《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》2-9 「乙の貴重なデータじゃぞ?」
「味だったのう!」
「確かに人気店なだけあって味は確かだったな」
店を出た後の修善寺さんはテンションが高かった。
料理が本當に味しかったらしい。不味いと言われたらどうしようかとヒヤヒヤしていたが、ひとまず安心である。
そして俺は心の中で堂庭に謝した。ありがとう、今度は皆でまた來たいと思う。
「次は確かコスモワールドじゃったな!」
「あれ? そうだっけ?」
修善寺さんの言葉に疑問をじた俺はスマホを取り出し、堂庭からのメールをチェックする。
『ランチ後はコスモワールド♪ → 山下公園を歩け! → 赤レンガ倉庫の強風を浴びよ』
「う……。これは……」
行程によると次の目的地は確かにみなとみらいを誇る遊園地『よこはまコスモワールド』だった。
場所は問題ないのだ。不満も無い。だが……。
「ごめん、先に山下公園に行こっか」
「え? 何故なのじゃ?」
「いやこの行程なんだけど、回る順番が滅茶苦茶なんだよ」
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堂庭が示したデートコースは行った所に戻ったり、また行ったりとまるでウォーキング大會のような容だったのだ。
ったく場所くらい調べてから行程を考えるだろ普通。俺は心の中で堂庭に毒突いた。
「ほっほっほ。瑛殿は悪気があった訳では無いと思うぞ」
俺のしかめっ面を見た修善寺さんが何かを察したような表を浮かべて答える。
「彼の社會、特に地理の績が大蛇級に悪いのは知ってるかえ? 彼奴あやつは地図がこれっぽっちも読めないのじゃ。おまけに道も覚えられん」
「ちょっ、それって要するに凄い方・向・音・癡・じゃねーか!」
大きく頷く修善寺さんを見て、俺は愕然とした。
まさか堂庭が方向音癡だったなんて。何年も顔を合わせた馴染みだというのに全然知らなかった。近すぎる間柄だからこそ見えなかった事実かもしれない。
「そう暗い顔をするでない。お主が分かっていれば十分じゃろう。……因みにも方向覚は鈍いのじゃ」
「それは分かってる」
俺は溜め息混じりにスマホの地図アプリを開き、行き先を山下公園に設定した。
時刻は正午。爽やかな初夏の日差しの中、週末の山下公園はカップルや家族連れで溢れ返っていた。
「何故こんな何もないただの公園に人が群がっているのじゃ?」
「いやいや景とかさ、々見れるし……」
「……宮ヶ谷殿、もっと人のない場所が良いのじゃ」
「え……? 人のない?」
それってもしかして……。
「お主は何か勘違いをしてるのではないか? 初回デートで隠れてチューするなんて破廉恥な出來事は現実だと早々ないぞい」
「ぐっ……。分かってるよそんな事」
「……は人混みが好きじゃないのじゃ。どこか開けたところに連れてっておくれ」
軽く無視されたか、俺?
修善寺さんはし不貞腐れた顔をしていた。それに顔も悪い気がする。
このままでは修善寺さんの調子と機嫌が悪化してしまいそうだったので、ひとまず公園の奧へ進んでいくことにした。
「うむ。ここら辺ならスッキリするのう」
両手を広げ、深呼吸をする修善寺さん。
俺も釣られて深呼吸をする。気があるが味しい空気だ。
「そこにベンチがあるではないか。宮ヶ谷殿、し休んでいこう」
「おぅ、そうだな」
修善寺さんはトコトコと駆け足で遊歩道脇にあるベンチへ向かっていく。すっかり本調子に戻ったようだ。
修善寺さんが先に座り、その隣に俺が座る。あぁ、これって如何にもデート中のカップルってじだよな。……やばい。また張してきた。
「なぁ宮ヶ谷殿、一つ聞いてもいいかの?」
「ん? えっと……何?」
「お主は貞かえ?」
「ぶはぁ!?」
吹き出した。
唐突に何言い出すんだよこのお嬢様は。
「い、いきなり何なんだよ!」
「ほっほっほ。経験はナシという事じゃな。お主は本當に答えが顔に出るタイプじゃのう」
「お前分かってて聞いただろ!」
さっきから思ってたんだが俺、修善寺さんに弄もてあそばれてないか?
別に悪い気はしないが今のは流石に恥ずかしい。
一方修善寺さんは可笑しそうに口元を手で押さえて笑っていた。
そんな彼の顔を間近で見ていると俺の抱えてた恥ずかしさは別の恥ずかしさに置き換えられてしまう。
悔しいが可さは武ということだろう。子って怖い。
やがて修善寺さんは落ち著き、俺達に靜かな空気が流れる。
鴎かもめの無く聲と心地よい風。
時折修善寺さんのらかい髪が甘い香りと共に俺の顔に當たる。
お互い沈黙だが気まずくない一時。
小さく深呼吸をしてみる。
……素晴らしい。俺は今、人生最高の幸せを験している。
こんな時がいつまでも続けばいいのに……。
そしてしばらく時間が経ち、最初に口を開いたのは修善寺さんだった。
「因みにも処じゃ。お主とは案外相が良いかもしれんのう」
「ぶひょえ!?」
再度吹き出す。
おい! せっかくの雰囲気をぶち壊すんじゃねぇよ!
てか相が良いってどういう意味だ?
「む? 今のは乙の貴重なデータじゃぞ? 有り難くその脳に刻み込んどくのじゃ」
「修善寺さん……恥じらいとかないの?」
呆れ顔で聞く俺に「はて」と首を傾げる修善寺さん。
「宮ヶ谷殿、先程も申したじゃろう。恥じらいは人生の無・駄・なのじゃ」
「いや今のは子として発言してはいけないだろ!」
恥じらい云々以前の問題である。
「ほっほっほ。も流石に弁えてはいるぞ。例えばあのおじさんに乙のを打ち明ける事はないぞい」
遊歩道を歩く男を指差しながら話す修善寺さん。仮にそんな事言ったらただの癡だろ。
「やはり宮ヶ谷殿は遊びがい……いや、良い奴じゃのう」
「あの修善寺さん。今何て言いました?」
「はえ? はただお主を褒めただけじゃぞ」
そう言いながら彼は小悪魔のような笑顔を浮かべた。……この確信犯め。
「さて、そろそろ次の場所へ向かおうではないか」
「おう。次は……赤レンガに行ってみよう」
修善寺さんは勢い良く立ち上がり「行くぞー」と片腕を高く上げる。
その姿は子供のように無邪気で、気が付くと俺は笑っていた。
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