《Waving Life ~波瀾萬丈の日常~》58話 過去は変えられない
過去は変えられない
1
「俺は蘭華のことが好きだ。大好きだ」
花火は、まだ鳴り止まない。
そんな中、俺の告白の次に言葉を発したのは蘭華ではなく、西島だった。
それも聞こえるか聞こえないかの、小さな聲。
「じゃあ、俺の考えは間違いだったってことなのか……」
彼は、好きでもない奴が自分の好きな人と一緒に楽しそうにしていたことに嫉妬していた。
好きでもないのに。
つまり、好きであればまだ納得出來ていたのかもしれない。
だが彼の目にはそう映っていた。だから彼は勘違いをしてしまっていたのだ。
おかげで、クラスの信頼を失うという大きなダメージをけた。
だが、過去は決して変えることは出來ない。
変えられるのは、まだ何が起こるか分からないこの先の未來だけ。
「西島……。ごめん」
「?」
俺は、西島の方を向いてそう謝った。
理由は簡単だ。
彼が信頼を失ったのは、俺のせいでもある。俺の責任でもあるから。
「お前が誤解するのも無理もないよ。だって俺は、蘭華の事が好きではなかったから。正しく言えば、好きって分からなかったから。だから全て、お前が悪いって訳じゃないんだよ」
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好きが何なのか。そもそも、そのを抱いていることに気付いていなかった。
もし気付いていたならば、彼は信頼を失うことなどなかったはずなのに……。
それを聞いた西島は、頭を下げてこう言った。
「悪かったな、蔭山。お前のこと誤解してたよ。岸川と楽しそうにしていただけで嫉妬して、ましてや好きだったっていうのにさ……。本當、何してるんだろうな……」
西島は酷く落膽していた。
誤解してしまった過去を悔やんでいた。
そして、それは俺も同じ。
好きという気持ちにもっと早く気付けていれば……。と俺も過去を悔やんでいた。
2人の間には沈黙が流れた。
花火は今も鳴り止まない。
このまま沈黙が続く。そう思っていた時だった。
俺の背中側から一言、聞こえてきた。
「それなら、もうチャラにしたら良いじゃん!」
俺はその言葉に驚き、聲がした方向を向く。
西島も同様に落としていた視線を蘭華に向けた。
「お互い、悪いと思っているんでしょ?反省してるんでしょ?別に喧嘩じゃないけど、こういう時はどうやって解決するかは、い頃に習ったはずだよ!」
蘭華の聲は、いつもの明るさだった。
元気に溢れた、場の雰囲気に反した聲はこの場の雰囲気をガラリと変えた。
チャラにする。つまり無かったことにする。
そうすれば、何事も無かったかのように未來に進める。
それで、俺たちの間に生じた問題が解決するというのならば、それは正しいのかもしれない。
俺は西島と和解。いや、仲直りをすることにした。
「なぁ、西島?お前が良ければだけど、信頼が戻るまで。いや、これからずっとお前に協力するよ。それで、過去をチャラに出來るのであれば、この問題は解決するんじゃないかな。そう思うけど、西島はどうだ?」
再び、西島の方を向いて話す。
「……。お前のことを誤解していたという罪を許してくれるなら、俺もそれでもいいと思う」
「もちろんだよ!」
俺は、西島の方に右手を差し出した。
「これからもよろしくな!」
「あぁ、こちらこそ!」
西島は俺の手を強く握った。
そして彼の表や雰囲気は、いつもの優等生に戻っていた。
「良かった……」
蘭華は、ホッと一安心したみたいだ。
そして蘭華は、こんな提案をしてきた。
「ねぇ、一緒に行かない?夕方祭り」
まだ、花火は上がっている。
夕方祭りはまだ終わらない。この後にもイベントがあるのだ。
「いいな!行こうぜ西島!」
俺は、西島の腕を引っ張り走り始めた。
「お、おい!……お前らのテンションにはついていけないな!」
俺たち3人は、走ってグラウンドの方へ向かった。
2
「これで、はっきりしたね。私はふられた……」
また、盜み聞きをしてしまった。
だがその事に罪悪はなく、逆にスッキリした気持ちがに殘っていた。
それと、同時に殘念だという気持ちもこみ上げてくる。
「彼は、私のことは好きでも何でもなかったのね……」
おそらく私が告白する前から彼は、蘭華ちゃんのことが好きだった。
けど、その気持ちには気付いていなくて今まで約半年間の間結論を出せずにいた。
答えを聞くまでの間、私がどれだけ辛い思いをして生活をしてきたかなど彼は全く知らない。
彼は、覚えていない。
小學校の頃。
私が、転勤でこの地を去ると言った時のことを。
だから、彼自が私に言った言葉を全く覚えていないのだ。
確か、彼はこう言っていた。
『俺は、絵里のことが好きだ。大好きだ』
さっき、蘭華ちゃんに告白した言葉とほぼ同じ言葉を私に言った。
私は、その言葉が凄く嬉しかった。
でもその後、転勤してこの地を離れた。
そのせいで彼は、いつしか言った言葉を忘れてしまったのだ。
高校にってすぐに、私は彼と再會した。
思いがけない再會。
でも、彼は私の顔すらも忘れた様子だった。
そのことが私にとって大きなショックだった。
その時に私は考えた。
どうすれば、また好きになってくれるのか。
そして結論を出した。
彼の好みのを演じよう。と。
小學時代、彼に好みのを聞いたことがある。
『好きなのタイプ?う〜んと……。優しい人?かな』
その言葉を頼りに、私は必死に優しい人を演じた。
私は小學時代は優しかったかもしれない。
でも、中學を経て私は隨分と醜い存在になったと思う。
人の不幸を平気で笑うような、醜い人間に。
だから、演じるのが本當に大変だった。
それが今の今まで続いている。
「これで、演じる私も終わりね……」
過去は変えられない。
ふられたという現実は、過去だから決して変えられない。
過去をなかったことにするというのも選択肢。
何もなかったかのように、いつものように振る舞うのも選択肢。
なら、素直に諦めるのも選択肢なのだ。
私は、この時を境に演じるのをやめた。
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