《とある腐子が乙ゲームの當て馬役に転生してしまった話》街へ行ってみたようです
♢ ♢ ♢
屋敷の中の時間は実にゆっくり流れている。窓の外は、き通るような青い空。小鳥のさえずる音、窓からってくる風は優しい。そんな中、ミーナにれてもらった紅茶を飲むお茶の時間がこの上ない楽しみとなっている。
そんな私のテーブルを挾んで、対面に座っているのは…。
「本日は、どこに行かれますか?」
「…えっと…」
「本日は、街へ降りてみましょうか?ケーキの味しいお店を紹介しましょう」
「…その…」
「それとも、アリアに似合う寶石でも選びに行きましょうか?」
「ちょ!ちょっと、聞いてくださいませ。ハース様」
マシンガンのごとく、々な場所を提示してくるハース・ルイス。私は、彼の言葉を遮り、彼を靜止する。そして、彼は、不思議そうに私を見る。
彼は、私が前世でプレイしていた「Magic Engage」の攻略対象の一人だ。騎士団団長の一人息子の金髪碧眼のそれはそれは見目麗しい年。
彼のルートにおいての私ことアリア・マーベルの立ち位置は、社界で出會った彼に一目惚れして、のちに出會うことになるヒロインをいじめる簡単に言ってしまえば、當て馬ポジション。そして、最終的にそれにより、私は退學に追い込まれるのだ。つまりは、私は、バットエンド。
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そうなっては非常に困る。そこで、私は、ある一つの妙案を思いつく。題して、ハース・ルイスとアリア・マーベルの出會いイベント、回避大作戦!!
そもそもハース・ルイスと出會わないようにしなければ、彼と接點を持つことはない。だから、出會わなければいい!そう考えた私は、先日のハース・ルイスとの出會いイベントを回避するべく闘した。その結果…。
見事に、ハース・ルイスとのイベントを回避することはできなかった。めでたしめでたし!…じゃないぃぃぃぃ!
本來はそこでアリア・マーベルはハース・ルイスに一目惚れして、しつこく彼に、婚約をせまる。そして、魔法學校に學の際にヒロインと彼を取り合うことになるのだが…。自分をバットエンドに追い込むかもしれない彼に対して、到底一目惚れもなければ、むしろ出來る限り関わりたくないとさえ思っていた…。だから、出會いイベントは起こしてしまったが、その後接點はない…。そう思っていたはず、なのに…。
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「ハース様は、お忙しい。こう毎日來て、私のために時間を割いていただくのは申し訳ありません」
「わたしがアリアに會いたいだけなので、気にしないでください」
「…えっと、ありがとうございます?」
どうして、こうなった?
社界での出會いイベントを回避できなかった日から、彼はほぼ毎日來ている。最初は、社界での失禮を詫びたいとのことだった。正直、あの程度で怒るはずもないのだが…。
それからというもの、3日と開けずに來るもんだから、同世代に(正確にいうと21歳ほど年下の子に)「アリア様」と呼ばれるのもなれないし、「アリアと呼んでくださいませ」と言ってから、呼ばれ慣れるまで時間はかからなかった。
どういうことだ。確か、ハース・ルイスの元に、通い詰めるのは、アリア・マーベルではなかったか。
「…それとも、私がアリアに會いに來るのは迷でしょうか?」
「…いや、えっと…そんなことは…」
しゅんとうなだれる様子に心が痛む。さすが、年。さすが、攻略対象。
「では、本日もご案してもよろしいでしょうか?」
「…わかりましたわ」
ぱっと微笑まれれば、これ以上言い返せない。
「では、行きましょうか?」
本當に、イケメンって得だわね。
♢ ♢ ♢
我がマーベル家の敷地から、馬車に揺られて、街に降りてみれば、レンガ造りの町並み、そこにいる人たちの表は明るく、活気にあふれている。こういう賑やかなところは、なんとなく、前世を彷彿とさせた。
「アリアは、本當に楽しそうに町を見ますね」
