《攻略対象外だけど、好きなんです!》8 「ツンデレヤンキー」
あれから一カ月ほど経ち、私たちは無事に飛行船での生活に慣れてきた。
 …そういえば、乗員が二人も増えた。
例えば、今、私と一緒に朝食を作っている、東 海斗くんとか。
東くんは、まあ一言でいえば、ツンデレヤンキーかな?
そのツンデレヤンキーくんは、弟にデレて料理を作りはじめたそうだ。
…流石、ツンデレ。
「須、そこのボール取ってくれ。」
「これですか?…どうぞ。」
「ああ。サンキューな。……にしても、須は公家出なのにスゲーな。料理上手すぎじゃね?」
 うん、まあ……私に対しては、ツンデレでもなんでもなく、ただの優しいヤンキーなんだけど……。
「そんな……、コックヒヨコさんが手伝ってくれるからですよ。ね、ヒヨコさん?」
 はぁ、ヒヨコさんは相変わらず可いな…!
ヒヨコさんはなんでこんなに可いんだろう!
そして、料理も手伝ってくれるなんて!
可いすぎっっ!!
「ぴぃ(嬉)♡。」
「ひっ!な、鳴くなっつってんだろ!」
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 どうやらこのツンデレヤンキーさんは、ヒヨコさんが苦手なようです。……違いました。鳥全般が、だそうです。
「ぴぃ、ぴぃ(嬉)♡。」
 あ、ヒヨコさんが東くんに近づいていくようです。
おっと、ここからは料理の重要な部分です。
目が離せなくなってしまいました。
「ひぃぃ!おい、助けろ須!」
「ごめんなさい、東くん。今、目を離せないんです!」
「お、おい、これ以上近づくな!」
「ぴぃ(困)…?」
「はい、そこまで。ヒヨコさん、海斗が困っているだろう?手伝いをするのは雪月だけでいいんだよ。」
「ぴぃ…(悲)…。」
あ、みんなの世話焼き係、伏見くんが助けてくれたようだ。
「海斗、大丈夫か?」
「……ああ。」
「ヒヨコさんにも悪気があるわけじゃないんだ。いつも雪月を手伝ってくれているからな。たまには海斗を、と思ったんだろう。」
「…………」
「おはよう。悲鳴が聞こえてきたけど、海斗大丈夫?」
「ああ……まあ。」
「あんな小さい鳥の何が怖いんだい?可いし気が利くし、いい子たちだと思うけど。」
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砂原くん、
それ、大いに同意ですっ!
「怖くねぇよ。ちょっと、驚いただけだ。」
「初日に一人で立てないくらい怯えてたのはどこの誰だったかな?」
「うるせぇ!メシの準備するんだ、とっとと失せろ!」
「…………ヒヨコさん、海斗が朝食作るの手伝ってしいって。」
「お、おい!やめろ!」
「はいはい。これ以上騒ぐな。…ヒヨコさん、雪月が困っているようだから、助けに行ってやれ。」
 あ、助かります。伏見くんありがとう!
「はぁ、面白かった。…じゃあ和樹、早く起きたことだし、これからのことを考えようか。」
「ああ。海斗、雪月、朝食の準備をよろしくな。」
「はい!」
「…………」
朝食の後みんなが集まり、さっき砂原くんが言っていた、これからのことを話すようだ。
「まだこの船出発しないんだ。…二週間くらい地上にいないかな?」
 確かに……。なんでだろ?
「まだ乗ってくるからだと思うよ。この辺、大きな街も多いし。ね、和樹。」
「あ、ああ。必要なものがあったら、今のうちに買ってくるといい。」
うーん、何かあったかな…?
