《Waving Life ~波瀾萬丈の日常~》8話 花紅柳緑
花紅柳緑
1
「私ね。昔から剣也君の事が好きだった……。だからこういうこと、したんだ……」
絵里の告白を聞いて、俺は嬉しかった。
でも、その気持ちよりも疑問に思う気持ちの方が強かった。
「昔からってどういう事だ?」
俺には、過去に絵里と會った記憶はなかった……。
「やっぱり覚えてなかったか……。私と剣也君、小學校一緒だったんだよ?」
「ほ、ほんとに?」
小學校の記憶はあまり無い。
元々、過去のことを覚えていることが苦手だったため、記憶が無いということに疑問はなかった。
しかし、本當に小學校が同じだったなら、同じ中學校に行っていたはずだ……。
俺には、絵里が中學校にいた記憶もない。
「私の家は親が転勤繰り返しててね。小學校卒業と同時に、この町を1回離れてるの。でも高校からはまたここに転勤になって……。だから今は明日葉高校に通っているの」
疑問に思っていたことを絵里は説明してくれた。
絵里と再開した、この前の遊園地。
Advertisement
あの日に、初めて『絵里』と呼んだ時、俺はあまり違和をじなかった。
それは、恐らく小學校の時の呼び名も『絵里』だったからなのかもしれない。
「小學校の卒業式の日に私たち、大事な約束したこと覚えてる?」
「悪い……。何のことか……」
さっきも言った通り、俺は小學校の時のことを全然覚えていない。
もしかしたらどこかで思い出すかもしれないが、今は覚えていないと言う他なかった。
「そっか、そうだよね。……うん。また別の機會に話すよ。おやすみ」
彼はそう言って、頭から掛け布団を被ったので俺もそれ以上追求するのもやめた。
俺は、
「おやすみ」
と一言殘して、絵里と同じように掛け布団を頭から被って眠りについた。
2
「おはよう」
隣からそう挨拶が聞こえた。
夜被ったはずの掛け布団は、寢ている間に飛ばしたらしく、目には朝の眩しいが窓を通してってくる。
を起こして、絵里を見ると優しく微笑んでいた。
「お、おはよう。いったい、何時に起きたんだよ?」
Advertisement
彼を見るともう著替えて布団もたたんである。
それに髪もセットして、制服も來ていたので、結構早い時間から起きていたことが分かる。
もしかしたらよく眠れなかったのかもしれない。
「え?さっき起きたばっかりだよ?」
「そっか……」
攜帯の時刻を見ると、午前5時半。
朝食までは時間がある。
「朝ご飯食べる?作っておいたよ」
絵里はそう言った。
本當ならば、さっき起きたというのは噓のようだ。
「え……。もてなすのはこっちなのに、なんか悪いことしちゃったな……」
「あ、でも勝手にキッチン使わせてもらった……。ごめん」
「いや、謝るのはこっちだ」
何とも言えない、気まずい雰囲気になった。
両者無言で、どうしようと思っていると、絵里がその雰囲気に終止符を打つ。
「食べに行こっか!」
「そうだな」
俺たちは2人で朝食を食べに向かった。
朝食を済まし、俺は部屋に戻った。
先に食べ終えて部屋に戻っていた絵里は、帰る支度をしていた。
「帰るのか?」
「1回帰ってから學校に行くから」
「分かった」
俺はじていた。
絵里がどことなく元気がないことに。
聲のトーンがいつもより低く、絵里らしくなかった。
昨日のことが原因だというのは把握している。だけど、今の俺にはどうしようもなかった……。
自分の無力さに、苛立ちを覚えた。
結局、何も出來ず絵里を玄関まで送りに來た。
「々ごめんね。私のワガママ聞いてもらって……」
絵里は靴を履きながらそう言った。
「いいよ。こっちも大したおもてなし出來なくてごめん」
さっきと同じ空白の時間が流れる。
お互いの間に重苦しい空気が漂っている。
「じゃ、また學校でね」
「あ、ちょっと待て」
俺はポケットから5000円を取り出した。
「ごめん、返すよ」
「……、け取れない……」
彼はそう言って拒んだ。
そして視線を下に向け言葉を続ける。
「それをけ取れば、これで終わってしまう気がするから……」
「で、でも……」
「あ、ごめん。早く行かないと……」
絵里はそう言って俺に背中を向けて家から出て行った。
何をどうすればいいのか。
何一つ分からない俺は、絵里が帰った後も玄関からくことが出來ず、ただ立ち盡くしていた……。
3
あれから時は流れた。
何事もないいつも通りの平穏……、とは言えなくはなかった。
表現が曖昧なのは、絵里の元気が無い狀態がまだ続いていたからだ。
何も考えずに過ごした訳では無い。
もちろん対策も考えた。
でも俺が話しかけたところで、逆効果になる気がする。
そんなマイナスなことが脳をよぎって、全く実行に移せていなかった……。
その日、俺はいつも通りに蘭華と登校した。
教室にったその時だった。
俺も蘭華も異様な教室の雰囲気に気付いた。
クラスメイト全員の視線がある1點に集まり、何かをコソコソと話している様子が見られる。
クラスメイトの視線の先を見てみると、そこには昨日までとはまた違う、一段と元気の無い絵里がいた。
一見、ただ突っ伏しているようだが、近づき難いオーラを出しているので、嫌でも注目が集まってしまっていた。
「なぁ、蘭華。何か知ってるか?」
隣にいる蘭華に聞くが、知っているわけがない。
