時刻は午後三時を過ぎた頃。

堂庭からのメールにもあったように、俺達は先程まで赤レンガ倉庫で海の強風を浴びていた。

ここで修善寺さんはやたら髪のを気にしてったり押さえたりしていたのだが、どうやら髪が傷むか心配だったらしい。人をからかって楽しんでいても、本質的にはお嬢様というかの子なんだなとじさせられた。

そして俺と修善寺さんは本日最後の目的地『よこはまコスモワールド』に來ていた。

「宮ヶ谷殿、わしはあれに乗りたいのじゃ！」

到著早々、修善寺さんはこの遊園地で一番目立つ巨大なアトラクションに指をさしながら話す。

「観覧車か……」

デートの定番ともいえる乗りだが、あの狹い室にの子と二人。何も起こらないはずもなく……もないのだが。

「ちょっと流石に恥ずかし」

「何をぐずぐずしているのじゃ。早よ行くぞ」

俺の言葉を遮り、片手を摑まれ引っ張られる。

やはり修善寺さんに男間の恥心は無いようだ。

「ちょっと待って修善寺さん！　先に券売機で券を買わないと……」

「ほう、そうなのか？　券売機は……あっちの方なのじゃ？」

「いやそっち今來た道なんですけど……」

しかも園外の道路に指を向けてるし……。もはや方向覚以前の問題ではないか？

またも失態を犯したと自覚した修善寺さんは恥ずかしそうに小さな聲で答える。

「もうは余計な事を言わん。お主についていくから早く観覧車に乗せておくれ」

「はいはい……」

既に観覧車は乗らずして通れない道となったようだ。

恥ずかしいが我慢だ。今日は修善寺さんとデ・ー・ト・しているのだから。

「うひょおぉー！　高い！　高いのう！」

お目當ての観覧車に乗った修善寺さんは無邪気にはしゃいでいた。

俺はそんな彼を橫目に広がるビル群の方へ視線をかす。

綺麗に晴れた青空のおで景は良好だ。遠くには富士山も見える。

「これなら學園も見えるかもしれないのう！　えっと……あっちの方か？」

「そっちは東京だよ……」

修善寺さん、あなたの學園の周りにあんな大量の高層ビルが立ち並んでいましたか？

正反対の方角を指差しているし、もはやこれは故意なのではと疑いたくなってしまう。

溜め息を一つこぼし、視線を窓の外へ戻す。

すると修善寺さんが落ち著いた聲で話し掛けてきた。

「突然じゃが、お主の學校へ書を送った理由を知りたくないかの？」

「えっ……」

慌てて視線を修善寺さんに向けると彼は真剣な顔でこちらを見ていた。

書……數日前に新聞部宛に送られたあの封筒の事か。

「勘違いしてるかもしれんから、是非の言い分を聞いてくれ……なのじゃ」

「うん、寧ろそれは聞きたいな」

何の脈絡もなく突然送られた手紙と寫真。……寫真？

そうだ！　あの堂庭の抱きつき寫真は一どこで手したんだ？

俺は咄嗟に聲が出そうになったが、その前に修善寺さんが話し始める。

「あれは瑛殿に自覚してもらう為に行ったのじゃ。決して悪気があった訳ではない」

「……え、自覚？」

「ロリコンが差別されるという事実じゃ。仮にバレたらまたあの時のように……」

修善寺さんの顔が曇る。

またあの時……？　俺の知らない所で堂庭に何かあったのだろうか。

疑問に思った俺は彼に問うが、表は暗いまま靜かに答える。

「……瑛殿の癖は學園では既に有名じゃ。それで彼奴の地位が落したのも……また有名な話じゃ。」

「は？　マジかよ！？」

それって要するにロリコンが原因でハブられてたって事じゃないか。

堂庭の奴、そんな事一言も言ってなかったぞ。

中學から俺と同じ公立學校に進學したのも、もしかしたらそういう背景があったからなのかもしれない。

あいつ、何で言ってくれなかったんだよ……。

「それで瑛殿が高校でも同じ過ちを犯さないように、わしの善意で送ったのじゃ」

「そんな意味があったのか……」

しかし今回の手紙が原因で高校の連中にもバレたらどうするつもりだったんだ？

いくら何でも危ない橋渡りな気がするが……。

ってかそれよりも聞きたい事があるんだった！

「修善寺さん、寫真！　あの手紙と一緒にれたあの寫真はどうしたんだよ！」

強く問いただす俺に、修善寺さんは一瞬だけニヤリと口角を上げる。

「それは……とあるルートから偶然手したのじゃ」

「何それ怖っ！」

堂庭には専屬スパイでも付いているのかよ。

「というかさ、そもそも手紙で送る必要は無かったんじゃないの？　堂庭に直接言えば良かったじゃん」

「まあそれでも問題は無いのじゃが、そうするともう一つの目的が達されなくなるのじゃ」

もう一つの目的？

理由は他にもあると言うのだろうか。

「これはのエゴイズムなのじゃが……。お主と瑛殿が通う東羽高校の質を確かめたかったのじゃ」

「え？　それってどういう意味……？」

すると修善寺さんはを噛みしめ、しの間の後に淡々と話し始めた。

「仮にあの書の容が広まったとすれば、それは人を尊重する能力が欠如している鶴岡學園の連中と同じレベルという事じゃ」

「……つまり俺たちが堂庭のを暴するような程度の低い人間か見極める為だったと？」

「まあそういう意味じゃな」

當然の如く答える修善寺さん。彼は俺達東羽高校の生徒を実験臺として扱ったというのか？

だが結果としては新聞部員の理解があった為、堂庭のロリコン疑が広まらずに済んだ。

しかしながらが知れ渡る可能もなくはなかった。いくら堂庭に気付かせる為の行とはいえ下手すれば狀況は悪化していたのだ。

堂庭の悲しむ顔なんて見たくない。それは馴染みとして當然の考えだろう。あいつは馬鹿みたいにはしゃいでる姿が一番似合うからな。

そしてそれを妨害する奴は……俺が一言申してやる必要があると思うのだ。

拳を強く握る。俺はいつの間にか修善寺さんにしの苛立ちを覚えていた。