《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》1-2 「何でもゆぅ事聞くからぁ……」
宮ヶ谷晴流みやがやはる。十六歳。現在高校二年生だが、時はまだ四月。つまり進級したてである。そんな俺は神奈川県橫浜市にあるごく普通の高校、県立東羽高校へ通っている。
績は中の上。運神経は普通。まあ強いて言えば球技は得意かな。あと居眠りも得意だぞ。どこでも寢られる自信があるし、一旦寢たらまず起きない。
この前東京へ遊びに行って山手線に乗った時、吊革に摑まったまま寢てしまい、ぐるっと一周したことだってある。
そんな冴えない男子高校生の俺は今、同じクラスの、もといの堂庭瑛と二人橫に並んで帰宅している。
長差が激しいものの、傍から見たら人同士に見えるかもしれない。だが殘念ながら俺たちはそんな関係ではない。
保護者……? いや、飼い主?
……ただの馴染みだな。
俺と堂庭の仲は稚園時代から続いている。またお互いの家の距離も近い。
堂庭の家は俺の家の隣の隣にあり、ご近所さんということで家族ぐるみの付き合いだったりもする。
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稚園の頃の遊び相手はいつも堂庭だった。人目を憚らず無邪気に遊んでいたよな……。
ってあれ?
俺って堂庭としか遊んでいなかったっけ?
他にも誰かの子と遊んでいたような気がするが……。記憶が曖昧で思い出せないな。
まあそんな訳で楽しかった期だが、そんな関係がずっと続いた訳では無かった。
俺達は小學生になり、俺は近所の公立小學校へ通うことになるのだが、堂庭は全寮制の子校。俗に言うお嬢様學校の私立鶴岡學園附屬小學校へ通うことになっていた。
堂庭の両親の意向だったらしいが、俺はこの時もう堂庭と一緒に遊べなくなってしまうのではと心配していた。
そして迎える小學生時代。
やはり全寮制というだけあって、堂庭が家に帰ることはほとんど無くなった。
顔を合わすのは正月くらいになり、遊ぶことはおろか會話さえも挨拶程度に留まり、お互いの関係は段々と疎遠になってしまった。
中學校からは一緒の學校になり、堂庭と會う回數も頻繁になったが、以前のような仲良しの関係にすぐ戻るということは無かった。
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俺は堂庭とまた仲良く過ごせるようになるのだと思い、ワクワクしていたが彼の他人行儀のような態度は変わらず、々ショックであった。
だが俺はこの時、堂庭にある変化が起きていた事を知ってしまったのだ。事件とも呼ぶべきその出來事があってから、お互いの関係は現在に至るまでまたしても変わっていった訳なのだが……。
「なあ堂庭。お前中一の時にあった例の事件。覚えてるよな?」
「はあ? 覚えてるに決まってるでしょ。ってか思い出させないでよ。恥ずかしい」
顔を赤くして恥ずかしそうに俯く堂庭。
彼は変わっていた。恐らく小學校の頃に何かあったはずなのだが、俺には分からない。だが一つ確信できる點がある。
その変化は他人には絶対に言えないという事。
また堂庭の最大の弱味でもあり、俺が彼に対抗する際の唯一無二の切り札。
そんな彼の隠された真実を知ったのは約四年前。俺達が中學一年だった頃のある日のことである。
◆
中學生になった俺は、男友達を何人か作り、ごく平凡な生活を送っていた。
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堂庭とは同じクラスであったが、この時はお互いに疎遠で會話も事務的な容のみ。
まあクラスメイトとして最低限に留まる仲といったじかな。
そして訪れる事件の日。
中學學から二ヶ月くらい経ったある日の放課後だった。
俺はいつも通り一人で學校から帰っていたが、この日は學校の都合で給食を食べてすぐに下校となっていた。
「みなさーん。橫斷歩道は手を挙げて渡りましょーねー」
「「はーい!!」」
帰り道。恐らく散歩中であろう稚園児の団とすれ違う。皆元気で賑やかだな。
それからしばらく歩き、差點を曲がって細い路地にる。
するとそこに見慣れた制服を著た子が立ち止まっていた。
思わず俺は足を止める。
「あれは……」
その子はこちらに背を向けていた為、顔は確認できなかったが、俺は彼の姿に見覚えがあった。
小柄な型でツインテールのの子。
それは間違いなく俺の馴染みでありクラスメイトでもある堂庭だった。
こういう時って聲を掛けるべきなのだろうか……?
でも堂庭と話すことはほとんど無いし何か気まずいな……。
だが俺の行く先に立ち止まる彼に何も話しかけず通り過ぎるのは変だろう。
しかも道幅は狹く通り過ぎる際、確実に至近距離になる。
何故堂庭が立ち止まっているか知らないが適當に挨拶でもして通り過ぎようと、一歩前へ足を踏み出す。
すると彼は突然驚きの行に出た。
「きゃー! もうたまらんわぁ!」
誰に向ける訳でもなく一人でんだ堂庭は、近くの電柱にしがみついた。
「ヤバすぎぃ! もうアレはヤバすぎぃ!」
お前の頭がヤバすぎるよ!
堂庭の不可解な行に俺はがけなくなっていた。
あれは本當に堂庭なのか……?
この時俺は人生最大の『ドン引き』を経験したに違いない。
後ずさることもできず、ただただ俺は固まっていた。
石化の魔法をかけられるとこんな風になるのだろうか?