知っているのは、俺しかいないって分かっているはずなのに……。
自分のせいではない。そう思いたい格の悪い俺が、そういう言をさせている。
「分かんないよ……」
蘭華はとても彼を心配している様子だった。
當然だろう。普通、友達っていうのは自然とそうするものなのだから。
一方、俺はどうだ。
心配していない訳ではない。
でも、こうなった責任は自分ではないと自分を肯定しようという醜い行いをしている……。
今までのことは、もういい。過去は決して戻っては來ない。
だけど、今からは話が別だ。
俺は、彼をあのような狀態にしてしまった責任がある。
彼が復帰するまで、サポートする。それが俺の務めではないか。そう思った。
俺はここに來て漸ようやく、放課後に聲をかけることを決斷した。
放課後。誰もいなくて音のしない靜かな放課後の教室は、學してから一度も経験したことがなかった。
俺は、今日の最後の授業が終わったあと、蘭華に先に帰ってもらうように伝えて、ずっと自分の席に座ってこの時を待っていた。
絵里は、朝の狀態が今も続いている。
授業中もずっと突っ伏していて、彼の友達と話す様子も無かった。
俺は、席を立ち上がって彼の元に行き、聲をかけた。
「どうしたんだ?絵里」
「え、え?け、剣也君か……。びっくりした」
とても驚いた表の彼。
でも、明らかにいつもの絵里の顔ではなかった。
目を赤く腫らし、し疲労もじ取れた。
「で、何があったんだよ?」
「剣也君……」
「何?」
彼は、今まで俺を見ていた視線を落とし、同時に聲のトーンも落とした。
「あの日……、気持ちを伝えてから急に、剣也に話しかけ辛くなって。話しかけることもできない自分が腹立たしくて、恥ずかしくて……」
「ごめん……。それに気づけなかった俺が悪かった。ずっと悩みを抱えこませてしまって……。無力な俺を、どうか許してほしい……」
俺がそう言うと、慌てた様子で顔を上げて止めにかかる。
「ち、違うの!剣也君は謝らないで!全部私が悪いの!自分で自分を追い詰めたから、こんなけない姿になって……」
もし俺が、彼に話しかけていたら……。
きっとここまで苦しまずに済んだのに……。
俺はその事が申し訳なくて、俺はただ謝ることしか出來なかった。
「ごめん、本當にごめん……」
「だ、だからぁ!謝らないでよ〜」
し困っている様子で、再び止めにかかる。
気付けば彼の聲のトーンも、表もしずつだが、あの時以前のものになってきていた。
時間が経つにつれ日は傾き、青かった空は次第に赤に染まっていく。
その赤のせいなのかどうか分からないが、絵里の頬は薄らと赤く染まってきている気がする。
「って、難しいね!」
そう言った彼の笑顔は、あの日から今まで見ることのなかった笑顔の分を取り戻すくらいの、弾けた笑顔だった。
俺は呆気にとられてしまい、言葉が出てこない。
そんな様子を見てか、
「じゃあ、帰ろっか!」
と言って、立ち上がった。
帰る支度をする絵里を見て、俺も帰る支度をした。
そしてその合間合間に、彼の表を見たが、もう心配する必要はなさそうだった。
その後、俺と絵里はそれぞれ家に帰っていった。
蘭華、それに絵里にも告白された。
その事実を俺はけれられていなかった。
俺は彼たちに対して、がない。
つまり、俺は彼達のことをの意味で、好きだと思っていないのだ。
ただ、このままにしておいてはいけない。
いつかは、出來れば早くそれぞれに答えを出さないといけないのだ。
しかし、そうであるにも関わらず、何をすればいいのか分からない。
どうするのが正しいのだろうか……。
後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりを受けて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜
「すまん、我が家は沒落することになった」 父の衝撃的ひと言から、突然始まるサバイバル。 伯爵家の長女ヴェロニカの人生は順風満帆そのもの。大好きな婚約者もいて將來の幸せも約束された完璧なご令嬢だ。ただ一つの欠點、おかしな妹がいることを除けば……。 妹は小さい頃から自分を前世でプレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢であるとの妄想に囚われていた。まるで本気にしていなかった家族であるが、ある日妹の婚約破棄をきっかけに沒落の道を進み始める。 そのとばっちりでヴェロニカも兵士たちに追われることになり、屋敷を出て安全な場所まで逃げようとしたところで、山中で追っ手の兵士に襲われてしまった。あわや慘殺、となるところを偶然通りかかった脫走兵を名乗る男、ロスに助けられる。 追っ手から逃げる中、互いに惹かれあっていく二人だが、ロスにはヴェロニカを愛してはいけない秘密があった。 道中は敵だらけ、生き延びる道はたった一つ。 森の中でサバイバル! 食料は現地調達……! 襲いくる大自然と敵の兵士たちから逃れながらも生き延び続ける! 信じられるのは、銃と己の強い心だけ! ロスから生き抜く術を全て學びとったヴェロニカは最強のサバイバル令嬢となっていく。やがて陰謀に気がついたヴェロニカは、ゲームのシナリオをぶっ壊し運命に逆らい、計略を暴き、失われたもの全てを取り戻すことを決意した。 片手には獲物を、片手には銃を持ち、撃って撃って擊ちまくる白煙漂う物語。 ※この物語を書く前に短編を書きました。相互に若干のネタバレを含みます。またいただいた感想にもネタバレがあるので読まれる際はご注意ください。 ※続編を別作品として投稿しておりましたが、本作品に合流させました。內容としては同じものになります。
