《Waving Life ~波瀾萬丈の日常~》30話 歳月不待

歳月不待

1

大きな期待をにやってきた沖縄旅行。

そんな楽しい時間は今日、終わりを告げる。

現在は午前8時。

帰りの飛行機までは、あと9時間となっていた。

最後の夜を気持ち良く寢られた俺達は、朝食を済ませ玄関前に全員集合していた。

旅行中照りつけていた太は今日は影を潛めている。

だが、とても蒸し蒸しとした嫌な気候ではあった。

それとは裏腹に、蘭華は上機嫌だ。

「今日はどこに行く?最終日だから、お土産は買っていかないとね!」

と、蘭華がここにいる皆に提案した。

「そう言えば、親から頼まれてたんだよね。何買おうかな〜」

そういうのは、絵里だ。

「でもどこに買いに行く?」

半彌が蘭華に聞き返す。

昨日、とても真剣な眼差しでいつもと違う口調で話していた半彌だったが今はいつも通りだ。

どうやら、場面によって態度が変わる格らしい。

まぁ、人に裏表があるのは當たり前だ。

気を取り直して、お土産について考える。

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沖縄と言えば、シークワーサーとか沖縄そばがいいお土産になるだろうが、それくらいのものであれば空港に行っても買える。

わざわざ殘り9時間の自由時間を全部使ってすることではない。

俺は、1つの案が浮かんだ。

「別にお土産くらいなら空港でも買えるぞ。せっかくまだ時間あるし、遊ぶ方がいいだろ?」

蘭華は質問する。

「でもどこに行く?」

「それならさ…、もう1回海、行かないか?」

沖縄と言えば海。

ならば飽きる位に遊び倒したらいい。

こんな所で夏の風詩を楽しむことなど、そう滅多に無いのだから。

「剣也、日焼けは?」

楽しいことばかり考えていて、すっかり忘れてしまっていた。

そう、俺は日焼けが嫌いなのだ。

だがしかし、2日目の海水浴で散々日焼けしたのでもう日焼けのしようがないのだ。

つまり思う存分楽しめる訳だ。

「この腕見てみろよ」

俺は腕を蘭華の方に向ける。

見る限り、日焼けのしそうな所はない。

これならその心配はないだろ?と目で伝える。

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「なるほどね。もうこれ以上は日焼けしないから大丈夫だと…。分かった。海で思いっきり遊ぼう!」

『おう!』

俺と半彌が同時に返事をする。

こうして今日は2度目の海水浴に決まった。

そうと決まったら一直線な蘭華は、荷を持って海へと走り出していった。

それを半彌と絵里が追いかけていく。

俺と先輩は玄関に取り殘された。

「先輩は乗り気じゃなさそうですね…」

「まぁな。私は1日のんびり過ごしたいと思っていたんだ。昨日は1日、電話で打ち合わせしてたから」

今日の朝。

食事をしている先輩からその話は既に聞いていた。

聞くところによると、1學期の間は優の仕事があまりなかったらしく暇だったらしい。

だが、2學期からはドラマの出演が決まって忙しいとの事だった。

そのことについて、マネージャーさんとずっと話をしていた先輩にとっては今日1日、のんびりしたくなってもおかしくない。

「ねぇ、先輩」

「どうした?」

「一緒にお茶しませんか?」

「海水浴はどうした?あいつらを放っておくのか?」

「後でメール送っておきます。実は前から先輩の仕事のことには興味があったので」

先輩から優業の話は聞いたことがなかった。

だから、その事にはかなり興味があった。

「まさかお前、その為にわざわざ海水浴を提案したのか?」

「はい」

俺は短く、質問に答える。

「そして、3人が海に行って2人きりになるのを狙ったという訳か…」

「お見事、その通りです」

俺は、『ははっ』と短く笑った。

それに釣られて、先輩も口元が緩んでいた。

「してやられたな…。分かった」

先輩が許可してくれたので、俺たち2人は近くの喫茶店に向かった。

一方その頃。

蘭華たち3人は俺達2人が來ないのを不審がっていた。

「あれ?剣也と狹間っちは?」

「來てないみたいだよ、蘭華ちゃん」

「多分2人で別のホテルに移したんだよ。きっと…。…いたっ!」

半彌は、蘭華と絵里から同時に攻撃をくらっていた。

『あんたみたいな変態と一緒にしないで!』

2人の息はピッタリで、あまりの痛さで半彌はこれ以上口を開かなかった。

2

「この喫茶店、広いな」

先輩はとても驚いていた。

多分、學校近くの喫茶店と比較して言っているのだろう。

先輩の言う通り、この喫茶店は比較的大きいものだ。

丸太で出來た壁は、とてもいい雰囲気を醸かもし出していた。

客はあまり多くなくて、とても靜かだ。

席に著いた俺達は、店員さんにアイスコーヒー2つを注文した。

「先輩、聞かせてください!」

早速俺は本題にってもらった。

「どこから話せばいいか分からないが、最初からでいいか?」

最初とは恐らく、優業を始めた時からの事だろう。

「お願いします!」

「私が優を始めたのは高校1年生の夏休み終わりからなんだ」

かなり意外だった。

てっきりもう何年間もやっているものだと思っていた。

だがまだ1年経って居ないらしい。

まだ新人同様だというのに、ドラマ出演とはとても驚きだ。

「あの時はまだ優になったという実は無かったかな。あまりに突然だったから。街を歩いていたらマネージャーみたいな人に聲掛けられて、オーディションけていきなり合格した。自分自、びっくりだった。まさかかるなんて思ってもいなかったから。それでオーディションに合格した私は、學生兼優として、人生を歩み始めた」