「もう可すぎー! 可すぎて生きるのがツライ……ってあ!」
「……え?」
電柱に這いつくばって頬をすりすりしていた堂庭がこちらへ振り向き、俺と目が合ってしまった。
うわ何これ……。滅茶苦茶気まずい……。
「えっと……その……」
「……は、晴流?」
「あっ…………」
「き、きゃあああああ!!」
堂庭は悲鳴を上げ、手で顔を覆って座り込んでしまう。
俺はこの場に居合わせたことを強く後悔したが、過ぎてしまったのだから仕方ない。
の直が解けた俺は足を前に出し、堂庭の近くへ駆け寄る。
「その……なんかごめん……」
「見てたの!?」
俺が聲を掛けると堂庭は顔を隠していた手をどけてこちらを睨みつけてきた。
その聲は先程の甘い聲とは違い、とても強気だ。ってか怒ってる?
「あぁ……。結構しっかり……」
「もう最悪だあぁぁぁ……」
遠慮がちに俺が答えると堂庭は両手を地面へペタリとつけて崩れるようにへたりこんでしまった。
「ぐすん……。えっぐ……」
あれ……? まさか泣いてる?
まあ相當な醜態を曬したのだから無理もないか……。
しかし何故あんな行を……?
てか待てこの狀況!?
これじゃあまるで俺が堂庭を泣かしたように見えるではないか!
周囲に人気は無いが……。このままじゃ不味いな。
「あの堂庭……? 俺が悪かったから顔を上げて……」
「……誰にも言わないで」
またしても堂庭は勢いよくこちらを睨みつけてきた。
ただ先程とは違い、聲音は弱く涙目になっている。
「何でもゆぅ事聞くからぁ……。この事は誰にも言わないでぇ。」
嗚咽混じりに俺に訴えかけてくる堂庭。こちらを睨んでいるくせにその目には涙が溜まっている。おまけに泣いているせいか顔も真っ赤だ。
こんな時に不謹慎ではあるが、その時の堂庭は反則レベルで可かった。
強気な態度をとることが多い彼が、こんなにか弱い表を見せたことは今まであるはずも無く……。
稚園生から見慣れた顔なのに……何故だろう? 俺は張している。心臓もバクバクだ。
てかちょっと待て。堂庭は何でも言うこと聞くって言ってなかったか?じゃあ……。
思考を切り替え、彼へ返す言葉を考える。
しかし當時の俺はまだ心が純粋だったようで考えた答えも割と素直なものだった。
「じゃあ……。前みたいに、俺と……と、友達になってくれるか?」
彼と離れてしまった距離。
昔みたいに笑いあって遊びたい。ずっとそう思ってきたのだから。
言うなら今しかないと、詰まる思いで口を開いた。
だが、堂庭は俺の予想外な返事をしてきた。
「……何言ってるの? そんなの……。私たちずっと友達じゃん」
「……え?」
「もう……。晴流ってば本當に変わってないんだから」
堂庭はニコッと笑い、目に溜まっていた涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。
その笑顔はとても優しくて……。俺はに何かが高まる思いをじていた。
友達……。別に俺と堂庭は縁を切った訳でもなくずっと友達。そう彼は言ったのだ。
「そ、そうだよな! 俺達……友達……」
「うん……。ってえへへ。何か安心した。やっぱ晴流は晴流だよね」
「それは……どういう意味だ?」
それから堂庭は「あんたはずっと変わっていない」と言った。
その意味は今も理解できないままなのだが、この日から彼との仲は変わった。
堂庭は俺にやたらと構うようになり、家にも(勝手に)押しかけてくるようにもなった。
もしかしたら中學生になって、彼も俺と同様に昔のように仲良くなりたかったのかもしれない。
そのタイミングが、多分お互いに摑めなかったのだろう。
そしてこの一連の出來事を俺と堂庭は『電柱事件』と呼ぶことにした。安直なネーミングだが、センスはお互い無いので気にしないことにしている。
ちなみに後日談になるが、この時堂庭が電柱に抱き著いた理由は「稚園児の団を見かけてつい興してしまったから」だったらしい。
◆
「いや待てよ。結局あの時俺って要求は出したんだっけ?」
堂庭と肩を並べて歩く帰り道。俺は綺麗に晴れた青空に向かって呟いた。
「え? 何のこと?」
「……お前が何でも言うこと聞くって言った時の事」
「なっ……!」
堂庭は當時を思い出したのか、俺から目線を逸らしてしまう。
俺は堂庭と友達になりたいと要求した。だが堂庭は俺達は既に友達だからと答えた。
つまり……俺の出した要求は要求になってはいないはずだ。
あのとき俺は堂庭に対して他に要求はしていないはずなので……。
「あの時の答えを今出してもいいか? まあ何でもするって言ってたし定番の……ぐはぁ!?」
背中に激痛が走る。毆られた。心を読まれたか?
堂庭の前で薄い本展開が起こることはやはり無いのか。
まああっても困るのだが。法律とか児保護とかそういう関係で。……って違う?
「ちょ、いきなり毆るのは卑怯だろ」
「晴流の馬鹿。…………あの時のあんたの言葉。あたしは結構嬉しかったのに」
「え? 今なんて……?」
「……何でもない!」
堂庭はそれから俺と別れるまでずっと俯いたままで、話し掛けても反応してくれなかった。
でも最後に言った堂庭の言葉。か細い聲だったが俺には聞こえていた。
聞き間違いだと思ったが、もしかしたらいつもツンツンしている彼が、今だけはデレていたのかもしれない。
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