莉結の元へ戻るとその隣には麗の姿があった。二人は輝く星たちに見飽きたのか、芝生に腰を下ろして何やら楽しげに話をしている。すると、私に気付いた莉結が小さく手をあげ、それに気付いた麗の視線も私へと向けられた。

「で、健太くん何だったの？」

莉結は麗との會話の延長線上のように何気無くそう言った。でも、私の表がよほど冴えていなかったのか、莉結は心配そうな表へと変わる。私は無理に口角をあげてみたけど、きっとそれはぎこちないままで、逆に莉結の心配を増幅させてしまったようだった。なんて返事をすればいいのか迷ったものの、あの男の事を話すのがなんだか嫌で、一言でまとめて「くだらない話」とだけ答える。そう、あれはくだらない話。青春の淡い輝きを纏っているようでも、中は自己陶酔で練り上げられた"くだらないモノ"だった。

「なにそれっ、実は告白されたんでしょっ？」

麗の澄んだ聲に私は思わず言葉を詰まらせた。勘がいいのか適當なのか……狀況的にはそう考えて當たり前なのかも知れないけど、あの事をピタリと言い當てられ、別に隠すような事では無いのに、余計に話辛くなってしまった。そして麗は黙ったままの私を暫く見つめると、突然立ち上がって私に歩み寄る。

「ほんとに告白……だったの？」

先程の聲の軽さは無く、表にもらかさが薄れていた。やっぱり麗は冗談で適當に言っただけみたいだ。そして何故か不安そうに私を見つめる真剣な眼差しに、私はなんだか罪悪のようなものをじて無意識に視線を逸らした。

「まぁ……そんなじ」

何で普通に返せないんだろう。これじゃあまるで健太の事意識してるみたいで気分が悪い。お構い無しにいつものトーンでその時の狀況を々と質問してくる莉結に溜息を吐くと、私はそれには何も答えずに一言、"興味も無いし斷ったからもうこの話はおしまい"と話を打ち止めて腰を下ろした。

それを聞いた麗は不思議と落ち著き、"あぁ……なんだっ"と笑って莉結の隣へと再び腰を下ろした。

そういえば麗はまだ私の事を好きだったりするんだろうか……。

ふとそんな事が頭に浮かんで、橫目で麗を見ると目が合った。睫の長い切れ長の優しい目。その目が私を真っ直ぐに見つめてし細まる。そして麗は、私の心を見かしたみたいに、"私はまだ好きだからねっ"と無邪気に言ってウィンクした。

私はそのウィンクをけ止めないように慌てて視線を落とすと、無意味に足元の雑草を指でなぞりながら付け加えるように"私は誰とも付き合えないよ"と呟いた。

でも麗は"高嶺の花ですねぇ"なんて笑い飛ばしたくらいだから、案外それも冗談で言っただけかも知れない。それを裏付けるように、突然麗は"そのお店のクロワッサン超味いんだよ"って多分さっきまで莉結と話していた會話の続きを口にする。莉結は困しつつもいつものじで返答していて、なんとなく健太の話は流れていった。

私達の會話は、近所に出來た服屋の店員の態度が悪いだの、あの先生は絶対にカツラだの……、別に今話さなくていいじゃんって容の話ばっかりだった。それでもやっぱりいつもとは違う周りの雰囲気に、そんなくだらない話でさえどこか特別な雰囲気を醸し出していた。

そんな會話の中で、麗の歳の離れたお姉さんは町外れの小さな科で看護師をやっているらしく、麗は事あるごとに採の練習臺にさせられているのだと言って七分丈のシャツを袖を上げると、腕にできた無數の注痕を見せてきた。

私はうわっ痛そう、なんて言いつつも、そんな事って実際やっていいものなのか、なんて疑問が私の頭の中で麗の話をぼやけさせる。

すると莉結がパチンと手を叩いて"そういえば！　"と話を切り出した。

そしてそれは、私の見た夢とリンクして一つの推論を導き出すこととなる。

莉結の話によると、私が居ない時に麗と子供の頃の話をしたそうだ。そして麗が小さい頃、しかもほぼ同時期に私と一緒の病院に院していたというのだ。普通ならその偶然に驚き、奇跡だの運命だのをじるところだろうけど、私にとってそれは夕方見た夢と麗の腕の注痕、そして意味深な発言とリンクして、全てがこの瞬間、私へと用意されたパズルのピースのようにじた。

「そうそう、あの病院から見える星空も綺麗でさぁ……毎日見てたんだぁ。てかなんで瑠ちゃん達と出逢わなかったんだろっ？　けどそれもそれで運命ってやつなのかねっ」

麗はいつもと変わらない様子だ。でも父さんの言っていた"あの子"が麗だなんて都合が良すぎやしないだろうか。ただ同じ時期に同じ病院に居て、私と同じような注痕がある、ただそれだけ。それだけなのだ。

「瑠っ？」

気がつくと二人が私の顔を覗き込んでいた。私はふと麗の顔を凝視したけど、やっぱり麗が私と同じ病気だなんて思えなかった。顔だけじゃなく振り手振りだってそれは紛れも無いの子で、それは私なんかと違って生まれ持った偽りの無いモノに見えた。

「みんな星空は満喫できたかぁ？　整列しろー。センターの方からお土産を頂いているのでクラス別に並んでけ取れよー」

先生のその一聲で會話は中斷され、私の疑念を殘したまま私達はその場を後にした。