「そういえば、がもうすぐなくなりそうだったな。誰か一緒に行かねぇか?」
「あ、東くん!私、ついて行ってもよろしいでしょうか?」
 暇だし、どうせなら私たちが普段、調理しているものが、どういう風に売られているのか、知りたい。
「雪月が行くなら、俺も行こうかな?」
「隼も來てくれるのか。助かる。じゃあ、一時間に、中央階段で集合な。」
「分かりました!」
「りょーかい。」
 この世界にきて、初めての街。
以前は公務で來たけど、戦爭で楽しめなかったから、ちょっとワクワクしている。
「あ、店あったよ。…でも二店あるね。どっちに行こうか?」
「どっちだって一緒だろ。」
「あ、海斗!」
  砂原くんと初めてのお出かけ〜!わーい!
 ……ん?砂原くんは?東くんは?
「おーい、雪月。こっちだよー!」
 あ!砂原くんだ!
……はぐれたかと思った。気をつけないと。
「なに言ってんだ!こっちは利益度外視の値段でやってんだよ!この上値下げなんてできるか!」
「はぁ!?なにが利益度外視だよ!の質なんざ見りゃ分かるんだよ!鮮度はいいが、脂が多すぎる!」
 どうやら、海斗くんが店主と爭っているようだ。
「そ、そりゃ質はそこそこのモンだが、運送料とかがだな……!」
「ざけんな!すぐそこの農場から仕れてんだろ!そこのダンボールの住所、ここの近所だぞ!……こっちがよそ者だからって、足元見やがって…いい度だ!表出ろ!」
「ひぃぃぃ!」
…これが、値切り?恐喝の間違いじゃない?
「値切りって、こんなに怖いものなんですね…。」
「うーん、海斗だからね。恐喝とあんまり変わらないんじゃないかなぁ。…途中で警吏呼ばれなくて本當に良かった。」
「警吏呼ばれて困るのは向こうだ。安を高く売りつけるあの店が悪い。」
「まあまあ。このご時世、警吏を呼んだって意味がないと思うよ。」
 どうしてかな?
「そうなんですか?」
「ああ。あの店の価格は正當だと思うよ。多分、どの地域に行っても同じ値段だ。」
「それなら、どうして海斗さんは怒っているんでしょうか?」
 価格が同じなのに怒る理由。…それは、何だろう?
「はぁ?安のを高く売りつけられたらそりゃ腹立つに決まってんだろ。」
「でも、ほかのお店も価格は同じ…なんですよね?砂原くんの言う通り、正當な価格なんじゃないですか?」
「……これだから、何にも知らねぇお嬢様には買い出しを任せられないんだ。」
「………?」
 ん??
正當な価格で買っちゃいけないってこと?
「例えば、だよ。街に三つの屋が存在する。Aは安くて味しくないを売ってるお店、Bの店は味は普通だけど値段も普通の屋。Cは値段は高いけど、相応の高級なを扱ってるお店。…さて、この三つの中でどれを選ぶ?」
 砂原くんが説明してくれる。分かりやすい。
 …うーん、Cかな?味しい料理を作るには、高いおの方がいい気がするし。
「狀況にもよるが、Bだろうな。料理の味は、食材に左右されねぇ。料理人の腕がを言うんだ。」
 へえ〜、そうなんだ!知らなかった!
「そうなんですね!勉強になります。」
「まあ、こういう合に本來は同じ商品を売っている店でも個が出るんだ。…客を獲得するために、店は己の利點を活かした商売をする。結果競爭が生まれる。」
「買う側も選択の余地ができるからな。…懐がきつい時は安で済ませたり、何かの記念日の時は発してもいいだろ。」
「そうそう。考えるのが楽しくなるよね。でもこれが全て同じ値段で売ることになったら、どうする?」
 うーん、無理に値段を下げる必要がなくなるのかな…?
「…無理に値段を下げて必要がなくなりますね。つまり…」
「競爭がなくなって、店が楽になる。どんなを売ろうが価格は一緒だ。安扱った方が利益も出る。店側も客側も考える余地はゼロだ。」
「それは…いいこと、ではありませんよね。」
「當たり前だ。…街の屋全部が同じになっちまったら、客はその中で買わなきゃなんねぇだろ。最近はどの街もそういう店ばっかだ。…商売人の気概がねぇ。」
「仕方ないよ。『世界』が価格協定を推進しているんだから。」
 …価格協定?
