《本日は転ナリ。》75.リンク
そしてそのシートの上にはお重箱に詰められた、容に似合わない彩りの良いサンドウィッチやデコレーションされたクッキー、わざわざ袋から出して盛り付けたであろうお菓子が並んでいる。すると莉結が私に持たせていたバッグを手に取って、中から似たようなお重箱を取り出した。
「みんな良かったらこれも食べてねっ」
そう言って莉結がお重箱の蓋に手を掛けると辺りから歓聲が上がった。麗の友達なんて目を輝かせて攜帯のカメラを構えだしている。私はそんなに興味は無かったけど、やけに重かった荷の正を確かめてやろうと私も合わせて視線を向けた。
「ジャーンっ」
「何だこれっ!」
莉結の掛け聲と共に開かれた蓋の中を見て私は思わず聲を上げてしまった。それに対して笑いが起こり、私は恥ずかしくなって視線を逸らした。
莉結のお重の中、それは都會の満員電車の如く詰め込まれた三団子の詰め合わせだった。
「これ莉結ちゃんの手作りっ?」
麗がそう言うと莉結は照れ臭そうに頷いた。しかし、嬉しそうな麗を他所に詰め込まれ過ぎて変形し、団子には見えないようなそれを見て苦笑いを浮かべる麗の友達。あんなにはしゃいで構えていたカメラもシャッターを押す事なくバッグへとそっとしまっている。そんな姿を見て私は"あぁそういう事か"と何となくその子の事がわかった気がした。その子にとっては寫真に殘す理由なんて思い出の為ってよりは自慢の材料集めみたいなものなんだろう。それはきっと手作りの可い食べを寫真映えのする場所で食べたんだよっ、ていう優越の押し付け。でも私は見映え重視で作ったようなものよりも、この莉結らしさで溢れるものの方がいいと思った。きっと莉結は"みんなが好きなだけ食べられるように"なんて考えてこんなにも沢山の団子を作ったに違いないから。
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「莉結凄いじゃん。こんなに沢山いつ作ったの?」
莉結の耳元で私は言った。手作りの団子はすぐ固くなっちまうから作り置きはできないんだよ、と莉結のお婆ちゃんが言っていたのを思い出したからだ。
「今朝だよ? まぁお婆ちゃんにもちょっと手伝ってもらったけどね」
どんだけ早起きしたんだよ、なんて思って頬が緩んだ。でも本當はみんなでこういうことするの好きなのかなって今更になって莉結の知らない一面が垣間見えた気がして何だか嬉しくなる。それと、私にも"今日來て良かったな"なんてが湧き出た事は莉結には緒にしておくつもりだ。
「誰も食べないならもらっちゃおっと」
私は態とらしくそう言って団子を一本取ると口に含んだ。莉結の作ったものなんだから味しいに決まってると思ってはいたけど……。
「何これ……、凄い味しいっ!」
自然とそんな言葉が溢れた。甘いものはそんなに食べなかった私だけど、これも味覚の変化なのか……、ううん、これは今まで食べた事が無い新種のデザートだからかもしれない。
そのらかな団子の中に詰め込まれていたものは餡では無く甘酸っぱい苺ソースだった。そしてそれだけじゃ無い。苺ソースの赤団子、白の団子には練がっていて、緑の団子にはキウイソースがっているという手の込み用だ。
「何これっ、ヤバいっ」
私の後に続いて口にした麗さんが目を見開いて手足をバタバタとさせた。それを見た麗の友達も、顔を見合わせてから団子を手にとり……。
「ホントだっ……、凄い味しいっ」
私は心の中で"見た目より味だバーカっ!"と舌を出した。ふと目をやった莉結の橫顔は本當に嬉しそうで、私も莉結の努力が認められた気がして嬉しかった。
「稚華も食べなよっ」
麗がそう言って団子を手に取った。そういえばさっきからこの子だけはみんなのにっていない気がする。上手い合に話を合わせつつもどこか私たちに壁を作っているような獨特な雰囲気。
「ありがとっ……、うわっ味しいっ! これ貰ってってもいいかなぁ?」
その言葉に一瞬訪れた沈黙。そしてその意味を考えている私たちに麗がそっと口を開いた。
「稚華にはの悪い妹が居るんだ。だから妹にもって事、そうでしょっ?」
「あぁ、ごめんっ。言葉足らずだったね。そういう事なんだけどいいかなぁ?」
すると莉結がし困ったような表で言った。
「うん……。私は嬉しいけどこのお団子手作りだから家に著く頃には固くなっちゃってるかも」
それを聞いた稚華さんは手に持った団子を見ながらも殘念そうに"そっかぁ……、ならしょうがないかっ"と呟く。
「また作りたてのやつ持ってってあげるよっ! 妹さんにっ」
莉結がそう言うと稚華さんは喜んだ。しかしすぐに表を曇らせてこう答える。
「あ、でもごめん、やっぱりいいや。うちの妹、人見知りで家に人が來るの凄い嫌がるからさっ。ホントごめん」
稚華さんはそう言って視線を逸らした。その瞳は何処か寂しげで、本當は來てもらいたいのにできない理由がある、稚華さんの表からそんな雰囲気をじた。
「じゃぁ私が妹の分も食べちゃおっと」
麗さんがおちゃらけて団子を手に取る。麗はこういう所に敏で空気を読むのが上手いよな、ってつくづく思う。そんな麗のおかげでしずつ打ち解けていった私たちは、暫く経ったころには満開の桜には目もくれず、何でもない話に花を咲かせるようになっていた。
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あの注痕……。それは私のものとよく似ていた。あんな所に沢山の注跡を殘すような事はよくある事だろうか? いや、なくとも私の知る限りはそんな人は會ったことが無いのだ。そしてもう一つ、私の夢に出てきた父さんの言葉。あんなものはただの夢だったのかもしれない。だけど妙にリアルで脳裏に焼き付いたその言葉は、目の前の事実と夢の中の言葉たちをリンクさせようとしていた。
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