《とある腐子が乙ゲームの當て馬役に転生してしまった話》『悪魔の子』と呼ばれた年の話

♢ ♢ ♢

僕の一番幸せだった頃の記憶は、母ルナ・ウォーカーと過ごした日々。

白銀の長いしい髪を風になびかせ、深紅の寶石のルビーのような瞳は常に優しさをたたえ、いつも僕にしい歌を歌ってくれた。優しく語りかけてくれた。僕にとって、母は世界の全てだった。

けれど、そんな幸せな僕の世界が壊れてしまったのは、僕が9歳の頃。母であるルナ・ウォーカーが病で亡くなってしまったとき。

母が亡くなった直後、僕は母が亡くなったことを信じられず、父が街に外れに立てた母の墓の前を見て、膝から崩れ落ちた。墓石に彫られている母の名を見て、どうしようもない悲しみが襲ってきた。そのときに、に任せて魔力を暴走させてしまい、我に戻ったときには、周囲のほとんどを更地にかえっていた。

どうやら僕は人よりも多くの魔力を持っていたらしい。自分自が恐ろしくなった。魔法を使うことが怖くて怖くてたまらなかった。だから、自ら魔法を使うことなんてなかった。

けれども、人々はいつ魔力の暴走するかもしれない僕を腫れのように扱い、僕はいつしか「悪魔の子」と呼ばれるようになった。

それからだ。父はあまり屋敷に戻ってこなくなった。周囲の使用人は皆、僕を避ける。

僕の居場所は、どこにもなかった。

僕はただただ孤獨に日々を送り、気が付けば母が亡くなってから5年の月日が経っていた。

♢ ♢ ♢

街の中心部からし外れにある父が所有している大きな教會。あるときふと行ってみようと思い立った。あまり使われていないその教會。誰もいないその空間がたまらく落ち著いた。そのときからほぼ毎日その教會に通うようになり、ある日、その教會は父により閉鎖された。父に疎まれているのだと思った。

「神様、なぜ、あなたは、僕に、こんな忌々しい力を與えたのですか?」

そんなある日のこと、いつものように教會にやってきて、いつものようにステンドグラスに描かれている神様を見上げたときだった。普段は開くことのないここの扉がぎぎーと音を立てて開いて、僕の紅の瞳に映ったのは

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「……――綺麗!!」

亜麻の髪の1人の

そうして僕は“彼”と出會った。

♢ ♢ ♢

アリア・マーベルと名乗った彼は、僕を怖がりもせず、楽しそうに僕の隣でくるくると表を変え、楽しそうに話していた。あまつさえ、僕のこの呪われた容姿を“綺麗”だと言ってくれた。そして、優しく僕の手を取ってくれた。だから――……

「名前をうかがうのを失念しておりましたわ。教えていただけますでしょうか。」

にそう言われた瞬間、息が止まりそうになった。名前を言えば“悪魔の子”だということを知られるのではないかと。けれども、にっこり微笑むかの彼に黙ったままなのはよくないと思い、“ルーク”と自分の名前を口にした。その瞬間、教會の鐘が“ゴーン”鳴り響いた。

「ダーク!髪のと同じですわね」

「え……?」

の言葉に思わず固まった。どうやら鐘の音で聞こえなかったようだ。もう一度、名前を言いなおそうとすれば

「そうですわ!せっかくですから、私のことは、アリアとお呼びください」

そう遮られた。

「え?でも――……」

「せっかくお友達になれたんですもの!」

「友達……」

「それに、敬語も不要です。常に敬語でかしこまってくる方が、ほぼ毎日來ていますからね。同い年の人に、敬語で話されるのは、疲れますし。できれば、私も、敬語を外してもよろしいでしょうか?」

