《~大神殿で突然の婚約?!~オベリスクの元で真実のを誓います。》溢れる空に、突き抜けるようなオベリスク

*2*

「今日こそで・き・る・か・な~♬」

ティティがイザークと過ごし始めて、一週間。不貞不貞しくもイザークは婚約用の腕環を買いに出かけた。さあ、スカラベ準備の寶玉呪の絶好の機會到來である。

(わたしはラムセスへの仕返しを諦めたわけじゃない。父母を探すはその後よ)

機上の石版柄のツボに手をばした。寶玉がぎっしり詰まっている。

(ふうん、品は悪くないわねぇ。いい仕事しているようね。失敬)

ティティは覗き込むと適度な大きさの原石を五つほど、選んだ。

「やすり、ナイフ、それから、布……肝心の甲蟲探しに行かないと」

ティティは外へ出ると空を見上げた。かなり明るい。一週間のマアトの裁きの後の空気は晴れやかだ。ティティの心とはちょっぴり裏腹。

神の裁きが橫行している世界の人々は今朝も怯えながら、一日を始める。

ティティは空全る不思議な天空を睨み、甲蟲を備に探した。

「いた、いた。いらっしゃい。ほら、ほらほら」

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二匹を捕獲し、念を込める。左手に原石。右手に甲蟲を持って、指を組み合わせる。

「呪力、大いなる三柱神がひとり、ネフティスに捧ぐ――……」

願うような心地で、ティティは冥府の神ネフティスへの呪文を口にした。ぐ、と組み合わせた両手をふくよかなに押しつける。この瞬間はいつも熱い。神力も奪われる。蟲と心を通じ合わせ、神への渉を始めるのだから、當然といえば當然か。

(く……ぅ……まだまだ……! 我慢、我慢よ、ティティインカ……!)

チリ、と音がして、怖々手を開くと、真っ青な原石に溶けて封じられた甲蟲が靜かに転がっていた。を掛けると甲蟲は玉蟲る。しい合いだ。

(本當は魔除けか護なんだけど……をかけるは一緒。ま、何とかなるでしょ)

「會心の出來! これで、準備は整ったわ!」

後はイザークの帰りを待つだけ。ティティは荒ら屋を振り返った。神殿のごみ置き場にもなさそうな末なコップ。食事はもっと貧相だった。寢場所は固いし、お風呂も何もかもが貧相の一言で済む。

(イザークは買い付けた商品を売るため、神殿に向かう。一緒に行って、ラムセスに目にモノ見せてくれるわ。わたしは王。商人の妻になんてだーれがなるものですか!)

一仕事を終えたティティは荒ら屋をそっと出た。

(不思議なものね。神殿を外から眺めるなんて……オベリスク、まだ建ってる……)

溢れる空に、突き抜けるようなオベリスクは、側面に王の名や神への讃辭が聖刻文字で刻まれた霊碑だ。先端部はピラミッド狀の四ピラ角錐ミディオンになっており、金や銅の薄板で裝飾され、を反して輝く。通常は王ファラオを追われた一族のオベリスクは片っ端から一番に叩き壊される運命にあるはずだが、父のオベリスクは変わらずにあった。

しておくということは、ラムセスのお馬鹿は何を考えてんのかしら。わたしも殺さずに降嫁させてるし。変人は理解できない。父と母をどこへやったのよ!)

――生きていると信じよう。きっと父と母は生きている。重のお腹を抱え、生き延びている。イザークは逃がしたとはっきり言ったわ。でも。

「仇はわたしが取る。何としてもラムセス王の諱を暴いてね!」

オベリスクが歪んだ。ティティは指で目頭を押さえた。

(父上、母上……逢いたい……どこへ行ったの……寂しさの悪魔がやって來るのよ)

「寂しいなら、俺らがめてやろーか? お嬢さん?」

ティティはいつしか、數人の男達に囲まれていた。(不愉快)とくるりと背中を向けた。ふわんと膨れた髪が軽く跳ねた。男たちがヒュウと口笛を吹いた。

「あっち、行って。相手にするお暇はないの」

「へへ、そんなツレない言葉吐くなよぉ~?」

ティティはスカラベを握った。どうやら脅してやらねばならないらしい。

(ええと、の呪はアヌビス神への呪文だったわね……)

しっかりとスカラベに念を込めたところで、真橫にあった樽が突如吹っ飛んだ。驚くティティを過ぎて、樽は男たちに飛び込んだ。

(なに? 何が起こったの? もう、次々なんなの!)

音にあっという間に涙は引っ込んだ。塵をゴホゴホと手で払った長がぬっと立った。著やせするが大柄だ。聡明そうでいて野的な瞳は常にギラギラと滾るように赤く輝いている。爪先がザザッといた。

イザークだと気付いて、ティティはほっとしたも束の間、猛獣の唸りに飛び跳ねた。

「俺の妻(予定)を泣かすヤツはどいつだ! 片っ端からぶっ壊してやるから、並べ!」

「誰が妻(予定)よ! だ、大丈夫、いいからっ!」

「そういうワケに、行くかァ……っ! ティティ、下がってろ……」

両腕を強く引いてイザークが怒鳴る。男たちの一人がさっそく、餅した。

「久しぶりに妻(予定)に會えると思いきや、てめぇらァッ……」

餅の頭を摑み、地面に伏せさせて、泡を吹かせると、イザークは次の獲を睨んだ。しかし、獲たちは蜘蛛の子を散らす如く逃げ去った。怒號が追いかけてびた。

「待ちやがれェ! 俺の妻(予定)を下卑た眼でニヤニヤ見やがって!」

手がつけられない猛獣イザークの腕を強くつねって、ティティは頬を膨らませた。

「あたしが勝手に泣いたのよ! ありがと。……苦いお茶くらい、淹れてあげる」

ティティの厭味混じりの禮に、イザークはにっと笑った。

(帰って來た、良かった。もう一人じゃない)

心の緩みに気付くなり、ティティはそっぽ向いた。

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