《本日は転ナリ。》34.瞬き

「うわぁっ、広い部屋っ! ログハウスみたいっ」

私達が泊まる大部屋にるなり、莉結は子供みたいに目を輝かせてそう言った。

木の質がそのままに出された裝は、莉結の言う通りログハウスみたいだった。室には木の香りが漂っていて、二階だというのに天井がずっと上にある。そこからぶら下がった古い電燈も、この部屋の雰囲気に合っていて、キャンプや旅行などに全然行った事が無かった私達は、その"非日常"溢れる雰囲気に心が高鳴った。

始めは楽しげな喋り聲で騒がしかった室も、私達のクラスの浴時間が來ると一気に靜けさに包まれた。よく考えれば、こんな子の人數の中、一緒にお風呂にるなんて絶対に無理だった。多分、私は何かと理由をつけてお風呂にらなかったと思う。山田先生に謝だ。

「なんか寂しくなっちゃったね」

そう呟いた莉結に、私は「だけどさっ、なんか今日は二人で旅行に來たみたいで良いじゃん」と笑った。

「旅行かぁ……行きたいなぁ。でもこういう何にもない所っていうのもたまにはいいよねっ」

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「いつもの"當たり前"がなくなるだけでこんなにも変わっちゃうんだもんね」

私がそう言って窓の外を見ていると、莉結は私を見て微笑む。

「最近の"瑠"は本當にの子らしくなってきたよねっ」

そう言われても、私は前みたいに否定しようとはしなかった。だってそれは自分でもよく分かってるから。

「なんかさ、の子らしくしなきゃって思ってるのが大きいんだけど、やっぱりだと言葉遣いとか振りが自然とそうなってくんだよね」

「私よりもの子らしいんじゃない?」

「そ、そんなことないしっ! 莉結の方がよっぽどの子らしくて可いって!」

ついそんな事を言ってしまい、私はし恥ずかしくなる。噓じゃないけど……言葉にするのはやっぱり照れる。

「えっ? あ、ありがと」

てっきり"思っても無いくせにっ"とか言われると思ってたのに莉結は照れ臭そうにそう答えた。

……そんな風にされると、余計恥ずかしい事言っちゃったみたいになるじゃんか。

すると、莉結は窓の外を見上げながら、優しい顔付きで口を開く。

瑠が小さい頃からの子だったら可かっただろうなぁ……」

「そうかなぁ? そういえばさぁ、莉結が小さい頃は純粋で何でもかんでも一生懸命で可かったよね」

「ねぇ、それって今もでしょっ? ……なんてねっ。あぁ……見たかったなぁ、小さい頃の瑠ちゃん」

「何それっ、そんなの私だって見たかったってぇ」

「でもさぁ、小さい頃から瑠がの子だったら今みたいに仲良くできてたかなぁ?」

「もちろんできてたって! きっと私の格も今と変わらないだろうしさ、多分、頼れる人も莉結しか居なかっただろうな」

「ふーん、それならいっか」

莉結はそう言って満足気に微笑んだ。私は不思議に思ってその理由を尋ねたけど、"別にっ"と笑顔で誤魔化されてしまった。

莉結はたまに考えてる事がよく分かんないけど、私の人生がどんな道筋を辿っても莉結と一緒に居たんだろうなって事は分かる。それは、容姿や別に関係なく、私の心が通じ合えるのは莉結しか居ないな、って思っているから。

「何っ? 突然ニヤニヤして」

「別にニヤニヤなんてしてないよっ、ただ……なんか幸せだなって」

「何言ってんのっ? 今日の瑠なんか変だ……きゃぁっ!」

突然天井の方から奇妙な足音が響き渡り、莉結の言葉が悲鳴に変わる。そして、私のに莉結が飛び込んでくると同時に、ふわりと舞った莉結の髪からシャンプーの香りが屆く。

「なになになになになにっ? ねぇ瑠っ! 何の音っ?」

私にしがみ付き、慌てる莉結の背中にそっと手を回した私は、クスクスと笑いを堪えながら口を開いた。

「どうせムササビかリスだよっ、びっくりし過ぎっ。莉結って意外と可いとこあるよね」

「"意外と"って失禮なっ……ねぇ、本當にムササビとかリスとかなの?」

「だからそうだって。ほらっ、よしよーし」

しからかってやろうと思った私は、子供みたいにしがみついた莉結の頭を優しくでた。でも、次の瞬間私の目に映ったのは、私が想像していた不機嫌な表でも、拗ねた表でも無く、私をじっと見つめる……見た事の無い莉結の表だった。

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