「……――うん、わかった。アリア」

嬉しそうに話す彼を見て、僕の頬も自然に緩んだ。“友達……”生まれてはじめて言われた言葉だった。

「そういえば、アリアは、帰らなくて大丈夫?そろそろ、外が暗くなる頃だけれど」

ふと彼越しに見えるステンドグラスからってくるが茜に染まっていることに気が付いた。楽しい時間ももう終わりだ。

「本當ですわ!!」

そういって、アリアはしまったといった表を浮かべる。

「あ、でも、帰り道がわからないわ。ブローチを買ってから、ここに來たから……」

「その袋、大通りのところにある細工屋だよね。場所わかるから、案するよ」

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「本當ですの!お言葉に甘えてもいいかしら?」

「うん」

名殘惜しいけれど、アリアを待っている人もいるはずだ。せっかくアリアと“友達”になれたのに、惜しいな。この時間が永遠に続けばいいのにと思ったときだった。

「そうですわ!また、ここでお話しましょう?」

ぱちんと両手を叩いて、アリアは僕に提案してきた。

「え?」

「だから、來週のこの時間、またお話ししましょう!この場所で……!!」

思わず目をしばたかせる。この僕に、また會いたいといってくれるのかと。

「……うん!」

嬉しくて嬉しくて涙が出そうになったのは、アリアにはだ。

♢ ♢ ♢

アリアとの約束の日。僕はアリアと出會った教會にいた。あの日と同じように澄みきった空から降り注ぐ太が教會を優しく照らしていた。

「まだかな……」

約束の時間よりだいぶ早くついてしまい、教會を見渡せば、アリアが來た様子はなかった。教會の一番前の席に腰を下ろそうとした瞬間、ぎぎーと音がした。アリアかなと思い、音をした方を見れば

「レイリー……」

父に師事しているレイリーだった。父の弟子で、屋敷に來ているのを何度か見たことがある。貫くように僕を見るレイリーの視線が恐ろしく、思わず後ずさった。

「……マーク様はあなたの扱いに困っているようだ」

レイリーはそういって黙りこくる僕のほうへゆっくりと歩みを進めてきた。そして、10メートルほど離れて彼は歩みを辭めた。そして、一言言い放った。

「……だから、マーク様のためにあなたには死んでもらう」

レイリーが何事か詠唱し、僕の方に何かを放った。僕は咄嗟に目を閉じ、魔力を開放してしまった。ビキビキと何かが壊れる音とパリンとガラスが割れる音がした。

“あの時”と一緒だ。母の墓で魔力を暴走させてしまったときと同じ。

目を開けたときに、まず目にったのは傷一つついていない僕の。ついで目にったのは、さきほどまで自分が見ていたステンドグラス。それが々に崩れ、自分の周りのものも々に砕けていた。そこで、思い知った。

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「あぁ……そうか」

僕はアリアとは違う。ただの“魔力の化け”だと。

その瞬間、ぎぎーと教會の扉が再び開いた。

♢ ♢ ♢

「ダーク!」

教會の扉からってきたのは、必死の形相をしたアリア。

「……來ないで!!!!!」

僕は咄嗟にアリアを拒絶した。僕とアリアは、違うものなんだと改めて知ってしまったから。こんな僕を知られてアリアに、怖がられてしまったらと思うと恐ろしくて仕方がなかった。

「……ダーク……」

心配するようなアリアの聲が聞こえた。

「化けめ!!」

レイリーの鋭い罵聲が聞こえ、僕は、力が抜けたように地面に座り込んだ。

「マーク様が、お前のせいで、どれほど心を痛められていると思っている?」

「…………」

「なのに、マーク様は、いつまで経ってもお前を罰しない」

「…………」

「だから、思ったのだ。さしもの、マーク様も、実の子に、罰を與えるのは流石に酷なのだと。だから、俺が與えているんだ」

「…………」

「なのに、なぜ、魔法で跳ね返す?そんなに命が惜しいのか?」

「…………」

「自分の存在が罪だというのがまだわからないのか?」

レイリーは、くつくつとおかしそうに笑う。そうだ、その通りだ。僕は化けで、この世にあってはならないんだ。何も言えずただただを噛みしめた瞬間

「おかしいこといわないで!!!」

アリアの聲が聞こえた。

「……アリア」

大きく目を見開く。どうして、と思った。

「部外者は黙っていてくれないか?それに、何を勘違いしているのか、わからないが、これの名前は、ダークじゃない」

レイリーはおかしいとばかりにそういった。

「ダーク……じゃない?」

駄目だ!!これ以上は。

「止めて!」

僕がルーク・ウォーカーだと知られたら、きっとアリアも……。

「キミも聞いたことあるはずだ。これの名は……ルーク・ウォーカー」

“悪魔の子だ”しんとした教會。レイリーの聲が教會の中に、響き渡った。

♢ ♢ ♢

「……ルーク・ウォーカー?」

そうアリアが呟いたとき僕は恐ろしくてたまらなかった。アリアはいったいどんな表を浮かべているのだろうか。恐ろしくて見えない。

「ダーク――……」

そうアリアが言ったときだった。

「何をしている!?」

と鋭い聲が教會の中に響き渡った。

「誰だ!?」

「ハース様!!」

アリアとレイリーの聲が重なった。後ろを振り返れば、扉のところに、黃金の輝く金髪に、空の瞳に白い清潔そうな服をきっちりと著た僕と同じくらいの年だった。誰だ?と思ったが、アリアの知り合いらしい。

