《本日は転ナリ。》21.験學習
……今朝から妙に清々しいとは思っていた。しかしそれは単純に自分の心境の変化によるものだと思っていた……
"ブラジャー"
    それはの房の形を整える下著の総稱をいう。語源はフランス語のブラシェールを英語音化したもので、世間一般ではそれを"ブラ"と略すのが一般的だ。そして、その"ブラ"を著けていない狀態の事を"ノーブラ"と呼ぶ。
    ……私達が工作室へと移すると、締め切られていた室にこもった、木材とニスの臭いが混ざった熱気が覆いかぶさるように押し寄せてきた。
室の異様な熱気に、みんなは次々とジャージをぎ、服姿へと変わっていった。
「何この暑さ……それにこの臭い気持ち悪くなりそう」
顔を顰(しか)めながらジャージをぎ出した莉結に続いて、私も莉結のぎ方を真似しつつ上をぐ。
すると、ふといつもの締め付けられる違和が無い事に気付いた。
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私は慌ててジャージを著直すと、首元のファスナーを下げ、中に著た服を摘むと、そっと元を覗き込んだ。
清々しさの原因はコレだったのか……
私はすぐにファスナーを上げると、周囲を見回して私の失態に気付いた人がいないかを確認した。
気付かれてはないみたいだけど……バレたら嫌だし暑いのを我慢するしか無いか……
仕方無くジャージの長ズボンをいでハーフパンツになると、蒸し暑い熱気に汗が頬を伝うのをじつつ私は席に著いた。
「あれっ? 暑く無いの?」
莉結が涼しげな服姿で尋ねる。私は手招きして莉結を近くに呼ぶと、耳元で「ブラ付け忘れたみたい」と苦笑いを浮かべて囁いた。
「ちょっと! なんでよっ」
    莉結の聲に視線が集まる。
「大きな聲上げないでよ恥ずかしいな!」
「ごめんごめん、もう……どうすんの? この暑さじゃ大変でしょ?」
    そう言った莉結の額にもじんわりと汗が滲んでいるくらいだ。私はというと、當然、吹き出る様な汗を頬に伝わらせ続けている。
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すると、莉結が突然不可解な事を口にした。
「絆創膏っとく?」
「絆創膏? なんで?」
    もちろん、絆創膏とは傷口を保護し、治りを良くするものだという認識はあった。
けど……何でこのタイミングなんだろ。
そんな疑問が頭の中に浮かんでいると、莉結が私の耳元で囁く。
「ブラの代わりにっとけばけないからさ、首元とかから見えない様にしとけば大丈夫でしょっ」
それを聞いた私は、更に疑問が深まってしまう。だって、絆創膏をブラの代わりにるって、一何枚必要なんだよっ!
「絆創膏でブラなんて作れるのっ?」
    真顔でそう聞いた私に、莉結は大きな笑い聲と共に「何それっ!」と指を差した。
「だって絆創膏でブラの代わりって」
「違うよっ、そんなんじゃなくてっとくのっ! 首にっ!」
    それを聞いて私の顔が更に暑くなるのをじた。
「ど、どういう事っ?」
混する私に、莉結は笑いを堪えながら耳元で言う。
「だからぁ、首にって、目立たない様にするんだよ。の子だったらそういう事覚えときなよっ」
「そ、そうなの? えっ、もしかしてみんな普通にやってんの?」
「いやっ、そんな事滅多に無いけどちょくちょく聞くよっ、ほら、これあげるから」
莉結はそう言うと、布で作られたポケットティッシュのカバーの隙間から絆創膏を取り出して機の下で私に手渡してきた。
「これを縦にるの? 橫?」
    私は真面目に聞いているのに、莉結は「そんなのどっちでも良いって」と、笑って答えた。
私は周りに気付かれないようにそっと袖から腕を抜き、服の中でお腹の前へとかした。そして絆創膏の紙を剝がすと、何食わぬ顔で首へとり付けた。
「あっ……」
「えっ? どうかした?」
「いや……何でもない」
