《~大神殿で突然の婚約?!~オベリスクの元で真実のを誓います。》死した霊魂(アク)は魂を置いて、星になる

*5*

イザークは西の対岸に、ティティは東の対岸に。ティティの手にはドドメの石。呪がどうも巧く行かなくなった。これで、三つの石をフイにした。

(変な。捨てちゃおうかな、もう)こそっと失敗作をポケットに収めたところで、ネフトと居住を共にしているの子たちと、ネフトが星墮しの話を始めた。

「星の節が來るとね、サアラが剣を使って、子供達のために星を降ろすの。まあ、あいつは元々夜空に縁があるから大道蕓のようなものね。マアト神は星の節にはこの世界から遠く離れるから、その隙に、一人でも多くの親を弔うために、星を降ろすのよ」

すっかり定位置になったネフトの隣で、ティティは首を傾げた。

神話では、霊魂はアクと呼ばれ、死した霊魂アクは魂を置いて、星になる。夜空の神が可哀想な霊魂アクを拾い集めて星座にした。お伽噺かと思っていた。

極端に肩を剝き出しにした服は背中がガラ空きだ。同じでも、ネフトの魅力にはくらくらする。を極めたような赤いで、ネフトはし低い聲を響かせた。

Advertisement

「今からしばらくは、マアトの裁きもないわ。貴方たちの呪いが暴発することもない。心配しているの。古代からの男の繋がりは、超新星以上の力を持つ」

ティティが右眼を軽く押さえる前で、ネフトは遠慮なく続けた。

「実際に、イザークは有り得ない力を発揮した。怖ろしいのよ、人のの強さは。だから夫は危懼して貴方たちを離したの。イザークの滯在するとここは大きく隔てられている上に結界がある。往き來できるのは私たちだけ」

ティティは涙目で黒い海で満たされた海面を見詰めた。

(イザークは、あの夜を覚えてはいない。あの時のイザークはどこか虛ろで変だった。あの〝聲〟も。月の悲鳴に共鳴していたのは覚えている)

「これはマアト神の呪いをかけようとした人間への罰。だから、わたしはイザークに逢えないのですか! 護符スカラベ、駄目なの。イザークを想うと、変なになるの!」

また変な言葉を口走った。ティティは俯いて、ぱっと顔を上げると、そそくさと膝に重ねた厚紙を手にした。船を折って海に浮かべるのだと子供達は大喜びをしている。

「さ、さあ、これ、全部折るんですよねっ!」

「ティティ」ネフトの口調が諫めるようなものになった。手がびてきた。ぱん、と両方の頬を一緒に叩かれ、指先で擽られた。

清純なネフトの眼に曬されて、ティティはうつむき加減になろうとして、またそっと顎を持ち上げられた。ネフトの深い海のような瞳に囚われて、景が歪んだ。

「正直になりなさい。ぱんぱんにに我慢詰めて何になるの。わたしの前でなら良いでしょ? さあ、言うのよ、貴の為だわ。分かっているわね?」

イザークに逢いたいと言う言葉が、わたしの為……ティティは涙をらせて、ネフトを見やる。ネフトの服を摑んだ手が微かに震えた。

「逢いたい」

ぽそっと呟くなり、大粒の涙が零れた。

(王のわたしを泣かせてくれる相手など居やしなかった。それでも、イザークの前では何度涙を浮かばせただろう。心地良くて、ずっと手放したくないと思った)

「わたし、イザークと引き離したサアラさまを好きになれません。ネフトさま、わたしは臆病だから、理由をつけては心を見ないようにしているんです」

震えた手に涙が落ちた。

「イザークの腕は溫かいし、怖いことなんてないと思えるから。王のわたしがをやつして、商人ギルドに降嫁した事実も、気にらないから、だから理由が必要だった」

濁流になった。ネフトの指先がすっと下瞼にれ、引いていった。

「逢いたいって思ったのでしょ? ずっと一緒にいたいと思ったのでしょ。されたいって思い始めたのでしょ? 人は心とを同時に結びたがる生きものよ。まずは心から結んだらいいのよ」

さわわ……と海風が吹いた。夜の匂いがする。月が啼く音はしなかった。

「マアトがこの世界から遠ざかったようね」

ネフトは空を見上げ、指を指した。星が空を橫切ってゆく。

「今夜は星降る夜。きっとイザークも來ているはず。綺麗な景が見られるわ。想いを伝えなさい。古來より、夜空はするの子の味方。護符スカラベはね……フフフ」

「なんで笑うの……だって、こんな……綺麗に染まらないの」

「それが、貴のイザークへのドロドロってことね」

ドロドロ。確かに……ティティはぽすっとドドメの護符スカラベを仕舞い込んだ。

「二人でドロドロになっちゃえば、案外すっきりしたりして」

茶目っ気口調の前で、星がすぐ近くの海に降ろされ始めた。閃が空を駈けた。星の煌めきを詰めた夜の海は夜空にも匹敵する。踝まで海面に浸からせたサアラの側に、幾つものの粒が押し寄せてはすくい上げられてゆく。

「マアトはただ、裁く神。この世界が間違っていると思うなら、変えればいい」

ネフトの手は溫かかった。しゃくり上げるティティに屈むと、ネフトは子供をあやすかのようにティティに告げた。

「自分で、誰が味方で、何が真実マアートかを見極めながらよ。イザークが來ているわよ。行きたいなら、行きなさい。今なら逢えるわ」

ネフトは視線を前方に向けて投げた。ティティはもう立ち上がっていた。

(知らなかった。わたしはを狩りに行く格だった。絶対伝えて見せる。わたしのは、わたしが決める。だから、わたしはちゃんとイザークに想いを言うわ)

世界を変える。まずは、自分の世界から、変えて行こう――……。

    人が読んでいる<~大神殿で突然の婚約?!~オベリスクの元で真実の愛を誓います。>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください