《本日は転ナリ。》5."瑠"と"瑠"

「ちょっと瑠……、まだぁ?」

    店舗から響くBGMに莉結の呆れ聲が混ざる。

俺はというと、ランジェリーショップの向かいに置かれたベンチで長い間項垂(うなだ)れ続けていた。

そうなるのも當然だ。つい二日前まで男として生きてきた俺が、すんなりとこんな店にれる訳が無いのだ。

「莉結……、頼むから代わりに買ってきてよ」

俺がそう言って必死に助けを求めているというのにも関わらず、莉結は"サイズも測ってないのにどうやって買うのさ"と言って冷たい目を向けた。

    どうにも勇気が踏み出せず、狀況が変わらないまま時は過ぎていく。頭の中では"の下著を買う事は別におかしな事では無いのだ"と分かっていても、未だ自分をだと認められずにいる"俺"がその一歩を踏みとどめさせていた。

そして痺れを切らせたのか、橫に立っていた莉結が溜息と共に俺の橫へと腰掛けた。

……その時、俺たちの前に一つの影が立ち止まる。

「えっ、莉結ちゃん? 學校サボって何してんのっ?」

    その瞬間、俺の心臓が大きく鼓するのが分かった。だって莉結の知り合いということは同じ學校の生徒だという確率が高いから……。

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俺はベンチに腰掛けて下を向いたまま、橫目でそっと聲の主へと視線を向けた。

「あ……」

    俺はで自分の不運を哀れみながらもゆっくりと顔を背ける。

"何でよりによってこんな時に出會すんだよ……、天野麗(アマノ レミ)!"

天野麗……、こいつはその金に輝く髪、そして相手が誰だろうと歯に著せぬ言い。つまり一般的に"不良"と位置付けられている、クラスの大半の生徒から"苦手なタイプ"に分類されているだ。

そして、俺が高校に學したばかりの頃、まだ面識も無い俺に対してしつこく告白を繰り返してきた子が居た。そいつは何度斷ってもまたその翌日には何も無かったかのように俺に"付き合って下さい"と俺に告白をしてきた諦めの悪い奴だった……。

そしてその子こそがこの天野麗なのだ。

"何でよりによってコイツに會うんだよ……。しかも今學校のはずだろ……"

    突如訪れた最悪の展開に、俺はただこいつが靜かに立ち去ってくれるのを待つしか無かった。

「あ、麗ちゃん! 別にサボってるつもりじゃ無いんだけど……、まぁ私はちょっと買いのお手伝いってとこかな」

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莉結がそう答えた時だった。ふと嫌な視線を頬にじる。冷や汗が頬に伝っていく。俺は心の中で神様に誓った。

"ブラジャー買います。だからこいつを帰してください"と。

「この子誰? 他校の子? ねぇ、キミ名前は?」

中から変な汗が噴き出るのが分かった。神様はそんなに暇じゃないのだ。顔なんて上げたらこいつには俺の正がバレてしまうかもしれない……。

    そしてそんな俺の気持ちを他所に麗の聲が俺の髪を揺らす。

「ねぇ聞いてる? 私、麗っていうの! よろしくっ! ……っておーい」

    麗が俺の肩に手を乗せた。その瞬間、俺の直し、この逃げ場の無い狀況に"もうダメだ"と目を瞑った。

「あっ、麗ちゃん! その……、この子今ちょっと調悪くてね、あの……、そう! 生理痛が酷いんだって! 結構重いみたいだからそっとしてあげて」

救いの手をばしたのは莉結だった。よく意味は分からなかったけど、その言葉を聞いた麗が莉結の隣へと大人しく腰を下ろす。

「そっか、ごめんね! 重いと辛いよねっ、私もこの前終わったばっかだから」

意外も意外。麗はそれ以上追求する事無くすんなりとその口を閉じたのだった。

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この狀況を納得させる事ができてしまう"生理痛"というものはそんなにも痛いものなのだろうか……。莉結は俺の生理痛が"重い"と言っていた。人によって差があるみたいだが、俺は"重い"奴を演じるべきだということは分かる。

「麗ちゃんごめんっ! もうちょっと話してたいんだけど……、私たち、もうちょっとここで休むからまた學校でねっ」

    