    普段なら簡単にる事のできる絆創膏も、服の中だとかなり難しく、しだけ折れ曲がったまま張り付いてしまった。それでも何とかり付ける事に功した私は、颯爽とジャージをぎ捨て、爽やかな風に頬を緩めたのだった。
「どうっ? 何とかなるもんでしょ?」
「うんっ、最高っ! ありがと莉結」
    こうして暑さから解放された私は、気兼ねなく"地元の間伐材を使ったフォトフレーム作り"を始める事ができたのだった。
いつしか室は、木材の落ち著く香りに満ち溢れ、窓の外に揺れる木々達の葉音が、私達の楽しげな聲とメロディーを奏でていた。
普段する事の無い様な事でも、いや、普段する事の無い事だからこその楽しさだろうか。私達は夢中になってフォトフレーム作りを進めた。
「それじゃぁそろそろみんな完したみたいだから、後ろにある箒と塵取りを借りて掃除をしましょう」
職員の人の聲がして、みんなで片付けを始めた。そして、片付けが終わると、それぞれが作った作品を機の上に並べて、"最優秀賞"を決める事になった。
「えぇ……皆さんに投票してもらった作品で、評価が高かった作品を発表したいと思います。えっと……如月瑠さん。前に出てもらってもいいですか?」
    私は名前を呼ばれて、つい顔がニヤけてしまった。
「瑠凄いじゃんっ」
「えぇっ、そうかなぁ? まぁ、正直嬉しいけど」
注目を浴びる恥ずかしさを隠しつつも、私が席を立って前へと移しようとした時、背後で「あっ、瑠っ……」と莉結の聲が聞こえた気がした。
「それじゃぁ瑠さん、この作品の説明をお願いします」
そして、私が教室の前に立って口を開こうとした時だった。莉結が私に向かって手を振っているのが見えたのだ。
私は"なんだよ、恥ずかしいなぁ"なんて思いつつも、下の方で小さく手を振り返す。すると、莉結は……何か慌ただしく手をの前で振っていた。そして、莉結がの影に隠しながら必死に指を差し始めたかと思うと、床に落ちる小さなゴミが目に映った。
……ゴミ? 掃除したばっかなのになぁ……って……あれっ?!
"それ"に気付いた瞬間、私は元に目をやる。そしてその目に二つの頂點が映った瞬間、私の顔は一瞬に熱を増し、咄嗟に腕をの前で組む。それから莉結に視線を戻すと、視線で"どうしよう"と訴える。
すると莉結はの前でガッチリと腕を組み、私に"その腕を離すな"と視線で言っている様だった。
「瑠さん?」
    その聲にがピクンと反応してしまう。
"大丈夫、きっと誰も気付いて無い"
そう自分に言い聞かせて私は作品の説明を始めた。
「えっと……これはフクロウで、可いかなぁって思って作りました」
    元が気になって小學生並みの文章しか出てこなかった。でも、今は早く席に戻ってジャージを著る……それしか頭に浮かばない。
「それじゃぁ……」
    職員の人が口を開いた瞬間、私は席に向かって歩き出す。すると、「あっ、ちょっと待って」と呼び止められ、私は「な、なんですかっ」と焦る気持ちに苛立ちながら振り向いた。
「みんなに見えるように高く上げてくれるかな」
    申し訳無いけど……殺意が芽生えた。そんな事したら……男子共の視線を浴びる事になってしまうのは間違いない。私は……私のは……絶対にこんな奴らのイヤらしい視線なんかに曬す訳にはいかないっ。
そして私は……フォトフレームを手に取り、高く掲げた。
「おぉーっ……可い」
男子共の気持ち悪い聲が響く。そして私は早々と腕を下ろすと、席へと小走りに戻ったのだった。
席に著くと莉結が笑いながら聲を掛けてきた。
「さすがだねっ! 一時はどうなるかと思ったけど」
「しょうがないじゃん……私も苦の策だよ……子ウケは最悪だろうけど」
「そう? 可いって言ってる子も居たよっ? まぁ男子に見られなかっただけいいんじゃないっ?」
    私だってあんな事したくは無かった。でも、咄嗟に思いついた方法があれしか無かったんだから。
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