「私の名前は、ハース・ルイス。この騒ぎはなんだ!?」

威厳たっぷりに言い放つ彼。

「騎士団団長の子息でございましたか。失禮しました。こんなところで、お會いできるとは思いませんでした」

レイリーはというと、ハース・ルイスと名乗った彼の方を向き跪いた。

「私の名は、マーク・ウォーカー様に師事しておりますレイリーと申します。此度は、マーク様に代わり、悪魔の子に罰を與えようとしていたのでございます」

「悪魔の子?」

「はい。貴方様もお聞きしたことがありませんか?魔力の化け、悪魔の子と言われているルーク・ウォーカーの名を」

「………」

黙りこくるハース・ルイス。逆で細かい表がわからない。この年も、きっと僕を蔑むだろう。もしくは、恐怖に顔を歪めるかもしれない。僕はぎゅっと目を閉じた。そのときだった。

「まったく、くだらない!!!」

アリアの聲が教會に響き渡ったのは。

「アリ…ア……?」

アリアは、一歩踏み出して、僕に近づいてくる。

「力があることがなんなの?」

「……アリア、來ちゃダメだ」

こんな魔力の化け、この世にあっちゃならないんだ。けれども、アリアの歩みは止まらない。

「あまりある力は暴走する可能がある」

レイリーは當たり前のようにそういった。

「暴走なんてしていないでしょ?」

「今は、していなくても、いずれ、誰かを傷つけるかもしれない力だ。今のうちから摘み取っていた方がいいだろう」

レイリーの言うとおりだ。レイリーのいう事実に心の中で同意していると

「そんなのただのあなたの戯言じゃないの!!」

アリアの聲が聞こえた。

「現に、あなたは傷ついていないじゃない!!」

気が付けば僕の前に立ちレイリーとの間にアリアは立っていた。

「うるさい!!!」

僕が気が付いたときには遅かった。

「アリア!!!」

アリアの顔の傍を何かがかすめた。

レイリーの手に握ってられているのは短剣だった。

「……えっ?」

アリアの綺麗な亜麻の髪をレイリーが持っている短剣で切り裂いたのだ。僕のせいで、アリアが傷ついた。

「悪魔の子を庇うということは、お前も同罪だ」

僕のせいで、またアリアが傷つこうとしている。“もう、やめて!”そう言いかけた瞬間

「……罪を裁くのに、私も、お手伝いいたしましょう」

靜かな聲が教會に響き渡った。聲のした方を見れば、ゆっくりとした足取りで、ハース・ルイスがこちらに歩いてきていた。

そして、腰に帯びた剣を右手で抜き、左手を翳すと途端に剣がまばゆくりだす。

「……ハー…ス…様?」

アリアが困したような聲を出した。金に輝く前髪の奧、空の瞳が怪しくる。まるで、獲を狩る獅子だ。

「こいつらは、罪人です」

「えぇ、ここで、罪深いことがありました」

「力添えいただけるとは心強い。ハース様のお力で、こいつらを裁いてください」

「私が、直に、ここにいる罪人を斷罪いたしましょう」

そういうや否や、ハース・ルイスは、剣の切っ先を下へ向け、構えた。

「…ハー…ス様……」

「アリア!!僕はもういい、逃げて!!!」

もう、アリアの傷つくところは見たくない。懇願するように頼むが、アリアは黙ったままだ。

「アリアといったか?そこを退けば、お前だけは助けてやるぞ」

そういって、レイリーは鼻で笑った。

「逃げないわ!」

対してアリアは凜としてそう言い切った。

本當に、この人は――……。溫かい。

「……――やはり、アリア、あなたはそういう人ですね」

ハース・ルイスは、そういうや否や、こちらへ向けて駆け出した。

「アリア!!!!!」

僕がべば、アリアは覚悟したように目を閉じていた。

♢ ♢ ♢

信じられないことが起きた。

「…――あれ?痛くない」

アリアがゆっくりと目を開けた瞬間、レイリーが持っていた短剣の先が“カーン、カーン”と地面に落ちる。

「な、な、な…何をする!!!」

レイリーは、上ずった聲を上げ、恐怖に顔を歪めていた。レイリーが握っている短剣の切っ先はすぱっと綺麗に切られていた。

「……―別に、罪人を裁いただけですよ」

そのレイリーの短剣を切ったのは、彼。アリアの方に助けにろうとを乗り出した瞬間、何かによっての自由が拘束された。見れば黃金に輝く何かで拘束されていた。やられた、しまったと思った。僕の目の前でアリアが傷つけられる……と思った瞬間、ハース・ルイスは優越に浸っているレイリーの短剣の切っ先を自の剣で切ったのだ。そのハース・ルイスはというと、レイリーの目の前でにこやかに笑っている。