「とても興味深いものばかりなので。あれは、何なのでしょう?」
「あれはですね」
ハース・ルイスと馬車を降りて、街を散策する。令嬢が街を出歩くのはよくないだろうと思っていたけれど、こちらの世界の令嬢は、割と町へ出ることが當たり前のようだ。何でも、いろいろ見聞することで、教養をにつけ、將來の伴への助けとなるようにだとのことだ。將來の伴、うんぬんは正直どうでもいいけれど、街へ出かけるのは楽しい。令嬢が出歩くのは、當たり前といっても、それ相応の護衛も必要になる。いつだったか、街へでてもとがめられないと知った私は、軽率に街へ出かけたいと両親に申し出たところ、屈強な護衛たちに囲まれての町散策になったことがある。正直、窮屈だったし、何より、申し訳ない気持ちになり、それ以來、街へ出ていなかった。そんなことをお詫びに來たハース・ルイスに話すと、両親に「私が、護衛の代わりをしましょう」と申し出てくれ、以前よりも、気軽に街へ出かられるようになったのである。両親も、「英明」と名高く、剣の扱いに慣れているハース・ルイスがいれば大事はないだろうとのことで、ハース・ルイスと出かけるときは、護衛をわざわざつけることもしなくなった。その點は、ハース・ルイスに謝している。そんなことを思いながら、ハース・ルイスに、街中で興味をひかれたものに対して、これはなんだ、あれはなんだと片っ端から訪ねていると、視野の端に何かが目に留まり、それが置かれているお店の店に近寄った。
「わぁ…」
「どうしましたか?」
「あちらです」
私の視線の先を追い、隣にいるハース・ルイスが「これは、見事だ…」と嘆のため息をもらした。私の目に留まったもの。それは、真っ赤なブローチだ。深紅のガラスが、本の薔薇の花のように形作られている。あまりにもしく間近に見たいと人の間をすり抜け、そのブローチの傍に歩み寄る。その瞬間、なぜか、隣のハース・ルイスの「あっ…」という、まるで、しまったとでも言うような聲が聞こえた気がしたが、私の興味は、完全にブローチだ。私は、そのまま、そのブローチへ向けて一直線。
「お嬢さん、とてもお目が高い」
「ありがとう。おじさまこそ、とても素敵な品を仕れていますわね」
ブローチ以外の店に置いてあるものを見れば、ガラスのはずなのに、どの品も、寶石以上の輝きを放っている。
「これはどうやって加工しているのかしら?」
よく見ると輝きが増すように、きめ細やかに細工を施している。に當たると幻想的に輝きだす。どういう技何だろうと顎に手を當てて考えていると、店の店主が、私の質問に答えてくれた。
「風の魔法で削っているんだよ」
「風の魔法?風の魔法で、こんなに繊細な細工ができますの?」
「そうだよ」
「すごいですわね」
言いながら、以前オリバーに教えてもらったことを思い出す。風の魔法は、攻撃力で言えば、5屬の中で、高い攻撃力を持つ。使い手によれば、建を破壊するのも造作もないほどの破壊力を持っていると言っていた。
「本當に綺麗ですね」
いくら見ても、見飽きない。高価な寶石はに著けるのは、気が引けるが、値段を見ればさほど高いものでもない。
「おじ様、こちらを一ついただけるかしら?」
「もちろん」
嬉しそうにうなずいてから、店主は、ブローチを取って、綺麗に包んでくれる。その間には、世間話だ。よほど、人と話すことが好きなんだろうと思う。他のないやり取りをしていると、店主が何気なく問うてきた。
「そういえば、お嬢さんは一人で來たのかい?」
そして、ふと気が付いた。先ほどまで隣にいたはずのハース・ルイスがいない。店主と話しているときに、やけに靜かだとは思った。そういえば、ここに來る直前に、なんか、「あっ…」というような、しまったというな聲が聞こえた気もする。當たりを見渡してみると、し離れたところで、3人のご令嬢と思わしき人につかまっていた。周りには、屈強な護衛たち。こちらをチラチラと見ているものの、無下にはできないようで、顔に申し訳ございませんと書いていた。確かに、あんなに怖そうな護衛に囲まれていたら、無下にはできないな。私なら、できれば関わりあいたくない。
