《~大神殿で突然の婚約?!~オベリスクの元で真実のを誓います。》マアト神の名を刻んだオベリスク
*3*
「電気を燈せ。呪師に、テネヴェのを見せてやろう」
(でんき?)聞き覚えのない言葉に耳を疑っていると、王座の後の壁がき、が當てられ始めた。しかも、神への干渉もなく、耀が部屋を満たし始めた。
(テネヴェは室にを起こせるの? 信じられない……え)
――これは、なに。
時代に不似合いな加工品オーパーツ。電気の前には、火影と思いきや、真っ赤なオベリスクが聳えていた。巨大なオベリスクは天を衝くように真っ直ぐにびていた。
外で見えたオベリスクだ。階段をしずつ昇り、近づいていた事実に今更気付く。
(赤く錆び付いたような。こんな不吉なオベリスクは見た覚えがない。マアト神のオベリスク? 見つければなんとかなるって、イザークが言っていた)
イザークはまだむっつりと腕を組んだまま、言葉を発する素振りを見せない。
「マアト神の名を刻んだオベリスク。幾人もの士が解こうとして、皆がオベリスクとなった様子です――衛兵、その男に刃を向けておけ。邪魔されるも厄介だ。呪でを。イアと言ったか」
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ティティはイザークを振り返った。いつもなら抵抗するが、その素振りもない。「行けば?」の威圧の態度。
(何よ、らしくない。わたしは戻りたくても神殿に戻れないのに、ばか。でも、離れるの怖いな……)
「どうしてイザークに剣を向けるの?」
「保険です。貴方にはある呪を解いてしい。だが、そいつは邪魔をする悪魔だ。だから、牽制を。殺さないだけ有り難く思えばいい。貴方が命令を聞かぬなら、すぐにでも兄は死ぬでしょうね。ちょうどひとしずくで死ぬサソリの毒を試したかった」
〝でないと、殺されたさ。これから逢う人間に、言葉は通用しねえよ〟
イザークの弱気な呟きを思い出した。そうだ、イザークはこと、クフ王に関してはいつもの強気を発揮しない。でも、イザークが縛られていては、いざとなった時――。
不安に捲かれ、考えた挙げ句、「らしくない」とぽそっと呟いて、ティティはクフに向き直った。
らしくない、はティティ自へ。でも、そうしないと、イザークがどうなるか。
ティティは手をぺたりと床につけた。らしくない態度を取った。
「行くから、イザークの縄を解いて。お願い。言うこと、きくから。サソリなんか止めて。なんでも、言うことを聞くから」
窺いながら仰ぎ見たクフの顔は忘れられない。
斜め上にある表は人のなどじられない、神の畏怖に塗れたものだった。
***
「足元にご注意を。おまえたちはここで待て。ここからは王族以外はれない神域」
サアア……とティティの視界が半分遮られ始めた。
〝マアト神は此の世と別の世界を往き來する〟
――マアト神が戻って來た!
(また、裁きが始まるの?)
片眼の違和に耐えつつ、地下階段を降りる。螺旋になっている階段は、オベリスクの最下部までびていた。
「ここが最終地點だ」クフの聲に向き直った。見上げると頂點は霞んでいて、夜空が見える。
「ねえ、オベリスクって普通、外に建っているものよ? あー、んん。知っている國も皆そうだった。なのに、どうして神殿に建っているの?」
王は嗤いを浮かべたまま、片手をさっと袖に隠し、赤いオベリスクを片手ででた。
(よく、れるものね……呪いをじないんだわ。鳥立ってるのに)
「オベリスクは死者の霊魂アク碑。赤は不浄、、爭い、傲慢、不吉を現す。貴ものこのこと、よく命令に従えますね。プライドがないのか」
ティティはを曲げた。クフの告げる言葉は正論だが、あまり良いものではない。
(兄弟なのに、格が違う。イザークは不吉な言葉を口にはしない。それよりイザークの事を聞きたいのよ。実は嬉しかった。イザークが王子なら、対等の立場でを張れる。王子姿のイザークも、きっと凜々しいと思うの)
ティティはすうと息を吸った。
「わたしはティティインカ。元アケトアテン王の娘。新王の命令で降嫁して、イザークの妻になる分よ。夫(予定)の事を知りたいの」
年王は驚き、呪師が「いいのですか」と聲音靜かに聞いて來た。
「諱を口にすれば、誰にともなく呪われる。どうやら偽名ではなさそうだ」
――世界で、なくしてはならない大切なもの。それが諱だとイザークは告げた。
「貴方のお兄様が言っていた。諱があるなら、生きて行けるって。呪うなら、呪えばいいわ。わたしは自分に恥じたりしない。諱は、大切なものだから、恐れないの」
「クフと呼んでいい」年王はさも可笑しそうに告げた。
「諱はクフィルート。今後の諱は「進化の王」、悪諱は恐らく、「神への反逆者」かと」
クフは屈託のない笑顔を浮かべ、オベリスクを靜かに見上げた。恐怖に慣れると、今度は呪の心得からの好奇心が沸き上がった。名をやり取りしたことで、安心もあった。ティティはオベリスクを見、瞬きを繰り返した。
「霊魂アクが塗り込められてる。天に還してあげたほうがいいけど、わたしは、せいぜいイザークを呪うくらいが関の山。ねえ、もうちょっと近寄って大丈夫?」
「どうぞ。どうぞ」(言って良かったのよね?)と訝しんでいるティティの背後、クフは小刻みに震え始めた。
「そうか……兄に呪いをね……」
クフは肩を震わせ始めたと思うと、仰け反って、大笑いを響かせた。マアトに顔を塗った無言の神ソルたちが駆けつけてきた。中央で、クフは両腕を広げ、笑いを響かせ、袖に手を突っ込んだ。
「まあいい。存分に見てやれ。塗り込められた霊たちも悅ぶだろうから」
(何がおかしいのよ。ううん、異常は、このオベリスクだわ。神への冒涜でしょう。テネヴェで、何かが起こりそう。嫌な予がする)
オベリスクに夢中のティティは、年クフ王がマアト神の聖刻文字が刻まれた短剣を握り、忍び寄っている現狀に気付かなかった。
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