「……――ハース様」

アリアも驚きで聲がでないようだ。

「な、なぜ―……」

レイリーの顔が恐怖にゆがんだ。

「あなたは、私の目の前で、アリアを傷つけた」

対するハース・ルイスは、笑顔なまま靜かに言った。なぜだろう。笑顔なのにすごく怖い。

「……―だから、私はあなたを許すわけにはいかないんですよ」

ハース・ルイスは、切っ先を彼に向けて言い放った。

「ハース様!!」

「アリアは、彼と離れてください。あとは、私がなんとかします」

アリアが彼の名前を呼べば、気のせいだろうか。し彼の表らかくなった気がした。

「それだけの強さがありながら、なぜこの化けを斬らない?この化けは、その気になれば、街を壊すなんて簡単なことなんだぞ!!」

「確かに、莫大な魔力を有して、過去に國一つ滅ぼした、なんて伝記でも殘っていますね」

「だろう!!!」

「ですので、莫大な魔力の持ち主は、早々に芽をつむ。その考え方は、間違っているとは一概には言えませんね」

「だったら!!!」

レイリーは暴な口調で食いつくようにいった。それに対して、ハース・ルイスは事もなげに一言。

「で、それがどうしたんです?」

「どうしたって――……」

小首をかしげるハース・ルイスを信じられないものでも見るようにレイリーは見ていた。

「以前の私なら、あなたに賛同していたかもしれません」

「以前なら……だと!?」

「えぇ、ある人のある一言がきっかけでの見方が変わりました」

そういって、ハース・ルイスは懐かしむような表を浮かべて

「魔力が高いのは、それもまた彼の才能でしょう?」

一瞬ちらりとアリアを見た。それにどれほどの意味があったのだろうか。

「だから、魔力を持っているだけで、それが罪だと決めつけることはおかしい」

「だが、現に――……」

「現に、なんですか?アリアも言ってましたが、そちらのルーク・ウォーカーは、この場にいる誰かを傷つけていますか?」

「……それは」

「その言葉のあとに一どんな言葉が続くのでしょうね?」

ハース・ルイスの口調は、酷く優しい。対するレイリーは顔を真っ赤にさせ

「……うるさい!!!」

短剣をハース・ルイスの方に投げ捨てた。

「ハース様!!!」

アリアが彼の名前をんだときには、教會に再び“カーン”という音が響き渡った。

見れば柄が綺麗に真っ二つだ。ハース・ルイスの持っている剣が、金に輝きを増している。

「……―その攻撃は、私には當たらない」

そういって、ハース・ルイスはアリアを守るように立ちふさがった。

「これでも、まだ続けますか?」

「……ひっ!!!く、來るな!!!」

靜かに言うハース・ルイスに対して、レイリーは右手をハース・ルイスに突き出した。

そして、何やら詠唱し、魔法を発させた。

「食らえ!!!」

「ハース様!!!」

瞬間、ハース・ルイスに向けて、鋭い突風が吹き、周りのものを砕していき、砂埃が舞う。壊れた椅子がミシミシと音を立てた。

「ははは……、さしもの「英明のナイト」もこれで――……」

勝ち誇ったようにいうレイリー。

「……――ハース……様……――噓……」

アリアというと、座り込んだ。レイリーはそんなアリアの前で高笑いする。僕もあまりのことで言葉を失い、口元に手を當てると

「……――さしもの「英明のナイト」もこれで……どうなるのでしょう?」

「ハース様!!!」

砂埃の中、何事もなかったかのように立つハース・ルイスの姿が。アリアは、安堵したかのように彼の名を呼んだ。ハース・ルイスはというと、傷一つ、塵一つついていない。

「……――なぜ?」

レイリーはというと、まるで未知の生でも見ているかのようにハース・ルイスを見ている。

「剣だけかと思いましたか?攻撃魔法も、防魔法も、人なりに扱えるんですよ」

対して、にこりと笑って、レイリーを見返した。レイリーの顔が引きつる。

「さて、あなたは私に対して攻撃の意思があるようですね。でしたら、私も反撃しなければなりませんね」

ハース・ルイスが握る剣が、怪しげにり出す。恐怖で顔を歪めながら、レイリーは再びハース・ルイスに手を突き出した。

「……―というのは、建前で」

対するハース・ルイスはというと、にこやかな笑みを浮かべゆっくりと目を閉じた。そして、カッと目を見開いた。その碧眼は、自輝く刀けてか、怪しげにっている。そして、次の瞬間

