《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》3-4 「一緒に行くんですよ?」

「『あーちゃん』のこの涙袋とか超可くないですか!?」

「えっと、うん、そうだね……」

「好きなの?」と俺が聞いてから桜ちゃんの口は止まらなかった。

推しメンはこの子とか、次に発売されるアルバムは神だとか彼が大好きなアイドルグループ『化粧坂36』の話を先ほどから延々と聞かされている。

俺はきらきらと嬉しそうに話す桜ちゃんに相槌を打ちながら手元のお茶に手をばした。

大好きなモノには我を忘れるほど夢中になるという點では桜ちゃんは堂庭とそっくりだ。流石は姉妹である。

だが暴走合では堂庭に軍配が上がるだろう。あいつはただ喋るだけではなく抱きつくというオプションが付いてくるからな。

そしてそんな奴に新たな夢中を作るためアイドル、か。

単に桜ちゃんが自分の仲間しさで提案したとしか思えないが、一応俺は賛同しようと思っている。やらないよりはマシだし。

「それでそれで、去年の総選挙でのあの泣き顔! 私ももらい泣きで滝のように涙が出ましたよ!」

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相変わらず熱弁を続ける桜ちゃん。しかしよく次から次へと言葉が出てくるな……。

思わず心してしまうほどだったが、このままでは桜ちゃんが俺の家に來た理由が本當に無くなってしまうのでこの辺で止めておくことにする。

「うん、良くわかったよ。……それで、堂庭に興味を持ってもらうために的にどうしようと思ってるの?」

「あ、はい! それはですね」

楽しそうな聲で答えると桜ちゃんはチラシの文字を指差しながら

「この野外ライブ、化粧坂とGHLがコラボするんですよ! だからまずはこのライブにお姉ちゃんを連れていきます!」

「なるほど。……コラボねぇ」

やはり桜ちゃんの目的はこれライブだったのではないか?

俺は苦笑いを浮かべながらチラシの字面を追っていくと、ある所に目が留まった。

「七月七日の夜六時から湘南海岸公園……。あれ、これってもしかして」

「そう! この日は七夕祭りも行われる日なんですよ!」

七夕祭り……。JR平塚駅を中心に毎年行われる大きなイベントであり、湘南ひらつか七夕祭りという名で親しまれている。

因みに俺もこの七夕祭りにほぼ毎年行っている。堂庭と行った事も何回かあったっけ。

そして桜ちゃんが提案した化粧坂とGHLのコラボライブとやらもこのお祭りの會場近くで行われるらしい。

今年の七夕祭りはどうやら桜ちゃんも引き連れて行くことになりそうだ。

「そうかー。じゃあ一緒に祭りに行って途中で堂庭と桜ちゃんが抜ければいいわけだな」

「……え? 何言ってるんですかお兄さん」

何故か不思議そうに見つめられる。あれ、俺おかしな事言ったか?

「ライブ……お兄さんも一緒に行くんですよ?」

「…………えぇ!?」

思わず大きな聲を上げる。

何で俺まで行く必要が!? 大俺はアイドルなんて興味ないし、あのむさ苦しい熱気の中に飛び込むと考えると……正直行きたくない。

「だってお兄さんと一緒じゃないと私達も行けないじゃないですか!」

「いやいや場所ぐらいは道案してあげるし大丈夫だよ」

「ちがっ、そうじゃないんです!」

口調を強めて迫ってくる桜ちゃん。

「當日は大勢のファンが詰め掛けます。そしてその客層は……想像つきませんか?」

「えっと、あ、あぁ……」

アイドル、ファン、別……。考えてすぐに分かった。

「男の人だらけの中に私とお姉ちゃんだけでれると思っているんですか!」

若干怒り気味の聲で言われてしまった。

桜ちゃんは男が基本的に苦手だ。一人に話し掛けられるだけでも慌ててしてしまうのに、野郎共の熱気がムンムン漂う空間に自らり込むなんてできないだろう。

堂庭が一緒とはいえあいつは間違いなくアテにならない。

……俺も一緒に行くのはもはや必須な訳か。それに考えれば堂庭や桜ちゃんだけで行かすのは危険だ。二人の容姿は馴染みである俺から見ても普通に可いし、並んで歩けば周囲の視線は彼らに集まる。

「悪かった。俺も參加する」

「はい、そう言うと思いました! チケットは三名分、もう予約済みですからね!」

「なっ……! 既に俺達で行くていで話していたのか……」

「ふふふ、こういうのは先に取ったもん勝ちですからね!」

含み笑いを浮かべながら楽しそうに話す桜ちゃん。

とりあえず今年の七夕は忙しくなりそうである。

「本題は以上です! 私は舞奈海ちゃんと遊んできますね!」

「あぁ、気をつけてな」

何に気をつけたら良いのか自分でも分からなかったが何故かそう言ってしまった。

不思議そうな顔をして部屋から出ていく桜ちゃんを見送った後、俺は一息ついて天井を見上げた。

堂庭のロリコンを直す、か。

桜ちゃんも一応は考えてくれているみたいだし、俺も何か案を出さないといけないよな……。

「今日は楽しかったです。また來ますね」

「あぁ。うちはいつでも大丈夫だぞ」

「桜お姉ちゃんだったら大歓迎だよ!」

夕方、俺は舞奈海と共に桜ちゃんを玄関まで見送る。

桜ちゃんは俺達の聲掛けにニコリと頷くと一禮して帰っていった。

「ふふん、今度は私から桜お姉ちゃんの家に遊びに行っちゃおうかな」

「おう、いいんじゃないか? でも堂庭もいる可能大だけどな」

「げっ! ……瑛りんの事忘れてた」

舞奈海は苦蟲を噛み潰したような顔をしてそそくさと自室へ退散していく。

俺はやれやれと溜め息をついてリビングに向かおうと足を踏み出した。

「……あ」

踏み出した足が止まる。

「桜ちゃんに聞くの、忘れてた」

堂庭と修善寺さんの関係について聞こうと思ってたのに……。

でもまた今度でいいか。急な用でもないしな。

俺は一息ついて、再度歩き出した。

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