《攻略対象外だけど、好きなんです!》16 「結界」
 
 さてと。朝食も食べ終わったし、午後からのお茶會(部屋の相談)の準備をしようかな?
 
 お茶會といえば、お茶とお菓子。
 なんのお菓子を作ろうかな?
 …あ!菜々香ちゃんだ。お掃除當番、終わったのかな?
「雪月さん、お菓子を作るの?」
「はい。午後から、お部屋をどうするか三人で相談しますので、そのときにお茶とお菓子があれば、楽しくお話し出來そうだな、と思いまして。…菜々香ちゃんも、何か食べたいお菓子があれば、おっしゃってくださいね!」
 可い菜々香ちゃんのためなら、お姉さん、頑張っちゃうぞ☆
「……味しい、お菓子。…パイ、食べたい。」
「パイ…ですか。」
「…駄目?」
 うーん、なんのパイにしようかな…?
 あ!!
「分かりました!それじゃあ、砂原くんに頼んで、桃のパイを作りましょう!」
「桃のパイ……味しそう。砂原さんは、屋上にいたはず。」
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「一緒に行きましょう!」
「…ん?雪月に、菜々香じゃないか。二人とも、どうしたの?」
「午後からの子三人で、お茶會をするんです。そのときのお菓子に、桃のパイを焼きたいと思いまして。」
「それで、砂原さんの能力で、採れたての桃がしいと思った。…お願い、砂原さん。」
「うーん、そうだなぁ。…じゃあ、出來たての桃のパイを一番に俺にくれるなら、いいよ。」
「そんなことでいいんですか?ありがとうございます!」
「じゃあ早速、行こう……って、おっと。」
  突然、発音がして、船が揺れた。
「きゃあぁぁ!!」
 遠くで、び聲が聞こえる。
 …あの聲は、日梨ちゃん?
「と、とにかく、一旦食堂へ急ごう!」
 そういえば、こんなシーンあった。
…確か、襲撃されたのは、屋上だ!!
 みんなを守るためにも、屋上へ行って、襲撃犯と戦わないと!
 空気が震えた。
 目をあけていられないほどの閃と、耳をつんざく轟音。『結界』すらも突き抜ける衝撃に、私は後ずさりした。
「……っ!」
 やっぱり、こない方がよかったのかな…。
 ううん。そんなことはない。私は間違ってなんか、いない。
 砂原くんと結ばれるためなら、これくらい……!!
 でも、これ以上は『結界』で防ぎきれない…!
  奧歯を噛み締め、無理矢理呼吸を落ち著ける。
 目の前の襲撃犯に、隙を見せないために。
「『結界』を張る能力、か……。」
 襲撃犯の男は、じっと私を見た。
 冷たくのない瞳。上から下、まるで値踏みするような視線に、私は揺してしまいそうになる。
「日本國の重要な機関、建築を、ありとあらゆる厄災から守る。お前がその須家の娘だったか。」
 男は銃を構えなおした。
 男の瞳と同じように、金屬が冷たくる。
 前世では、実際に見たことがなかった、銃。
 恐ろしい武。
 たった一回、その引き金を引いただけで、死んでしまう。
 そう考えると、震えてしまいそうになるが……負けるわけにはいかない。
 萬が一に備え、もう一度結界を張る。
 男が引き金を引いた。
 しかし、私に當たることはない。
「くっ……!」
 『結界』で守っているとはいえ、辛くなってきた。
 能力を使うと疲れてしまう。
 もうそろそろ、限界に近くなってきた。
「やはり貫通しないか…。三インチ砲さえ凌げるのだから、銃が敵うはずないな。」
「いい加減、無駄だっていうことを理解してください。私がいる限り、この船に手出しはさせません。即刻立ち去ってください!」
「能力は神力に依存するもの。…一人で攻撃を退けるとは……やはり『結界』の能力だけは手元に置いておくべきだな。…その力、俺が正しく使ってやろう。俺のもとに來い。」
「人のことを襲っておきながら、よくそんなことを言えますね。…私は船に乗っている仲間を守るんです!あなたのもとになんか行きません!」
 シナリオ通りなら、このままハッタリを続ければ、大丈夫だったはず!
 それに、あいつのところへ行ったら、砂原くんと結ばれないし!
 絶対に行かないんだから!
「ふっ……。そうか、なら…俺のもとに來なければ、船を落とす。…これは命令だ。」
「……!」
 そんな…!どうしよう!!
 こんなのシナリオにない!!
 私があいつのところへ行けば、みんなは助かるかもしれないけど…、
 砂原くんと結ばれないなんて、本末転倒じゃない!!
 そのとき発音と共に、船は大きく揺れた。
 立っていられないほどの揺れに、私は思わず地面に膝をついた。
 
 船に異常が起きたのは間違いない。
 だが、男が何かをした様子はなかった。
 まさか、部犯…!?
「あなた……いったい何をしたのです!?」
「………。」
 男は何も答えない。
 どうしよう…!?どうすればいい…!!
 みんなは無事…?砂原くんは?
 早く助けに行かないと……!
「今ので終わりだと思ったか?」
「!……どういう意味、ですか?」
 まさか、もう一発あるの……?
「もう一発、船の中樞で発させれば、この船は墜落する。どうだ?來る気になったか?」
「………っ。」
「はぁ、はぁ……。どうやら、間に合ったみたいだね。」
「!砂原くん!?……どうしたんですか?危ないですよ!」
「………?」
「危ないのは、雪月のほうだよ。の子一人で敵に立ち向かうなんて、無謀もいいところだよ。」
 砂原くんはそう言って、緑の能力で敵の手を塞ごうとする。が、
「無駄だ。」
 男はそう言って、手に絡みつきそうになるツタを退ける。
「な……っ。……見た事がないカラクリだなぁ。あれはなんだろう?」
「……銃……」
 
「ジュウ?初めて聞いたけど……。」
「お前、銃の存在を知っていたか。」
 あ、ヤバ……。
 本當は私、知らないはずなのに…!
「戦場で一度、見たことがあります……。とにかく下がってください!」
「駄目だよ。あんな得のしれないもの、尚更君に近づけさせるわけにはいかない。」
「大丈夫です。…私には、これがありますから。」
 私は砂原くんに『結界』を見せる。
「これは……『結界』?…でも、だからと言って、君を近づけてもいい理由にはならないな。」
 砂原くんは納得してくれない。
 ……けど!!
「二発目、やれるものならやってみてください!船が落下する前に、私がこの船全を覆う『結界』を張ります!落下にも耐えられるくらい強力なものを、です!あなたの思い通りにはさせません!!」
「…………ありとあらゆる厄災から守る神、か。哀れなだ。己自が厄災だということも知らずに、崇められて調子に乗ったか。」
「………?どういうことですか!」
「今日は退こう。それなりの収穫もあった。」
「待ってください!!」
 私が厄災、だなんて……。
 意味が分からない。
 
 でも……私の能力じゃ、あいつを追い詰めることは出來ない……。
 退いてもらって、助かったかも…。
「……雪月…。」
 
なんだか安心して、力が抜けちゃったみたいだ。
 座りこんだまま、立てない。
「あはは……。私も、限界に近かったみたい、です……調子に乗って……ごめん、なさい……。」
 なんだか、意識も朦朧としてきた。
 砂原くん、船のみんな、本當にごめんなさい……。
 本當に、ごめんなさい……。
 
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