《本日は転ナリ。》76.フェイク
しかし麗は笑顔のままその言葉には否定もせずに"これねぇ……、めっちゃいんだよ"とおもむろに袖をめくりだす。
そしてわになったその細い腕には、やはり私と同じような複數の注痕が殘っていた。でもそれだけで私と同じ病気なんだって決めつけるのはまだ早い。そう思いつつも、私は食いるようにしてその腕の點を見つめていた。
するとそんな私の視線に気付いたのか、麗は「ごめんね、食事中に気持ち悪いよねっ」と、裁悪そうに苦笑いを浮かべて袖を戻した。でも私は慌ててそれを否定する。そして"聞くなら今しかない"と麗の口が開く前にの奧に押し込んでいた言葉を口にした。
「それ、どうしたのっ?」
その質問に麗が揺する素振りはない。でも私に同じ質問をされても揺なんてしないだろうからそれも深読みし過ぎなだけだろうか。しかしその答えを聞いて私の思考は一瞬止まってしまった。
「えっ? 今なんて?」
「注の跡っ。ルーティンってのは毎月のお決まり事みたいなっ?」
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"毎月のルーティンの注の跡……的な?"麗はそう言ったのだ。それは私が"いつもの事"としてやっていたのと同じ。これもただの偶然として捉えていいものなんだろうか。そして次の瞬間、その私の推測を確信へと変える一言が穂の口から出る事となった。
「じゃぁ麗って毎月わざわざ聖英まで通ってんの?」
聖英? 間違いない。病院、注、毎月の事……。その全てがリンクした時、私の中で憶測が形を変えた。
"きっとなんの為の注かを聞ければ全てが繋がる"
たとえ誤魔化されたとしても、私には考えがあった。そんなにも毎回同じ場所に注を打つなんて事はそんなに無いはずだ。だからいつもの看護師さんに私と同じような注痕が殘る治療のケースを聞けばいい。そしてその答えからまた消去法で真実へを摑む。
そして私がその問い掛けをしようとした時、稚華さんの言葉が私の口を閉ざさせた。
「聖英って昔から通ってるの? もしかして院とかもしてたりする?」
今まで黙って話を聞いていた稚華さんが急に口を挾んだのだ。自ずとみんなの視線が麗に向けられる。そして麗はし考える素振りをした後、こう言った。
「えっと……、通ってるのは最近だけど、ちっちゃい頃は院してたかな。どうかしたっ?」
小さい頃に院? こうなるともう麗が私と同じ病気だとしか思えなかった。
……でも、そうだとして今の麗は"本當の姿"なのだろうか。そこで一瞬の不安が過ぎった。もし麗がシュールマン癥候群、若しくは私と同じように無理矢理に別を変えられているのだとしても本人にその認識はあるのか。もし、し前の私みたいに何も知らないとしたら、私はどう接せればいいんだろう……。
また私の悪い癖が出た。ここぞという時に込みをしてしまう、自分でも嫌になる癖。
「何でもないけど麗ちゃんって何の病気なのかなって心配になってね。ってかそんなに注打つって何でなのかなって思ってさ」
私は思わず稚華さんを凝視した。私の聞きたい事を代弁するかのようなその言葉。そしてズルい私は黙ったまま麗へと視線を送ると、息を飲んでその答えを待った。
「あぁ、これ? 採の練習だよ。看護師やってる親戚のお姉さんの。別に私は病気でもないし変なクスリとかでもないから安心してよっ」
採? 私はその返答に疑問を持った。何故なら聖英病院は市でも指折りの大きな病院で、新人看護師の採の練習なんかで一般人に理由も無く針をれる事が許される訳が無いのだ。通院歴の長い私は々な話を聞いてきて多なりとも病院の仕組みだとかルールだとかを知っているつもりだ。これもいつものお喋りな看護師さんのおだ。
「へぇ、そっかぁ。了解っ……」
稚華さんの小さな聲が響く。そのまま稚華さんは頭上の桜を見上げた。何故だか私にはその姿が喜びに満ちているように見えた。
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