8 54【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族戀愛~
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下著泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 當たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏 24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以來、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 戀愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を與えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以來、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 表紙畫像 湯弐様 pixiv ID3989101
8 107殘念変態ヒロインはお好きですか? ~學校一の美少女が「性奴隷にして」と迫ってくる!~
「私を性奴隷にしてください!」 生粋の二次オタ、「柊裕也」はそんな突拍子もない告白をされる。聲の主は──學校一の美少女、「涼風朱音」。曰く、柊の描く調教系エロ同人の大ファンだそうな。そう、純粋無垢だと思われていた涼風だったが、実は重度のドM體質だったのだ! 柊は絵のモデルになってもらうため、その要求を飲むが…… 服を脫いだり、卑猥なメイド姿になるだけでは飽き足らず、亀甲縛りをしたり、果てにはお一緒にお風呂に入ったりと、どんどん暴走する涼風。 更にはテンプレ過ぎるツンデレ幼馴染「長瀬」や真逆のドS體質であるロリ巨乳な後輩「葉月」、ちょっぴりヤンデレ気質な妹「彩矢」も加わり、事態は一層深刻に!? ──“ちょっぴりHなドタバタ系青春ラブコメはお好きですか?”
8 173社長、それは忘れて下さい!?
勤め先の會社の社長・龍悟に長年想いを寄せる社長秘書の涼花。想いを秘めつつ秘書の仕事に打ち込む涼花には、人には言えない戀愛出來ない理由があった。 それは『自分を抱いた男性がその記憶を失ってしまう』こと。 心に傷を負った過去から戀愛のすべてを諦めていた涼花は、慕い続ける龍悟の傍で仕事が出來るだけで十分に満たされていた。 しかしあるきっかけから、過去の経験と自らの不思議な體質を龍悟に話してしまう。涼花は『そんなファンタジックな話など信じる訳がない』と思っていたが、龍悟は『俺は絶対に忘れない。だから俺が、お前を抱いてやる』と言い出して―― ★ 第14回らぶドロップス戀愛小説コンテストで最優秀賞を頂きました。 2022/5/23に竹書房・蜜夢文庫さまより書籍が刊行予定です! お読みくださった皆さま、ほんとうにありがとうございます。✧♡ ★ 設定はすべてフィクションです。実際の人物・企業・団體には一切関係ございません。 ★ ベリーズカフェにも同一內容のものを掲載しています。 またエブリスタ・ムーンライトノベルズにはR18版を掲載しています。
8 169皇太子妃奮闘記~離縁計畫発動中!~
小さな國の姫、アリア。姫の中でも一番身分も低くく姉達に度々いじめにあっていたが、大國の皇太子、ルイス王子から求婚され、三才で婚約した。アリアはのる気でなかったが、毎年會いに來てくれて、「可愛い」「幸せにするよ。」「好きだよ」「君一人を愛する」と言葉に施されその気になっていた。12才でこっそりと皇太子のいる國へ行った····ら、既に側妃を二人娶っていた!しかも女好きで有名だった!現実を突きつけられてアリアは裏切られたと思い、婚約の破棄を父である國王にお願いをしたが、相手があまりに悪いのと、側妃くらい我慢しろ言われ、しぶしぶ嫁ぐことになった。いつまでもうじうじしていられない!でも嫌なものは嫌!こうなったら、円満離縁をしてみせましょう! そんな皇太子妃の離縁奮闘記の物語である!
8 150視線が絡んで、熱になる
大手広告代理店に勤める藍沢琴葉25歳は、あるトラウマで戀愛はしないと決めていた。 社會人3年目に人事部から本社営業部へ異動することになったが… 上司である柊と秘密の関係になる 今日も極上の男に溺愛される 「諦めろ。お前は俺のものだ」 本社営業部 凄腕マネージャー 不破柊 27歳 × 本社営業部 地味子 藍沢琴葉 25歳 本編 20210731~20210831 ※おまけを追加予定です。 ※他サイトにも公開しています。(エブリスタ)
8 107