には優としての才能がめられていた。

でも、その才能には周りの人ももちろん自分も気付くことは出來なかった。

しかし、その仕事に長く勤めているマネージャーさんの目には先輩が才能がある人かもしれないと見えた。

そして案の定、その才能は大きなもので周りからは飛び抜けていた。

だから難しいはずのオーディションも1発で合格したのだろう。

もし、そのマネージャーさんが居なければ先輩は優になることは出來なかったかもしれない。

才能の花を永遠に咲かせることは出來ずに枯れてしまったかもしれない。

つまり、功と失敗は常に隣り合わせなのだ。

『お待たせしました〜、アイスコーヒーです!』

と言う店員からアイスコーヒーを2つ貰って1つを先輩に渡す。

キンキンに冷えたアイスコーヒーは、蒸し蒸しとした暑さを打ち消すほどの冷気を漂わせていた。

先輩は、そんなことに目もくれず話を続ける。

「私は自分には才能があるのかもしれないと思っていた。難しいオーディションを1発で合格できたから。だけど、その世界にった途端私は勘違いだと気付いた。私はまだ全然優と呼ぶには及ばなかった。周りの人を見るとどの人も優秀で完璧で。そんな素晴らしい人達を見て私自、1度挫けた。普通の學生に戻りたいと思った」

高い才能は、例え才能がある人でもそれに及ばなければ無いも同然だ。

そして、自分より高い才能を持つ人はそれより下の人を無意識に傷つける。

そして、先輩のように挫けてしまう人もいる。

「努力で埋められるほど、簡単な問題では無かったから」

才能が無い人に、大きな才能を持てと言われても無理だ。

才能は生まれながらにして持つもので、努力次第で埋められるほど簡単なものではない。

なぜなら、追いつこうとしても高い才能を持つ人自も努力するので差は詰められないからだ。

では、どうすればいい?

「でも、そんな時に蘭華が居てくれた。『優の仕事はどう?』とか、『頑張って!応援してる!』とか。そんな聲掛けをしてくれる蘭華のおかげで何とか私は立ち直れた。そして、才能で劣るなら努力で勝まさればいいと気付けた。だから私は今もこうして優の仕事を頑張れているんだ。もし彼が居なければ、努力で勝ればいいなんて思いつかなかっただろう。その前に挫けて心が折れていただろうから」

先輩の言う通り、高い才能を持つ人に勝つ方法はその人よりも何倍も努力をすることしかないのだ。

その努力を絶やさなかったからこそ、今の先輩がある。

俺はそう思った。

先輩の見えないところの努力を想像するだけで、目にはうるっと來るものがあった。

「蘭華に謝ですね…」

「蘭華はとても優しい。居てくれるときっと自分も出來るだろう、そんな気持ちになれるんだ。だから蔭山、蘭華を大切にしてやってくれ」

「そうですね…、ん?先輩、大切にってどういう事ですか?」

「お察しの通りだよ」

そう言う先輩の顔は、今までに見たことないほど微笑んでいた。

まさに一の花がそこに咲いているかのように。

そんなことは置いておいて。

「蘭華と付き合うのは得策だぞ。私は推薦しておくよ」

遂にはこんな弾発言までして來た。

「な、先輩!事を知っていてそんなこと言わないで下さいよぉ!」

先輩は腹を抱えて、『腹痛い…、助けて…』と言いながら笑っている。

さっきまであったの気持ちはどこかに吹っ飛んでしまった。

まぁ、先輩が珍しく上機嫌なので今回は許しておこう。

先輩の笑いが収まるとこう話を持ちかけてきた。

「私達も、海に行かないか?最後だし、思いっきり遊ぶのも案外悪くないかもしれない」

上機嫌な先輩に逆らうほど勇気のいることは出來ない。

恐らくはにかみながら鋭い視線を向けてきたことだろう。

それに、海に行こうと言い出したのは自分なので拒否する理由は無かった。

「そうですね。行きますか!」

時刻は10時を回ったところだ。

まだかなりの時間を遊べる。

俺達は、冷たいアイスコーヒーをぐいっと飲み干して店を出た。

そして、じめじめした空気を吹き飛ばすくらい爽快なスピードで海へと走り出したのだった。

3

海で、思いっきり遊んだ俺達はタクシーを拾って空港まで來ていた。

そして、旅行のお土産を時間をかけて選んでいると時間はの如く過ぎていった。

時刻は午後4時半を過ぎた頃。

お土産を買い終わって、椅子に腰掛けて待っていると空港アナウンスが流れた。

俺達が乗る飛行機の案だ。

俺たち5人は、ゆっくりと立ち上がり沖縄の空気を惜しみなく大きく吸った後に機へと向かっていった。

午後4時50分。

飛行機は離陸して沖縄の地を離れた。

海で散々遊び倒した俺達は、飛行機の中なのに船を漕いでいた。

俺以外の4人はもう夢の世界へと行ってしまったようだ。

この5泊6日の沖縄旅行は本當に楽しかった。

思い出に殘る最高のイベントだった。

でも、同時に新たな大きな壁にもぶつかった。

この先も、楽しいことや苦しいことがあるかもしれない。

でも振り返ると、多分どんなこともいい思い出になるのだ。

そんなこの先の期待をに、俺は靜かに眠りにった。

だがしかし、靜かにった眠りは5分もしないうちに大きくうるさいいびきに変わったのだった。

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