、無理矢理なじもしたが、莉結

の俺を想った対応に、"やれば出來る子だったんだな"と目頭を押さえる。あとは麗がこの場を去れば全て上手くいく。

「あっいいのいいの! 全然気にしないでっ、私暇だからさっ!」

「いや、でも……」

「全然いいって! 莉結ちゃんと私の仲じゃんっ」

    人の気持ちを"全然気にしない"麗

そうだった。それは俺がよく知っていたはずなのに……。

そんな麗をどうにか帰せないかと考えた末、俺も加勢しなければと策を練った。そして思いついた作戦を実行に移す。

先ずは微かなき聲あげつつも腹部を両手で押さえた。そして死にそうな聲で主演男優……いや、優賞を獲ってしまいそうな演技力を発揮させる。

「うぅ……、重いよぉ。お腹が重くて閉店まで立ち上がれないかも」

「えっ?」

の小さな聲が聞こえた。きっと俺の重癥さにやっと気付いたんだろう。流石の麗も閉店までずっと一緒に居る気にはなれないはずだ。

「えっと……、何が重いのっ?」

何故か半笑いの麗が俺にそう尋ねる。

「だから……、お腹が重いの、生理痛で」

「生理痛……で?」

そして俺は、更に追い討ちをかけるように膝に額を乗せて"限界アピール"をする。

すると何故かクスクスと笑い聲の様なものが俺の耳へと響いたのだ。疑問に思った俺は垂れ下がった髪の間からそっと莉結の方を見る。

すると、顔を伏せた莉結の口元が髪の隙間から見えた。その口元は小刻みに震え、それを隠す様に頬に當てた手のひらがその奧に見える。

すると、莉結が震える息をそっと吐き出してから口を開いた。

「もう……。麗ちゃん、この子もう大丈夫だから、良かったらこの子のブラ一緒に選んであげてよっ。サイズも測ってないからそこからお願いっ」

    俺は耳を疑った。突然手のひらを返された意味が分からない。

顔を上げ呆然と莉結の橫顔を見つめていると、その橫顔の影から麗の顔が現れた。そしてその顔は花が咲いたかの様にキラキラと輝いていた。

「任せて! 調良くなったら行……」

突然私を見て目を見開いた麗がゆっくりと私を指差してこう言う。

「あれ……、もしかしてキミは如月……」

そう言われた瞬間、目の前が真っ白になった。心の何処かでは"このままバレないかも"なんて楽観的な考えがあったのは否定できない。しかし確実に麗は俺の正に気付いてしまった。そして俺の頭には、もうこの狀況を打開できる程の言い訳は浮かばなかった。

「そっかぁ!」

すると耳を塞ぎたくなる程大きな麗の聲が辺りに響き渡る。そして興冷めやらぬ様子のまま俺の目の前へと躍り出た麗は、突然俺に著させたかと思うと、そのまま両腕を背中へと回した。

俺のに麗の腕の力が強く伝わる。するとその力がふっと緩み、両肩にポンというが伝わると、立ち上がった麗が再び口を開いた。

「まさか瑠くんに妹が居たなんて! 顔がそっくり! ねっ、そういう事でしょっ?」

    突然のハグ、そして意外過ぎる展開に混が解けずにいたけど、正がバレていないという事だけは間違いなさそうだった。……結果良ければ全て良し。

俺はここぞとばかりに麗の"勘違い"に話を合わせ、"架空の妹"として振る舞う事を決めた。

「そ、そう! 私は瑠の妹の……、瑠っ! そんな似てるっ? ははは……」

「似てるよっ! 瓜二つ! イルちゃんっていうのかぁ。あれっ、ところで調はもう大丈夫なの?」

そう言うと麗が俺の顔を心配そうに覗き込んだ。

「うん、へっちゃらだからっ! もう軽くなったよ」

そう言って不用にウィンクして見せると、麗は目を見開いて何故かゆっくりと視線を逸らしたのだった。

すると莉結がクスクスと笑いだし、俺にウィンクをすると、こう言った。

「それじゃぁイルちゃん。早くお買いしちゃおうねっ」

    嫌らしくニヤつく莉結を睨みつける。そしてベッと舌を出すと、ベンチを立った俺は意を決してランジェリーショップへと足を踏みれた。

しかし、ったはいいもののまともに商品を見る事も出來ずに二人の後をついて回るだけ。そんな俺に「ねぇ、自分のなんだからちゃんと自分でも見てよね」と莉結が呆れ始める。

それを橫で聞いていた麗は、何枚か手に取って「ねぇ、イルちゃんは普段……どんなの著けてるの?」とし照れ臭そうに言った。しかし、そこで揺してしまった俺は、つい「そっ、そんなん著けてる訳無いじゃん」と口をらせた。

「えっ……」と、目を點にして俺の元へと視線を向ける麗

焦った俺は莉結へと視線で助けを求めたが、莉結は何故か不敵な笑みを浮かべると、上を向いて一言。

瑠は"著けない派"だからねぇ」

    有り得ない……。やっぱり莉結は悪だ。無に怒りを覚えた俺は嫌味を込めて口を開く。

「そうなんだよね、私は莉結ちゃんみたいに"だけ"に栄養行ってる訳じゃないから」

俺がそう言って鼻で笑ってやると、莉結の耳が"ピクン"と反応するのが分かった。

「常識的に考えてだけに栄養なんて送られないと思うけどなあ?」

「実際そうなんだから常識も何も無いんじゃない?」

「じゃぁ瑠の栄養は何処に消えちゃってるんでしょうね」

    そんなやり取りを繰り返しているうちに、苦笑いを浮かべた麗が俺たちの間へと割り込んで來た。

「まぁまぁ、二人ともさ……、人は見た目なんて関係無いって。 ねっ? 私なんても無ければ可くも無いし頭も良く無いじゃん? 二人とも私なんかよりずっと可いんだからそれだけで充分じゃんっ、そんな喧嘩やめよ?」

