《Waving Life ~波瀾萬丈の日常~》44話 裏と表

裏と表

1

9月3日。

昨日のジメジメとした天候は一転して、カラッとした気となった。

おかげで気分も隨分いい。

昨日の事が無ければ、心は快晴だったかもしれない。

今はあいにく、曇り模様だ。

西島の過去を知ろうと思い、屋上に呼び出した。

でも、彼はその事について話してくれなかった。

最後の最後には、キレて屋上を飛び出していったのだ。

「人の話に首を突っ込むな、か……。そう言われてもなぁ」

俺の獨り言は誰にも聞こえないくらいに小さかった。

と言うのも、今は2時間目が終わったばかり。10分の休み時間だ。

教室にはたくさんの生徒がいてその聲がもし耳にれば大変なことになるからだ。

誰か相談出來る人は…、居ないわけではない。

でもその本人は仕事のためしばらく學校を休んでいる。

「人の話って何?」

「うわっ!び、びっくりしたぁ」

「いや、それは私の臺詞だけど」

突然俺の後ろから聲をかけたのは絵里だ。

いつも一緒にいる蘭華は、トイレに行っているみたいだ。

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「いや、別に大した事じゃないんだけど」

「もしかして私に言えないこと?」

「って訳ではないけど……。言わない方がいいかなって思うから……」

「もしかして、隠し事?サプライズとかイタズラとか止めてよ?怖いの得意じゃないし……」

「そういうことじゃ、ないけど……」

「とにかく、イタズラ系はしないでね!私に限らずね」

そう言った絵里は、俺の額に人差し指を押し付けて分からせようとする。

そういう事やってるのを他の人が見たら誤解するからやめてくれないかな……。

「わ、分かったから、その指止めろ」

「本當?じゃあ絶対だからね!」

そう言って絵里は自分の席へと戻っていった。

戻った先には、トイレから帰ってきた蘭華がいた。

すぐに子トークの花を咲かせている。

「さぁ、どうしたものか……」

「何が?」

次に後ろから話しかけてきたのは、トイレから帰ってきた半彌だ。

「同じ説明をさせるな」

「何のこと?」

「いいから、忘れろ」

「なんで?」

「面倒だからだ。さもないと……」

俺が脳天チョップの構えを取ると、待ったと半彌が腕を摑んだ。

「わ、分かったって!だから脳天チョップはやめてくれ!」

「はいはい」

俺は手を引っ込めた。

「だってさっき偶然見かけた子の、偶然見かけたパンツを忘れてしまうだろ?」

「じゃあ、忘れてくれ」

「え?」

次の瞬間、俺は脳天チョップをかました。

半彌は痛いのを必死にこらえている。

「な、何すんだよ!あの子のパンツのは…、あ!忘れたじゃねぇかよ!」

「そりゃ良かった」

「良かったじゃね〜!」

『キーンコーンカーンコーン』

予鈴がなる。3限は現代文だ。

「早く席につけよ」

「後で覚えてろよぉ〜!」

「あぁ、覚えておきますとも」

後でもう1回脳天チョップかましたら、記憶がなくなったことすら忘れるだろうからな。

2

放課後。

今日は何も聞いてないし、帰ろうと蘭華に聲をかけようと思った。その時…。

「あ、蔭山君、岸川さん!」

「なんだよ、そんなに慌てて」

西島は又しても息を切らしている。

「いや、てっきり帰ったかと……」

「丁度帰ろうと思ってたところだけど」

「會議するよ」

「あ、そう。分かった」

俺は蘭華と一緒に昨日の席に座る。

西島も同じ立ち位置だ。

『君のそんな態度を見ているとイラッとくるんだ』

ふと頭にそんな聲がよぎる。

そう。昨日、西島は俺に怒っていた。その時から今まで仲直りをした記憶が無い。

彼がいつも通りの理由は分かっていた。

彼の本がバレるのは良くないという判斷をしたから。つまり、本は俺にしか見せないつもりなのだ。

やはり彼には裏表が存在する。そう今確信を持った。

「じゃあ、今日の議題は……」

そう言って始まった會議は昨日と同じく30分ほどで終わった。

明日、的にどんな焼きそばにするのかをホームルームで決めるらしい。その事についての説明などがされた。

「じゃあ、今日も終わりにしようか」

俺は會議が終わったので、帰る支度をする。

「蔭山君」

「なんだよ」

「話があるから。すぐ終わる」

「分かった」

どうせ昨日の事だろうと思いながら承諾する。

「蘭華、先に行っててくれ」

「分かった。でも昨日は遅かったし、今日は早く來てね!」

そう言った蘭華は、鞄を持ってスキップしながら玄関に向かった。

教室には2人。俺と西島だけだ。

「さて、言うまでもないと思うけど」

そう言う彼の聲は先程とは全く違う。昨日のあの時の聲だ。

「昨日のこと、誰に言わないでくれるよね?」

「もちろんだ。そんなことをした所で俺にメリットはないからな」

彼が口止めをするのは、いつもの彼が本で無いことを知られたくないから。もしそうなれば、薄くでもあった信頼は完全に消えてしまう。

「分かっているのなら別にいいよ。あと、2人きりの時以外はいつも通りにして貰いたい」

「それも分かってる」

「要件はこれだけだ。さようなら」

西島は靜かに鞄を持って教室を出ていった。

「じゃあ、俺も行くか。待たせたら悪いし」

俺も、西島が出ていったすぐ後に教室を去った。

西島の問題は、すぐに解決できるものではない。

ゆっくりと解決するしか、方法はないのだ。

頼みの綱も今は居ない。

とにかく、帰ってくるまでは上手くつなぎとめなくてはいけない。

「全く面倒なことになったな……」

俺の嘆きは、3階の廊下に響き渡った。

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