「さすが、攻略対象…」
ぽつりとつぶやく。さすが、紳士な形キャラだけはある。なんて、心の中で、思ってから、「一応、連れはいるのですが…」橫目で、ちらりとハース・ルイスを見ると、店主が肩を揺らして笑う。
「お嬢さんの連れは、ずいぶんと目立つようだね」
「正直、隣で歩きたくないのですが」
「そうかい?お似合いだと思うけどね?」
愉快そうに笑う店主に対して、「私は、ヒロインキャラじゃないですし」と言ってから(心の中では、むしろ、ライバルキャラで、格悪キャラだしななんて思いながら)、お金を手渡す。私の言葉に、店主が再び豪快に笑って、思い出したとばかりにある話をしてきた。
「そういえば、お嬢さんは、連れがいるみたいだから、安心だが、近頃、悪魔の子がこのあたりに出るらしいから気をつけな」
「あ、悪魔!?」
思わず素っ頓狂な聲が出た。ちょっと、本當に勘弁。私、ホラーとかそういうの、本當に無理だから。前世でも、お化け屋敷とか、あまりにも苦手すぎて、21歳にもかかわらず、った瞬間、大騒ぎものだった。
「なんでも、まるでそのブローチのように深紅の瞳をして、人を魅了してしまう悪魔だそうだ」
「まぁ、怖いですわ」
恐ろしさに震いをしていると、店主は何のこともないように、“まぁ”と間を置いて、一言。
「お嬢さんの場合、ボーイフレンドが守ってくれるから大丈夫だろうが」
“あいよ”とにっこりと笑って、綺麗に袋にれて、包んでくれたブローチを手渡す店主に、「ボーイフレンドじゃないです」ときっぱり丁寧に言い切ってから、ブローチをけ取った。
♢ ♢ ♢
「どうしましょう?ここはどこでしょう?」
目の前には、し古びた建。もとは教會だったのだろうか。レンガ造りに大きなステンドグラスが、目立つ。
「困ったわ。迷いましたわ」
ブローチを買った後、ハース・ルイスの方を見ると、まだ時間がかかりそうだったので、何もしないのももったいない。せっかく、街に來たんだし、しくらい大丈夫だろうとハース・ルイスがいる場所から離れて、散策してみようと考えに至ったのだ。いろいろ行ってみようと意気込んで、人波にもまれながら、歩いていて、人波にうんざりして、人気がないほう、人気がないほうに歩いていくと、気が付けば、ここにたどり著いたわけである。大通りから、かなりそれてしまった。おかしいな、前世では、割と地理は得意科目だったんだけどな。
「…とりあえず、中にってみるか」
もしかしたら、誰かいるかもしれないし。これは建前だ。こんな古びた建に人はいないだろう。本音を言う、外から太に照らされたステンドグラスがどのようになっているのか、気になるだけだ。
建のり口はどこかと探ってみれば、木で作られ、金屬で裝飾があしらわれている。ところどころステンドグラスも使われているようで、かなり華やかな扉。
取っ手に手をかけて押そうとすると
「う…、重い…」
華やかな裝飾の分、重いようで、ぎぎぃという鈍い音を立てて開いた。その瞬間…
「誰…!?」
「…っ!?」
鋭い聲が聞こえて、思わず目を閉じた。先ほど、聞いた「悪魔の子」の話が頭をよぎった。やめて、本當にやめて。ホラー、本當に苦手なんだって。本當にマジで。あぁ、なんで、あのとき、呑気に街を散策しようなんて思ったんだ。あぁ、もう…!私のバカ!
「…っ…」
いつまでもそうしているわけも、いかず、恐る恐る目を開ける。まず、目にったのは、ステンドグラス。想像していた以上に、しい。太のが、ステンドグラスを照らし、室を幻想的なが包んでいた。幻想的な風景にして、恐怖も忘れて、室を見渡し、視野の端に何かを捉えた。
「…えっ?」
そして、思わず、息をのんだ。
「…誰…?」
ステンドグラスの丁度真下。同じように繰り返す。悪魔なんてもんじゃない。
ステンドグラスが生み出す幻想的な空間の中、ひと際目を引く、漆黒の髪に、深紅の瞳。
「…綺麗…」
まるで、神様が丁寧に作りこんだような綺麗な顔立ちをした年が、そこにいた。
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