「本音は、先ほども言いましたが、ただ、アリアを傷つけたことが許せないだけですよ」

そう言い放ち、ハース・ルイスはレイリーに向かって、一歩駆け出した。

♢ ♢ ♢

「まだ続けるおつもりですか?」

ハース・ルイスが剣を構え駆け込んだ瞬間、レイリーが風の魔法を発させた。そしてその魔法が、ハース・ルイスを襲った……かに思えたが、ハース・ルイスはそれを軽々と避け、ハース・ルイスは涼しい顔をして、そのままレイリーの元へ。その切っ先はすでにレイリーの首元へ向いていた。

「投降しなさい。もう、貴方は何もできません」

「…………」

にこやかに切っ先を向けるハース・ルイスとは対照的にレイリーは強張った表を浮かべている。

「……すごい」

僕はこの言葉しか出てこなかった。

「なぜだ……?」

どうにか聲を絞り出すよういうレイリー。

「『英明のナイト』とまで言われ、この國を守っていく貴方があの化けを守るようなことをなさるのですか……?」

「別に、ルーク・ウォーカーを守ったつもりはありませんよ」

「……では、今からでもその切っ先をルーク・ウォーカーに向けるべきです」

先ほどまでの威勢が噓のように消え、震える聲でそういうレイリーに対して

「私は、アリアが守ろうとした者を守っただけですよ」

ハース・ルイスは表を変えることなくそう言い切った。

「それに先ほども言いましたよね。アリアを傷つけた貴方を私は許せないと」

は微笑みを湛えているもののその碧眼の瞳の奧が怪しげに揺らめいている。

この人は、アリアのために本気で怒っている。

「アリアを傷つけた代償では生溫いですが、その折れた短剣でこの場を収めるといっているのです」

「……っ……」

「さて、投降してください。私はこれ以上、続けてもいいですが、アリアに醜いものを見せたくないので」

心なしか剣のが淡くり輝いて見え、レイリーはごくりと息を飲み

「……――わかりました」

やがてうなだれるようにそう口にした。

「申し訳ありませんが、あなたを拘束させてもらいます」

ハース・ルイスが『Retenue』と唱えるや否やレイリーの両腕はひも狀にびた黃金で囲まれた。これは、拘束魔法だ。者が魔法を解くか、気を失わなければ解けない魔法だ。

「……――よかった」

傍にいるアリアは、ほっとしたように息を吐いた。

「これで、心配はありません。あとは、私に任せてください」

ハース・ルイスはアリアに笑いかける。

なぜだろう。何もできなかった自分が腹立たしかった。

僕はアリアが傷つけられてもただ見ているしかできなかった。

ただハース・ルイスがアリアのために戦っている様子を見ることしかできなかった。

アリアに怪我がなくてほっとしたけれど、それと同時に酷く悔しかった。

思わずを噛みしめていると

「ダーク!!」

アリアがこちらを振り返った。

「アリア……」

「ダーク、怪我はない?」

そして、近寄って聲をかけてくれる。

「アリアこそ……、ごめん」

アリアの綺麗な亜麻の髪が無造作に切られ、申し訳なくアリアを見れば

「こんなもの、またばせばいいだけよ」

そういって、切られた髪にれ、何事もなかったかのように髪をかき上げた。その瞬間、アリアが不思議そうに自の手を見た。そして

「砂――……?」

アリアはなぜか上を見上げた。つられて僕も天井を見上げて異変に気が付いた。

同時に「しまった……!!」というハース・ルイスの聲が聞こえた。建が削れ、バランスが保てなくなったようだ。すぐ近くに建ってあった柱がぐらりと倒れるのが視野の端を掠めた。ゴゴ―と鈍い音とともに

