《本日は転ナリ。》12,零れたキモチ

三月……、私の學校では"林間學校"なる行事がある。それは二年生になる前に"生徒の結束を高める"というのが狙いだそうだ。

    ……だけどこんな學年末テストの時期にやるかよ普通。

一時限目が始まると、擔任の榊原先生が資料を片手に黒板へと"林間學校"と書き上げる。そして"コホン"と咳払いをすると資料を顔の橫へと掲げた。

「えー皆さんも知っての通り、明日から林間學校です。はいっ、拍手っ」

    勿論、誰一人として拍手をする者は居ない。しかし先生は何事も無かったかのように無表で説明を続ける。

「うちの學校は生徒の繋がりを大切にってのがモットーです。この機會にさらに皆さんの団結力、青春の絆を深めてください。だからと言って男の絆を深めないよーに。はい、笑えー」

    再び訪れる靜寂。しかし先生はその雰囲気に臆する事なく続ける。

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瑠さんは転校してきてすぐで悪いけど、いい機會だと思ってみんなと仲良くなって下さい。それじゃぁ林間學校のしおりを開いて下さーい……」

    団結力ねぇ……

俺はシャーペンを指先でくるくると回しながら林間學校のしおりを開いた。

……一時限目が終わった休み時間。

「ねぇ瑠っ、學校終わったら明日のお菓子買いいこっ!」

「は?    菓子なんて持ってっちゃダメでしょ?」

    常識的に考えて分かりそうな事だけど、莉結は本気なのか冗談なのか……取り敢えず俺は正論で返すことにした。

「えっ? だって遠足と言ったらお菓子じゃん。お菓子のない遠足なんて遠足じゃないでしょ?」

どうやら本気らしい……やっぱり莉結は思考回路のどこかが欠落していると思う。

「いや、だから遠足じゃないし……」

「え?    なんか言った?」

「なんか言ったけどなんでもないや」

まるで児と話をしている気分になって、面倒な會話はやめた。持ってきたければ持ってけばいい。怒られても知らないけど。

それから二時限目は育館へと移して林間學校についての最終説明を聞いた。

他の皆はそれで下校だったのに、俺は"転校したばかりだから"という理由で教室に殘って林間學校についての説明をけることになってしまった。

こういうのは本當に退屈だ。そんな事は"瑠"の時に聞いてるからどうでも良いのに。

一時間……無駄な時間を過ごしてしまった。榊原先生は"理解力凄いねぇ"なんて俺を褒めていたけど、當たり前だっつうの。

先生が教室を出て行くと、それを待っていたように莉結が後ろの扉からってきた。

「ごめんね莉結……って」

瑠ちゃんっ、久しぶりっ!」

莉結の後ろから麗が姿を現した。莉結は苦笑いを浮かべて、麗から見えないように手のひらを立てた。

「明日楽しみだよねっ! 瑠ちゃんと夜を共にできて嬉しいよっ」

    俺の機へとを乗り出すようにして興気味にそう言った麗に、莉結が呆れ気味に口を開く。

「麗ちゃんは隣のクラスだから宿泊棟別でしょ……? 夜は共に出來ないからね」

「別に夜だったら多分抜け出せるからさっ、そしたら瑠ちゃんの部屋行っていい?」

「いや、多分無理でしょ。先生見回りしてるだろうし」

俺がそう言うと、麗は大袈裟に肩を落として「えぇー……無理かなぁ」と呟く。

「まぁそれは本番當日考えるとして……瑠ちゃん、浮かれたバカな男子にそそのかされちゃダメだからねっ!」

そんな有り得ない忠告に、俺が鼻で笑って麗に視線をやると、頬を薄っすらと赤く染めた麗の真剣な眼差しが刺さる。

「えっ……えっと私、男子は興味ないから……」

がそんな表をする奴だなんて思っていなかった俺は、思わず視線を逸らしてしまった。すると麗はまたいつもの調子に戻って再び口を開く。

「そうなのっ? ならいいんだけどさっ、瑠ちゃん可いから心配でっ」

    そんなどうでもいい事を言われ、俺は小さく溜息を吐いた。すると、無意識に俺の口が本音を呟く。

「何でお前が心配すんだよ」

あっ、と思った時にはもう遅い……俺はすぐさま麗に視線をやった。すると麗の表が先程の真剣な面持ちに戻っていて、その橫では莉結が落膽の表を浮かべていた。

"お前"は無いわぁ……と自分の失言に後悔していると、突然麗が機に両手を叩きつけた。

「何でって當たり前じゃん! 瑠ちゃんの事好きだもん!」

    俺は目を見開いて、小さく「あ……ありがと」と呟く。すると麗は一瞬にしてその頬を染め上げ、慌てて両手でその口元を隠した。そして俺から視線を逸らして小さな聲でこう言ったのだ。

「ごめん……私のはそういう意味じゃないから」

    そういう意味って何?!

俺の頭が高速で回転を始める。考えれば考える程その答えは曖昧になっていく。そんな時、俺の耳に莉結の聲が響いた。

「どういう意味……?」

    すると麗は、そっと両手を下ろし、耳まで赤く染めたその顔を真っ直ぐ俺に向けて口を開いたのだった。

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