《Waving Life ~波瀾萬丈の日常~》68話 自分が大嫌い

自分が大嫌い

「君が演じているのは、一昔前の自分じゃなくて今の自分じゃないのか?」

僕の言葉に、彼は図星をつかれたかのような表を見せた。

多分、彼がそれに気付いたのだろう。

「別に……。私が演じていたのは、一昔前の私……。だ、だから今の私が本當の私……」

は口ではそう言うが、表は曇っていた。

「認めたらどう?分かってるんでしょ?君自

「何を認めればいいの?」

「今の自分が演技だっていうことを」

「だから、違うって!」

の聲は荒れていた。

の拳は、強く握られていた。

「じゃあさ……。今の人格は中學時代の君。そうなった理由は、復讐。なら、今は復讐でもないのになんでこの人格でいるの?」

「そ、それは……」

「ふられた自分を認めたくなかったから、自分が傷つくのが嫌だったからなんでしょ?」

そう。今の彼は、ふられた自分を認めたくないから出來た自分。

『私の本はこれだから、自分はふられたわけじゃない』と、自分が傷付くのを避けたのだ。

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その結果、中學時代の彼の人格。

それを演じていたのだ。

は目線を落とした。

「違う。私は剣也君に好かれるために、演じていたの……」

の口調は近頃聞くような荒いものではなく、ふられる前のもの。

この口調になったのは、恐らく無自覚。

そこから考えて今の彼は演技であるというのは間違いなかった。

「皆田さん……。醜い言い訳はやめないか?」

優しく、靜かにそう言った。

「言い訳なんかじゃ……。っ!」

の心は恐らくズタズタでボロボロだ。

必死に自分が傷つかないようにしてきたつもりだろうが、おそらく余計に傷ついているのだろう。

『噓をつくと、噓を隠すためにさらなる噓をつく』

そんなイタチごっこのような限りのないことを彼はしていた。

『ふられる前の私は演じていた』ということにするために、中學時代の自分を演じて。

そして醜い噓で、演じていることが事実であるにも関わらず否定して。

自分が傷つきたくないというその理由だけで、彼は何度も何度も噓や演技を重ねてきた。

そんなことをしていれば必ずボロも出る。

さっきの口調の変化もその1つ。

そしてボロが出るということは、彼が弱っている証拠。

僕は、そんな彼を優しく抱いた。

心の傷口を塞ぐように優しく、優しく。

「苦しんでいるのに、周りに助けを求めずに自分で抱え込んで……。もう演じるのも噓をつくのもやめにしないか?」

はその言葉を聞いて泣いていた。

「やっぱり、辛い思いしてたじゃないか」

は、嗚咽をらす。

そして涙聲でこう話す。

「あなたが言っていた事は全部本當のこと……。私は私を守るために噓をついたり、演じたりした……。そのせいで尚更自分を苦しめてた……。そんな醜いことをしていた私が大嫌い」

「僕も岸川さんにふられたから、その気持ちが分かるよ……」

岸川さんにふられて、僕は蔭山君に嫉妬して……。

その結果、みんなの信頼を失ってその原因となった彼を嫌った。

別に蔭山君が悪い訳でもないのに、勝手に嫌いになった。

僕自も最近気付いた。

本當は、自分が傷つかないようにしていただけだということに。

「でも、やっぱりそんな自分でも認めないと駄目だと思う。そうしないと、次に進めないからさ」

「うん……」

僕は勢を戻した。

そして、僕は気になっていたことを彼に質問する。

「1つ聞いていい?」

「何?」

「君が中學時代にあの人格になった原因って人間不信だったよね?今も人を信じられない?」

「それはないよ……。確かに人間不信だったけど、高校に來てからしずつ人を信じられるようになった。多分、剣也君のおかげだと思う。優しい彼なら信頼出來る。そう思えたから、次第に人を信頼できるようになって。だから西島君のことも信じているよ」

自分では分からなかったけど、多分赤面していたんだと思う。

「ちょっ、顔赤くなってるよ!私まで恥ずかしくなってくる……」

そういった彼の頬は赤く染まっていた。

「蔭山君って、いい人だよね」

「うん」

「どんな人でも同じように優しく接して……。それが出來るって本當にすごいことだと思う」

彼は無意識でやっているのかもしれない。

でも彼はどんな人にでも平等に優しい。

そんな所を僕は尊敬している。

僕たちは暗くなり始めた教室から出るべく、帰る支度をする。

そして、僕が鞄を持った時に彼は再び話し始めた。

「ごめんね、西島君……」

「ん?」

僕は彼の元へと近づく。

すると彼は再び視線を落とした。

「いろんな人に迷かけちゃったみたいで……」

「大丈夫だよ」

「だから私、演じるのやめるね!これからもよろしく!西島君」

「こちらこそよろしく!皆田さん」

そう言って僕たちは握手をわした。

そしてその後、僕たちはそれぞれ帰宅の途についた。

何?この気持ち……。

下校の途中、私は変な気分になっていた。

浮いているような、フワフワした気持ち。

でもそれは不快なものではなく、幸せなもののような気がした。

ようやく、苦しみから解放された。

自分で自分を苦しめていた。

それが解けて私は約1ヶ月ぶりの解放に浸っていた。

私は、舞い上がる気持ちにのって家へと帰った。

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