《Waving Life ~波瀾萬丈の日常~》26話 桃の再來

の再來

1

燦々と照りつける太は、間もなく水平線に沈んでいく。

それを眺めることなく、俺はホテル近くにある商店街を歩いていた。

海で遊び倒した蘭華と絵里、そして半彌は疲れのあまり、ホテルで寢てしまった。

結局、一度も海にらなかった先輩は、電話で事務所のマネージャーさんと話があるということで、ホテルにいる。

優というのは大変なものだ。

午後6時30分。

ホテルにいてもする事がないと思ったので、こうして散歩をしに來たのである。

「ふぁ〜!」

俺も遊び過ぎたからか、かなり疲れていた。

が出るのも不思議ではない。

ここの商店街は、俺達が住んでいるような都會の商店街でないからか、かなり閑散としているように見えた。

人通りはあまり多くない。

俺はそんな通りをスタスタと歩いていく。

『なぁなぁ、俺と遊びに行かない?』

『金あげるからさぁ』

『い、嫌です!離して下さい!』

通りの傍にある細い道の方からそんな聲が聞こえた。

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夜が近づいてきて、ナンパとかカツアゲをするのには都合がいい。

俺はその現場に近づいて、壁にを潛めた。

そして、持っていた攜帯を取り出していつでも警察に通報できるように準備をする。

バレないように、こっそり現場を見ると男2人、が1人いた。

坊主の男はの腕を摑み、もう1人の金髪の男は彼からバックを取り上げようとしていた。

完全に犯罪だ。

金を取り上げることに集中して周りへの警戒が緩んだ隙に俺は警察に連絡をれた。

場所などの詳細を話した俺は攜帯に搭載されているカメラ機能を準備した。

逃げられても大丈夫なように、証拠を撮るためだ。

さぁ、治安に貢獻するとしますか…。

俺は、男達の前へと足を進めた。

2

『カシャ』

カメラのシャッターをきる。

これで証拠は取れた。

「おいお前。何してんだよ!」

金髪の方がこちらに話してきた。

「サツに電話したりしたらタダじゃおかねぇぞ!」

坊主の方も威嚇してくる。

はぁ、殘念。

もうタダじゃ済まないですね。

なぜなら……。

「もうしたから」

それを聞いて彼らは慌てふためく。

そして、ヤクザらしい判斷をする。

「もうお前、帰らせねぇからなぁ!」

坊主の方がそう言うと、2人して近づいてくる。

喧嘩事か…。

まぁ、警察が來るまで持ち堪えればそれでスターになれるし、多のダメージはやむを得ないか…。

そう思って、坊主の方のパンチをけそうになったその時だった。

後ろの方から、誰かが走り込んできて顔の方に一蹴りれた。

坊主の方は建の壁に頭をぶつけた。

もう1人の方は怯んできが止まっている。

「どこ行ったのかと思って、來てみたらこれか…。その覚悟は褒めるが…」

蹴りをれたあとすぐに、金髪の方にの方向を向けていて、顔は見えない。

だが、この聲と後ろ姿は…。

「先輩…。すいません、自分喧嘩は苦手で…」

玲先輩だ。

恐らく、打ち合わせが終わって俺のあとを著いてきたのだろう。

本當に、頼りになる先輩だ…。

「まぁ、任せておけ。これでも空手やっていたからな」

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

俺は通りの方に出て警察が來るのを待つ。

男なのに、の人に任せるなど本當に恥ずかしい。

というか男あるまじき行為なのだが、あいにく喧嘩は苦手なので…。

俺は先輩の方を見る…までもなかった。

俺の僅かのよそ見の間に、先輩は2人のヤクザを倒してしまった。

2人は床にダランと転がっている。もう蟲の息だ。

恐ろしい…。

まさに剣の王。剣の威力が素晴らしい。

俺は先輩の方へ戻る。

「先輩、凄いですね…」

「いや、そんなことは」

「それより…」

俺は、の元に行く。

髪は桃。長い髪のを背中の方で1箇所縛ってある。

その彼はワナワナと震えていた。

ヤクザが怖かったから?

それとも先輩が強すぎて驚いたから?

まぁそんなことは置いておいて、話しかけてみる。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい。だ、大丈夫です。すいません、救ってもらって」

は落ち著きを取り戻した。

顔を見ると、どうやら歳はあまり離れていなさそうだ。

「いやいや、自分はほとんど何も出來なかったですけど…」

実際したのは、警察を呼んだことと挑発したことだけだ。

「そんな事はないですよ。恩人です!ありがとうございました!」

「禮なら先輩に…、あれ?」

俺が振りかえるとそこには先輩の姿がなかった。

後は任せたということか…。

まぁ、ヤクザを掃除してくれただけで十分なので後の処理はやりますが。

「どうして、こうなったのですか?」

「いやぁ、観に來てて商店街を歩いていたらヤクザに絡まれまして…」

そう言いながら、周りに散していた荷をバッグに詰め込む。

「そうですか…。人さんだから絡まれても仕方ないですよね〜」

あれ?俺何言ってんだ?ナンパしてるのは俺のほうじゃないか…。笑。

「いや、そんなことは…。ところであなたの名前は?」

「蔭山 剣也です。高校1年生です」

「本當ですか?凜々しいお方なので、年上かと思いました…。同級生とは…」

いやぁ〜、可い子に凜々しいなんて言われたら照れるなぁ。

「ところでお名前は?」

「桃山ももやま 実咲みさきと言います。宜しければ、メアド換しませんか?」

桃山…。どこかで聞いたような…。

とりあえず、メアドを換した。

「ありがとうございます!」

そう言って彼は微笑む。

辺りはすっかり暗くなって顔は見にくかったが、心なしか明るく見えた。

「まぁ両方観なので、これからは會えないかもしれないですけど、よろしくお願いしますね!」

『ピーポーピーポー』

そんなこんなで警察の人が來て、2人の男は逮捕された。

特に事聴取は無かったので、先に桃山さんを返すことにした。

「じゃあ、おやすみなさい」

はこちらに手を振ってきた。

「おやすみ」

俺はそう一言だけ笑顔で返した。

さぁ、俺はヒーローになった訳だが、何か貰えるのだろうか?

…。

殘念。

警察の人には、

『ありがとう、助かったよ』

と一言貰っただけで、特に何も貰えなかった。

その後、警察はパトカーに乗って警察署へと向かっていった。

何も貰えなかったけど、桃山さんという可い子にメアドを貰ったからまぁいいか…。

と思いながら俺は夜道の中を1人で歩いていくのだった。

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