《本日は転ナリ。》45.必然の道

「あ、起きた」

力の抜けた莉結の聲がした。重いをゆっくりと起こすと、いつの間にか私は宿泊棟の大部屋に橫になっていて、天井から吊るされた電燈の溫かいが私達を照らしていた。

窓の外はすっかり暗くなっていて、私が、みんなは? と尋ねると、今日最後の班行であるナイトウォークをやっているよ、と莉結は言った。

「えっ、私達は?」

何故そんな時に私と莉結だけがこんな場所に居るのか疑問に思った私は、思わず立ち上がった。

調悪いって言って休ませてもらってるんだよ」

私はそっか、と納得したような返事をしたけど、私は何だか落ち著きが無くなってしまう。周りを見渡すとみんなの荷が置かれたままになっていて、何かあったら間違いなく疑われるのは私達だと思ったからだ。一番にそんな事を考える私は、やっぱり逃げ癖が染みついてしまっているのかもしれない、とし呆れてしまう。

そして再び橫になった私は、天井を見つめていてふとある事が頭に浮かぶ。天堂さんだ。あの子はどうなったんだろう、そう思って橫で靜かに本を読んでいる莉結に目をやる。表紙はブックカバーで隠れていて見えないけど、文庫本サイズのその本は絵本では無さそうだ。薄っすらと殘る記憶では、莉結に晝間の出來事を全て話した気がするけど、いつもと変わらない莉結の姿に、全てが夢だったんじゃないかと思い始める。しかし、莉結が本を読みながら呟いた一言で、それはすぐに解決された。

「犯人、捕まったって」

「あぁ……あの人?」

「あの人って……その、本當に瑠は何にもされてないんだよね」

莉結の視線が、開いたページを彷徨っていた。そこで莉結が気を遣ってわざと本を読んでいるフリをしているんだと分かった。

「人質にはされたけどね。暴はされてないよ。多分、あの人はそんな人じゃないと思う」

すると、パタンと本が閉じる音がして、「そんなん分かんないじゃんっ!」と真剣な莉結の聲が部屋に響く。

「何っ、どうしたの突然」

「ごめん……だけどあの時、もし瑠に何かあったら私、一生後悔してた。それだけ」

"それだけ"の言葉が、それだけじゃないと言いたげだった。確かに、もし天堂さんが容赦無く淡々と私を突き落としていたら、もしあの人が悪い人だったら……私の視界にはこのは屆いていなかった。

そんな事を考えてたら、自然とありがとう、と聲がれていた。自分でも何にありがとうなのか、誰にありがとうなのかも分からない"ありがとう"は、漠然と、過去の全てに向けて出た言葉だったのかもしれない。

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