「『世界』が、ですか?」
「そう。商売の軋轢が、國家間の勢にも関わってくるから、全部価格協定を結ぶよう言っているんだ。…その余波が市井にも來てる、ってわけ。」
「ンなこと俺らには知ったこっちゃねぇんだよ。つぅか、協定だ規則だ、ンなもん邪魔でしかねぇよ。そんなもんあったら、努力する気も起きねぇだろ。…競爭して何が悪い。爭わなきゃ得られないものだってあるだろうが。異常すぎて頭の中ボケてんじゃねーか?」
「そうだね。でも、この話はここまでにしないと……」
「お前ら、さっきから何を偉そうなこと言ってんだ?」
「……って、遅かったか。」
  街の人だ。…気さくな人、なのかな?
「まさか『世界』に逆らう気じゃねぇだろうな!」
「違いますよ。ただの想像上の話ですから。」
「ガキが商売の話なんかするんじゃねぇよ。価格協定、大いに結構じゃねぇか。無駄な爭いをしなくていいし、生活も安定する。みんなが平等に儲ける。『世界』様様な話だぜ。」
 …確かに。…平等、そして平和。それはとてもいいことなのかもしれない。
「はぁ?お前、それでも商売人かよ!」
「何だと!?」
 あー、また怒らせちゃった……。
「海斗!早く行こう!」
「く……!」
 私たちは走って逃げた。
 荷を持ちながらだったので、正直キツい。
「雪月、大丈夫?…海斗、街中で喧嘩なんてやめてくれよ。」
「え、ええ。大丈夫です…。」
「うるせぇ。あいつらの方が悪いんだろ。『世界』の言うことだからって全部従ってよ……」
「……海斗って、田舎から來ただろ」
「ん?ああ。こんな人の多い街に來たのは多分初めてだ。」
 砂原くん、なんで分かったんだろう?
「俺も街から程遠い村に住んでいたから分かるけど、街と田舎じゃ結構違うんだよ。…『世界』を尊重しない考えは、異端だと思われる。ね、雪月?」
 砂原くん、田舎に住んでたんだ…
「……そうですね。私は二人の話、正直びっくりしましたよ。」
「そりゃ、公家の人間には商売の話なんか分かるはずねぇだろ。」
「はい。でも、もし二人のような知識があっても、私はそこまで考えるようなことはなかったかもしれないです。『世界』に命じられたことだからって、思考停止してたかもしれません。」
「……とにかくだな、向こうの言い値で買うのは馬鹿のやることだ。分かったか?」
「なるほど……。勉強になりました。ありがとうございます。」
「……別に、禮言われるほどのことでもねぇけど。まぁお前は、金には困らねぇ生活を送ってきたんだから、『値切り』なんて知らなくて當然だよな。」
「…………」
 ……確かに、前世でも値切りなんてしたことなかった。
「ん?どうした?」
「……と言うより、雪月は自分で買いなんて行かないんだと思うよ。」
 まあ確かに、いつも料理人さんが材料を買ってきてくれていたっけ。
「……!ああ、そうかよ!悪かったな、つまんねぇ話聞かせて。」
「そんなことないですよ。…とても、おもしろかったです。私と年も殆ど変わらないのに、二人はいろんなことを知っています。…商売のこと、勢のこと。同じ時代、同じ國で生きていても、私たちはこんなに違うのですね。こうして、會話しているだけですが、違う世界にれているような気持ちになります。」
「……そうだね。俺も、まさか同世代の男で完璧な芋の煮っ転がしを作れるやつがいるとは思わなかったよ。」
 …まあ東くんは、家の料理人さんと同じくらい料理が上手だからね。
「悪かったな。」
「悪くないさ。むしろ、尊敬してるんだよ。本當に不思議だね。何の共通點もないのに、こうやって楽しく話せているんだから。…あ、違うか。あったね、共通點。」
「そうですね。これが、私たちをあの船に引き寄せたんです。」
 
そう言って、私はに手を當てる。
                      『能力』
 これこそが、私たちを一つの場所へ引き寄せた原因なのだった。
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