「アリア―――!!」

切羽詰まったハース・ルイスの言葉が聞こえ、僕は咄嗟にアリアを押し倒した。

♢ ♢ ♢

「……―――あれ?」

僕の下にはアリア。恐る恐るというふうに目を開ける。そして、一つ瞬き。

「……――ダーク?」

アリアが驚くのも無理はない。僕の瞳から明の雫が流れ落ちていたのだから。

アリアを傷つけないように、魔力をドーム狀に展開させ、落ちてくる瓦礫を払う。魔力の加減がわからず、とにかくアリアを守るために風の魔法を全力で展開させていた。

「僕に、溫かさなんて、知らなかったのに……いらなかったのに……」

僕のせいで切られた亜麻の髪を見て、が締め付けられ、アリアの頬に次々と雫が落ちた。

「アリアのせいだ……」

「…………」

けれど、もうこの想いを留めておくことはできなかった。

アリアは、黙って僕の目じりをでる。とめどなく涙があふれだし、アリアの指に雫がついていく。

「……アリアに、本當の僕を知られたくなかった……、みんな僕の魔力を知ると、僕の前からいなくなるから……」

アリアは僕の“初めてできた”友達。僕の隣でくるくると表を変えて話す彼は、僕にできた初めてのつながりだった。

「なぜ?魔力を持っていることが悪いの?そんなの、私がいなくなる理由にはならないわ」

何のことはないアリアの一言で、僕がどれほど救われただろうか。

「……でも、アリアは、僕が悪魔の子だって言われた時も、顔一つ変えずに、くだらないって言ってくれた……」

今までずっと獨りぼっちだと思っていた。だから、別に一人でいることが當たり前だった。

「だって、あなたは、あなただもの。初めて會った時に、言ったでしょう?あなたの容姿は、とても綺麗だって。私、なのに、見惚れてしまったのよ」

そして、これからもずっと獨りだと思っていた。それでもいいと思っていた。

「……アリアが、僕にそういう溫かい言葉を…優しい言葉をくれたせいで、僕は昔みたいに一人でいても平気じゃなくなってしまったじゃないか」

もう、1人の孤獨に耐えられそうもない。

「一人で平気な人なんていないわ。そんなものに慣れちゃダメ」

そんな僕の心の中なんてわからないはずなのに、アリアは微笑んだ。

「……暴走するのが怖くて、アリアが傷つけられても助けられないただの魔力の化けなのに?」

“魔力の化け”である自分が、アリアの傍にいてもいいのか。ぽろぽろととめどなく瞳から涙が零れ落ちる。

「そんなことないわ」

アリアはゆっくりと首を振った。

「……なんで、言い切れるの?」

震える聲で僕はそういった。すると、アリアはらかく微笑んで

「だって、あなたは……、“ルーク”は、こんなにも、優しいもの」

僕の名を呼んだ。そして、目じりをでていた手を止めて、僕の頬に手を添えた。

「……それに、ルークが優しくて、素敵だと思ったから、今日、また會いに來たのよ」

優しく笑う彼に誰かの面影が重なった。そのときに、なぜアリアといると落ち著くのか分かった気がした。似ているのだ――……。

「それに…、魔法は傷つけるだけじゃないでしょ」

その人は真っすぐで、裏がなく、芯の通っている――……。

「現に、ルークは今、その魔法を使って、私を守ってくれているじゃない」

そう言い切る彼に僕は一言だけ告げた。

「……ありがとう」と。

♢ ♢ ♢

突然――……

コツコツ、と砂埃が舞う教會に靜かな足音が響き渡り、思わず構える。

「誰かしら?」

「アリアは、そのまま」

僕は涙を拭い、アリアを起こし、アリアと音のする方の間に立ちふさがるように立てば、砂埃がまるである一點、音のするほうへ吸い込まれている。

この魔法は――……まさか。

コツコツ、だんだんと近づいてくる音の方を見ていると、それはやがて人影を映し出した。

「綺麗――……」

背後にいるアリアがそう呟いているのが聞こえた。

やはり、自分の思い描いた人だった。

「お父様!!」

「えっ!?お父様!?」

アリアはなぜだか驚いたような聲を出し

「ルーク」

目の前に立っている父は僕の名前を呼んでゆっくりと息を吐いた。

「……――この現狀はなんだ!?」

思わずを固くする。最後に、父と會話したのはいつだっただろうか。

「お前がやったのか?」

「…………」

「レイリーがいなくなり、どうしたのかと思えば、こんなところにいたとはな」

「…………」

「これは、魔力の暴走か?」

「…………」

「無謀な魔法の使い方をすることは、自の命を削ることと同じことなんだぞ」

「…………」

「わかっているのか、ルーク」

靜かな言いに思わず顔が強張った。

そんな僕を見て父は、はぁ……と息を吐いた。次は何を言われるのかと父を見返せば

「ルーク、マーク様はあなたを心配しているのです」

アリアがそんなことを言ってきた。

この僕がお父様に心配されている?

