殿ではお靜かに」
はっと口を押さえた。兄モドキのラムセスの口調が獨特の冷たさではあるが、優しくなった。背後の男がちら、とラムセスを見やる。充しているかの如く赤い瞳。まるで夜の狼。獰猛な気配だが、笑顔は意外にも普通で、拍子抜け。
「背後の狼はおまえのために、呼び寄せた。神殿を追い出されても、商人の妻としてなら、まァ、裕福な暮らしができるはずだ」
(商人の妻?)首を傾げたティティの前で、ラムセスはすっと王座から立ち上がった。
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頭に來る冷靜なこの態度。近づくなり、スイと指で顎を引かれた。
「フフ、どことなく、似ている。妹か。やはり兄妹がいる事実はいいものだ」
ティティは至近距離で兄モドキを睨み上げ、憎まれ口を叩いた。
「どこが兄妹よ。似てないわよ。わたしは平然と侵略を企てる険な目はしていない」
(――がつっと顔を捕まれた。面白がられている)
屈辱を噛み締めたティティに気づき、ラムセスはニィと眼を細めた。
「殘念だ。妹でなければ、我が妻にし、神殿に住まわせてやれた。しかし、妹となれば、さすがの俺もそばに置けないし、父と母のように消すも忍びない。なかなか好みの顔をしているが、神の教えには背けないな」
意味の分からない言葉を並べるだけ並べて、ラムセス王は笏丈をティティに向けた。
「謝しろ。マアト神の裁きが蔓延る世界に、一人では生きて行くも辛かろう。俺の親友を伴として授けてやる。ティティインカ王、王の厳命を下す。イザーク・シュラウドの妻として降嫁せよ。イザーク。いい加減にティティのほうへいけ」
「すまん、ついつい特等席で鑑賞しちまった。やり取りが微笑ましくてね」
かな聲が耳に屆いたが、言葉が出ない。ティティは眼を瞠って、ラムセスを睨んだ。
「このわたしに、商人の妻になれと? わたしはかのラムセス十六世の第一王」
「死した王になんの権限もないだろうに」
(――死した? 死……?)憂うティティに気付いたのか、狼がズカズカと歩いて、ティティの橫に並ぶ。蹌踉けたティティの肩をしっかりした腕が摑んだ。
「おい、ラムセス。に噓は良くねぇ。――生きてるぜ。貴の両親。俺が逃がしたんだから間違いがない。そもそもラムセスの目的は――おい、大丈夫か」
ほ……。安堵と緩みを顔に出して、ティティは思わず両手で頬を叩いた。くるりと背中を向けた。敵の前で安堵を見せた、自分への怒りがわき上がった。
(正統なるアケトアテン王國王たるもの! このままにはしないわ)
ティティは袖に手を突っ込み、お護りを確認した。こっそり握った石はスカラベと呼ぶ。中に生きた蟲を詰めて使うことで、古代神への渉するになる。
(奧の手、出してやる。誰が大人しく言うことなんか聞くか。もう容赦ナシ。全力で行く。まとめて、スカラベに封じ込めてやるんだから!)
アケトアテンにおいて、甲蟲を使用した寶玉呪は大切な祭事。男二人に虛仮にされたティティは怒りをぐっとこらえ、ふんと言い放った。
「貴方、わたしの能力を知らないようね。わたしは生まれつきの呪の能力がある。運命や諱が分かれば、あんたの運命もちっぽけなスカラベに変わるのよ!」
「まさか、おい、ラムセス。この王、本の呪使いか……?」
イザークがティティを窺ったが、激昂しているティティにはどうでもいい。冥府への渉の神はネフティス神。助力を願い、一杯呪文を込めるだけだ。
〝ティ、いーい? 神さま一人一人にちゃんと想いを込めるのよ。必ず、応えてくれるから。でも、何が在っても、憎しみを込めてはいけませんよ〟
母の優しかった呪を思い出す。でも今、憎しみを込めなかったら、いつ使うのか。
(わたしはどうなってもいい。――そのための、神が許した呪力だ)
「やれるものならやってごらん。だが、それには俺の魂名――諱が不可欠。面白い。古の呪を扱えるとの噂は本當か。ははっ、兄妹喧嘩の発展系が古代呪か! 面白い、面白いぞ、気にった、妹……!」
「おへそまがり! 言葉に二言はないわね? 厳格なネフティス神の前で、みっともなく土下座すりゃいいのよ! 父と母を帰して! 闇に取り憑かれて消えなさい!」
スカラベを指に挾み、呪文を思い浮かべた。
(諱なんか知らなくても、冥府の神の力で鉄槌は下せる……やってやる!)
突如肩をぐいと引き寄せられた。イザークの腕環が視界に飛び込む。やたら高級な紅水晶は磨かれて、ティティの憎悪を映していた。
「巻き添え食らいたいの? そうよね、貴方も同じ立場のようね!」
「王、落ち著け。相手は愚兄かも知れないが、今やこの大陸のアテインアテン王だ。神の代弁者を殺せば、あんたの命も危なくなる」
ティティは震える腕をまっすぐにラムセスに向けた。イザークはじずに、ゆっくりと予言者のように耳元にを寄せ、諭す口調になった。
「王。王が無事であることをあんたの両親はみ、地を去った。自分たちの命は構わない。だから、ティティインカを助けてくれと。ラムセスはあんたを殺そうとはしていない。――俺と結婚することが、たった一つの生き延びるだと理解しろ」
「生き延びる……」呆然と洩らした呟きに、ひゅっと怒りが消えてゆく覚。
イザークは、ゆっくりとティティから視線を逸らさずに繰り返した。一縷も視線を外さない。赤い眼の後では、元のの灰の瞳が煌めいている。
(なんて、強い眼差し。燃えてるみたい)
ティティは小さく頷き、を軽く咬んだ。ラムセスへの怒りもあるが、窘められて気力負けした事実が悔しい。
「邪魔したな。だが、生き延びれば、親父さんたちに逢える。相手が俺で良かったな。歴代の王たちが辿った捕虜の運命を考えれば分かるだろ? さすがの悪魔の親友も妹に手はださんようだ」
翳した手から、スカラベがするんと落ちた。きを止めた頭上では、イザークが聲を張り上げていた。
「ラムセス! 予定通り、俺は王を連れて行く。行こう、ティティインカ王」
「フン、マアト神の裁きがあらんことを」
最大の厭味を最後に、ラムセスは背を向けた。吐息と共に、腕の力が強くなった。
――泣くものか。空を見上げた。はあるが、太など見當たらない空を。
note+ノベルバ+アルファポリス+電子書籍でエッセイ、小説を収益化しつつ小説家を目指す日記
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