    見た目に似合わず俺たちより余程大人な対応だった。妙に気恥ずかしくなった俺は、敢えて莉結から視線を逸らして"ごめん"と謝ると、小さな"ごめん"という聲が続いた。

「それじゃ、気を取り直して可いの選ぼうね」

の手が背中を押し、俺は仕方無く本題の下著選びへと戻る事にした。

悩みに悩んだ結果、何枚か候補が上がり、莉結が若そうな店員のお姉さんに聲を掛けた。

店員さんに"フィッティングルーム"とやらに案された俺は、靴をぎその小さな空間に上がると、莉結達は"じゃっ"と一言その場を去っていき、特に説明も無いまま選んだ商品と共に置き去りにされてしまった。

訳も分からず下著を凝視して立ち盡くす。無駄に細かい裝飾のされたパステルカラーの"それ"は、俺の知る下著とはかけ離れていた。見える訳でも無いのにこんなデザインが必要なモノなのか……。そしてその値段。俺が選んだですら普通に服の一著や二著買えてしまいそうな値段だった。

"の価値観ってのは分からん"

すると突然メジャーを持った店員が"お待たせしました"と言ってって來たのだ。驚いた俺が揺しつつも店員の様子を伺っていると、徐にカーテンが閉められる。

「それではサイズの方測りますので服をいで下さい」

「えっ?」

「サイズの方測りますので……」

「あっ、はい」

俺は店員が出て行くのを待った。この人は常識が無いのか、服をげと言った癖に立ち去る様子が無い。

すると店員は困った顔で「あの……」と申し訳なさそうな聲をだした。

げばいいんですよね?」

俺はし口調を強めて言った。あなたが出ていかないとげないよね? という気持ちを込めて。

「ですから服をいで頂かないと正確なサイズが分からないので……」

    俺は真顔で「そうですよね?」と答える。流石に苛立ってきた俺は、この非常識な店員に「早くぎたいので出てってもらえませんか?」と言ってやった。

すると、苦笑いを浮かべる店員の後ろ、カーテンの向こう側から莉結の聲が響いた。

「その人に測ってもらうんだからそこでぐのっ!」

"その人に……?"

    店員と目が合い、暫くの沈黙の後、俺は満面の笑みで誤魔化した。

"それならそうと先に言えよ!"

俺は恥ずかしい気持ちを押し殺しながらも、冷靜を裝ってゆっくりとズボンを下ろす。

「あっあのっ……、ブラジャーの採寸ですのでっ!」

焦った様子でそう言った店員を見て、俺は慌ててズボンを上げ弁解する。

「履き直しただけです!」

心臓が飛び跳ねるように大きな鼓を繰り返している。それが店員に知られないように、俺は真っ赤に染まっているだろう顔を見られないよう、顔を背けてゆっくりと上著をいだ。

そして著のティーシャツをいだ時だった。「あっ……」という店員さんの微かな聲が響く。

店員に目をやると、何故か揺した様子でメジャーをばしたまま直していたのだ。

「あの……、どうかしました?」

そう言うと、店員が遠慮がちに口を開く。

「大変申し上げにくいのですが……、普段はブラジャーは著けられてないんですか?」

"男がそんなん著ける訳ねぇよ!"

そうびたくなったが、今は。グッと堪えて店員に微笑みを向ける。

「いえ、たまたまです。ほら、今日は暑いですし……」

「そ、そうですよね! 暑いですもんね!」

    再び沈黙に包まれる室。気不味い空気の中、採寸が始まった。

言われるがまま腕を上げ、無防備な部がわになる。店員の手が背後に回り、ひんやりとしたメジャーのが伝わった。こんな狀況にも慣れているのか、店員は私の気持ちなど他所に、淡々と作業を採寸を進めていく。……恥ずかしさで全がムズムズとするような変な覚に包まれている。こんな辱めは二度とごめんだ……。心からそう思った。

採寸が終わると、更室から出た俺に莉結が"どうだった?"と尋ねてきて、俺は店員の言った數字をそのまま伝えた。

……すると莉結は、俺の肩にそっと手を當てこう言ったのだった。

「大丈夫っ……、種類はたくさん選べるからっ!」

["魅のブラ"を裝著しますか?]

→  はい

    いいえ

イルの防力が1あがった。

イルの忍耐力が10あがった。

イルの子力が30あがった。

イルのが2cmあがった。

イルの自尊心が50さがった。

イルに會心の一撃。心の小傷を負った。

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