「え……?」

アリアの言葉に僕は困した。父は何も言わない。

「でも、お父様は――……!」

信じられず父とアリアを見比べる。

「そうですよね。マーク様」

「…………」

父は何も言わずアリアをみていた。

「マーク様は別にルークのことを疎んでいるわけじゃないわ」

「でも、レイリーが――……」

「それはレイリーが勝手に勘違いしてのことだと思うわ」

「それにお父様はずっと僕を避けて、全然家にも帰らずに――……」

「マーク様はルークを避けていたわけじゃないわ」

「なんで、そんなこと――……」

「だって、ルークを疎んでいるのならば、この場に來る必要がないもの」

アリアはそう言い切った。父は黙ってその様子を見ているだけ。

もし、アリアの言うとおりだったら、今まで僕が思ってきたことはすべて――……。

「もし仮にルークのことを邪魔に思っているのなら、こんな半壊したところまで來やしないわ!」

「…………」

「心配だったから、こんな危険なところまでやってきたのよ」

「…………」

「さっきだって、無茶な魔力の使い方をしていないか心配してたのよ」

「…………」

全部、誤解だったっていうことになる。

信じられず僕は頭を切り替えるように首を一つ振って“じゃあ!”と聲を上げた。

「この教會だって僕が通うようになってから、誰も使わせないようにしたのは、僕が魔力の化けで邪魔だったからじゃないか」

父は何もいわない。表も変わらず、僕を見ている。

「マーク様、貴方の想いを言ってあげてください!このままでは、あなたはルークに誤解されたままだわ」

アリアは黙り込んだ父に、訴えかける。すると父は、諦めた表を浮かべ、靜かに言った。

「……お前が、ルークが落ち著ける場所ならばと、この教會を閉鎖した」

「……――僕のため?」

……――どうして?

「……お前に強い魔力があることはわかっていた。そして、次第にその魔力の高さを見たものがお前を『悪魔の子』と呼ぶようになった」

……――お父様は僕を邪魔に思っていた

「神に仕える聖職者の息子だから、そのように呼ばれるのだと思った」

……――それがそもそもの間違い?

「ならば、私の傍から離れる方がよいと思った」

……――僕を避けていたわけではなく

「私から離れ、私と関わらずにいれば、自然そんな噂もなくなると思っていた」

……――それは僕を守るため?

「……けれど、噂は増すばかりだった」

……――どうして?

