《本日は転ナリ。》After Story…My Dearest.63

「アメリアは私の日本語の先生だったのよ」

リヴィはそう言って何も無かったかのように私の質問の答えへと話題を戻した。

たしかにそんな事を聞いたけど、私は今リヴィが話した事が頭に引っかかって離れない。"アメリアさんが私に固執していた"という言葉がリヴィの私への不純した想いに直結している気がしたからだ。でもどうせ聞き返したってさっきみたいにはぐらかされるだけだし、私は何とか話題を戻す事ができないかと頭を捻った。

「そうなんだっ、でもアメリアさんって何で日本語上手なの?」

そう言って本題へは無理に近づける事なく、話題の終著點への布石をしてみる。アメリアさんの話の中で、自然にリヴィの本心が溢れるんじゃないかって魂膽だ。

単純にアメリアさんの事を知りたい気持ちも相まった質問だから、私にとってはどんな答えだろうと興味がある。

「日本の友人と頻繁に會っていたから……、かしら」

それを聞いて、まず頭に浮かんだのが父さんの事だった。多分、私の病気や研究の事で頻繁に會っていたのだろう。それにしても何故リヴィは私の父さんの父さんの事を"日本の友人"なんて言うのか。それが気に掛かった。

「日本の友人って私のお父さん……だよね?」

その問いにリヴィの顔が変わるのが分かった。それは些細な変化だけど、顔の筋が一瞬強張ったように見えた。

「ええ、そうとも言えるわね」

何とも曖昧な返事だった。素直に"そうよ"と言えばいいのに。そう思いつつ視線を向けたリヴィは、何故か悲しそうにテーブルの上の空いた皿を見つめている。

リヴィから滲み出している暗い雰囲気が私の言葉を詰まらせてしまいそうで、そうなってしまう前に私は敢えて明るく振る舞いながら再び質問を投げ掛けた。

それは"私のお父さんはどういう人だったか"というものだ。

私には父さんの記憶というものがはっきりと(のこ)っていない。それも當然といえば當然なんだけど、私にる父さんの記憶というものは概念に近いものでしかなかった。私には病死した父親がいる。ただそれだけの記憶。あの時蘇った父さんの記憶でさえも、その顔をはっきりと映し出してくれた事は無かった。

でもリヴィには私の父さんの記憶が殘っている。何だか悔しい気もするけど、仏壇に供えられた影以外の父さんの記憶を知りたくて、私はリヴィの返事を待った。

「ごめんなさい、私もよく知らないの。だけどね、アメリアから々な話を聞いたわ。それはもう數え切れないくらいの」

目を細め、悲しそうに微笑んだリヴィは、私を見てこう続けた。

「安心していいわ。貴は……、瑠はお父様にされていたのだから」

それを聞いて嬉しい反面、鬱々とした気持ちが心に浮かんだ。

すると、自然に私の口から"なんで? "という言葉が溢れていた。

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