《Waving Life ~波瀾萬丈の日常~》76話 あの日……
あの日……
1
俺は、暗くなってきて危ないため蘭華を家に帰した。
一方の俺は考えをまとめて、ある場所へと向かい始めた。
やっぱりあの事件についても、なぜ嫌われるようになったかも聞かないといけない……。
スッキリとしない狀態は、正直嫌だった。
だから俺は彼の家へ、約2年ぶりに向かうことにした。
彼の家は、今通う高校とは逆方向にあり意外と遠い。
遊びに行く時は、自転車で行っていた。
その長い道のりをゆっくりと歩く。
滅多に歩くことのないこの辺りは、2年前から隨分と姿を変えていた。
いつも繁盛していた雑貨屋や接客に力をれていた魚屋も今は姿は見えない。
殆どの店がシャッターを下ろしていた。
賑やかな商店街はいつしか、寂しいただの通り道になってしまった……。
辺りはすっかり暗くなり、街頭も燈り始めた。
でも手れをしないからか微妙に暗く、し怖いくらいだった。
そんな寂しい道を通り、気づけば彼の家。
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時刻は午後7時。
夕飯時で迷かもしれないけど、ここまで來たので何もせずには帰れなかった。
俺は恐る恐る、インターホンを鳴らした。
廊下を歩いて近づいてくる音が聞こえてくる。
ガタガタと音を立て、玄関は開いた。
「結論出たのか?」
 
出てきた晴大は俺の顔をみてそう言った。
「悪かった……」
何をしたのかは分からない。
でも嫌うようになったなら俺に理由があるはずだ。
謝るのは當然なのかもしれない、と思ったのだ。
俺が謝った後に、彼は何と言うのか気になっていたのだが、それを別の人によって遮られた。
「もしかして、蔭山君?」
晴大の後ろから聞こえて來たのは、聞き覚えのある聲。
同時に、あの時を思い出した。
その聲の主は、俺を轢いた本人。
「久しぶり、だね。とりあえず、って」
そう勧められたので、俺はとりあえずることにした。
2
俺はこの人を許してはいない。
飲酒して暴走して、俺を轢いたのだ。
辛いリハビリまでしなくてはならなくなった。
何とかの傷は完治して今は、いつも通りの生活を送れている。
あの事件の後、この人は謝罪をしてきたけど、それだけでは心の傷は癒えるはずがなかった。
「傷の調子はどうだい?」
俺の前にお茶を置いてから、彼はそう言った。
「もう大丈夫です」
そうは言うけど、本當は大丈夫ではない。
あの辛い3ヶ月は、取返しがつかないのだから……。
「さっき、こいつから君に會ったって聞いていずれ會いに行こうと思ってたんだよ」
彼は笑顔でそう言う。
でも、正直會いに來てしくない。
もう二度と見たくなかったから……。
「その時に、大事な話をしたかったんだけど丁度來てくれて助かったよ」
「大事な話?」
今、この茶の間には俺と晴大の父親しかいない。
晴大は自分の部屋に居るらしい。
晴大がいない今だからこそ言いたい話なのだろうか。
俺はその大事な話とやらが気になった。
「あの日……。私は自棄酒(やけざけ)しててね……」
晴大の父は、俯きながら話す。
「その年の冬に妻が亡くなってね……」
その事実は晴大に聞いていた。
俺はその人にはお世話になっていた。
「あの日を境に、自棄酒するようになって……。『なんで、なんで俺の妻が死ぬんだよ』ってずっとイラついてたんだよ」
酒癖が悪くなったのは、晴大の母が亡くなったことが原因だったと初めて知った。
晴大は、その事を言ってくれていなかった。
「そんな狀態で春迎えて、もう一層の事俺も妻のところに行ってやるって決めたんだよ。車で暴走して死んでやるってさ……」
「ま、まさか……」
「君を轢くつもりなんてなかった……。全くね……」
「何ですか?その話をしてどうしろって言うんですか?仕方が無いんです。許してくださいって?ふざけないで下さい!」
俺は機を叩いた。
それと同時に、貰ったお茶がこぼれた。
「俺は、あの日から辛い思いをしてきたんですよ?あなたが俺を轢かなければこんな辛い目に合わなかったんです!あなたがどれだけ辛いか知らないですけど、他人を巻き込まないでください!」
俺は、怒鳴りながら頬に涙を流した。
思い出すだけで、辛い。
蘭華に勵まされながら何とかここまで復活できた。
でもこの事故は、妻が死んだから仕方ないだなんて許せなかった……。
「1番辛いのはどちらか……。あなたなら分かるでしょう?」
彼は危険運転致死傷罪で現行犯逮捕されたけど、多額の罰金や免許証の停止くらいで罪は許された。
でもそれに比べて、俺は何も罪がないのに辛い思いをして……。
1番辛いのは言うまでもなく俺の方だ……。
「分かっているよ……。1番辛いのは君だ。でも俺が言いたかったのは、許してしいってことではないんだよ」
晴大の父は冷靜に、そう答えた。
「晴大の事だよ……」
俺はその言葉を聞いてハッとした。
晴大の父が言っていたことを思い返す。
『君を轢くつもりなんてなかった……。全くね……』
この言葉には裏があったことに気付いたのだ。
もしかしたらこの人が言いたかったのは、晴大は関わっていないって言いたかったのではないのかと。
「中學2年の冬以來、君は家に來なくなった。仲が悪くなったんだろうと気付いた。だから、もしかしたらこの事故に晴大が関係しているのではないかと考えているのかなって……」
「……はい」
俺は小さな聲でそう答えた。
「あいつは全く関わっていないよ。悪いのは全部俺なんだ。だからあいつのこと、嫌いにはならないでくれ」
俺はその言葉を聞いて、引きかけた涙が再び頬を伝った。
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