「……息子を守ることができない父親なのに、どの顔をして會えばいい?」

父は、どこか自嘲気味に笑った。まるで、自けなさを笑うように。時折、どこかでギシギシと音がする。そんな中

「まったく、口下手な親子だわ!!」

アリアの聲が教會に反響した。

「ア、アリア――……?」

「不用か!!同人誌のほうが、まだ用だわ!!」

「え……?ドウジンシ!?」

そして、わけのわからないことを口走る。ドウジンシ?なんだろうか、それはと疑問に思っていれば

「お互いの気持ちを言わなくちゃ進めないでしょ!!!まずは、ルーク!!」

ビシッと名指しで呼ばれる。

「え?僕……?」

「そう、あなたよ!マーク様のお話を聞いてどう思ったの?黙ったままじゃわからないでしょ」

「それは――……」

確かにそうだ。アリアの言うとおりだ。

「……僕はずっとお父様に疎まれていると思っていました」

だから、思ったことを父に言おう。意を決して口を開けば、アリアはそれでいいとばかりに頷いた。それだけで、スッと気持ちが軽くなった。

「お前をどうして疎む必要がある?お前は、私の息子だぞ」

……――父は僕を疎んでなどいなかった

「……だから、僕はお父様にとって邪魔な存在で、されていないのだと思っていました」

「子をさない親などいるものか」

「……――僕は、されていたのですね」

僕は父からされていないのだと思っていた。必要のない『悪魔の子』なのだと。けれども、それがそもそもの間違いだったのだ。

思わず力が抜け、僕はぺたんと座り込んだ。アリアはそんな僕の背を優しくでてくれた。

「次に、マーク様!」

「……――私もあるのか?」

「當たり前です!」

アリアの言葉に父はたじろぐ。

「マーク様のやることはまどろっこしいです!」

「…………」

「ルークじゃなくても、勘違いするわ」

「…………」

「あと、淡々とした話し方!もっと抑揚をつけてください。余計に冷たそうにじます」

「おい、余計にとはなんだ?その言いようはないだろう」

最初は、アリアと父のやり取りに目をしばたかせていたが、父にずばずばというアリア、そして珍しくたじろぐ父を見て、思わず口元が緩んだ。

「アリアは、本當にすごい」

そして、アリアに向き直った。

「アリアの言葉はまるで魔法だね」

「え――……?」

長い長い誤解をこんなにもあっさりとくなんて。

「こうやって、お父様の想いを知ることができた」

アリアのおかげで、僕は父からのを知れた。

「それに、『悪魔の子』と言われて、僕は呪われた子なんだと思っていた。だけど、僕は僕なんだって思わせてくれた。全部、アリアのおかげだ」

アリアを見ると優しい気持ちになれる。

ずっとずっとなぜ僕に高い魔力を與えたのだと神様を恨んでいた。

「それに、魔力が高いなんて羨ましいわ。私なんて、魔力ゼロで使えないのだから」

けれど、こんな僕にアリアと出會わせてくれた神様に初めて謝した。

「ルーク――……?」

アリアの笑顔を守りたい。ただそう思った。

「だったら、“今度”は僕が守るよ――……」

僕の魔力をキミを……アリアを守るために捧げるよ。

♢ ♢ ♢

コンコン――……とノックを鳴らす。中から、“れ”と父の聲がし、扉を開いた。そして、父に頭を下げた。

「お父様、お願いがあります」

僕が父の部屋にやってきたのは、レイリーとひと悶著あった翌日。魔力を使い果たし、気を失い、気が付けば屋敷に居た。それで先ほど目が覚め、服を改め、父の部屋に訪れた。

レイリーはというと、建崩壊の中びていたところを父が連れ帰ったらしい。拘束の魔法は切れていたが、レイリーの周りはまるで雷がそこだけ落ちたかのように焦げていたらしい。たぶん、建の瓦礫がレイリーに落ちないようにしたときに、ハース・ルイスがやったのだろう。本來なら重罪に問われるのだが、アリアからの嘆願で、『私の髪を切ったことに関する罪は不問です』との達しがあり、ハース・ルイスからも『マーブル家と同様です』とのことで、僕も勘違いだったとはいえ父のためを思ってレイリーがいたということもあって、『僕は父に従います』といったところレイリーは神父を辭めさせられたが、父が掛け合って父の友人の裝飾職人の弟子になったらしい。軽くて錮、重くて極刑の罪が、このような形になり、レイリーは泣きながら『申し訳ありません』といって、父と僕、そしてアリア、ハース・ルイスに謝したらしい。

「もう、はいいのか」

「はい」

「そうか……」

以前のように張り詰めたふうじゃない。アリアのおかげで、僕はこの人の不用なを知れた。

「それでお願いとはなんだ?」

父は短く僕に問う。

「魔法を僕に教えてください」

「……――なぜだ?」

父を見返せば、父も同じように僕を見返していた。だから、僕は一度目を閉じ決意するようにゆっくりと目を開けて、一言。

「アリアを守る力がしい」

心からの願いを口にした。

♢ ♢ ♢

ルークに魔法の指導を願われたその日の夕方。私はある場所に立っていた。

「ルナ、ようやくキミとの約束を守れたかな」

そういって、私は、かの人に想いを馳せた。白銀の髪、深紅の瞳。この世でもっともしたしい人を思い浮かべ、あのときの彼の言葉を思い出す。

♢ ♢ ♢

病室にるとルナに付きっきりだったルークは彼の足元で安心したように寢ていた。そのルークの髪をルナは優しくでていた。病室にってきた私に気が付いたのか、彼らかく微笑む。私は、ルナのベットの傍に置いてある椅子に腰かけた。

『……私は幸せね。こんなにも私を大切にしてくれる息子がいるんだもの』

『……――あぁ』

『それに、大好きな貴方にこんなにもされている。あなたのおかげで、ルークの母親にもなれた』

『……――ルナ』

『もし、來世があるのなら、また貴方とをして……結婚をして、ルークの母親になりたいな』

『來世とかいうな。早く病気を治して、また屋敷でルークと3人で暮らすんだろう』

『ふふふ……、そうね』

口元を隠して彼は笑う。そういったものの彼は聡い。自分が長くないことをじ取っていたのだろう。だから、彼はこういったのだろう。

『だからね、マーク。もしもよ。もし、萬が一私に何かあったときは――……』

“貴方がルークを守ってあげて”それが彼わした最期の約束だった。その翌日、彼は眠るように天へと旅立った。

「……――ルナ、私たちの息子は、守られるだけじゃなくて、今度は誰かを守ろうとしているよ」

そういって私は、ルナが眠っている場所に、彼が大好きだった鈴蘭の花をそっと置いた。

    人が読んでいる<とある腐女子が乙女ゲームの當て馬役に転生してしまった話>
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