《鮫島くんのおっぱい》序章

學校が終わり、家に帰ると、扉には鍵が掛けられていた。開くための手段は與えられていない。引いた戸に手応えをじてすぐ、彼はを翻した。

裏庭のプランターを持ち上げ、小銭を回収する。母の客が帰るまで、これで夜を過ごさなくてはならない。

店で食事を摂れる金額ではあったが、彼がそうしたことはほとんどなかった。十四歳という若年、それよりも小柄でなおく見える彼が一人で町をうろつけば、きっと酔客にからまれる。そしてこの、ひときわ目立つ明るいの髪。町の大人たちは皆、彼のことを嫌な目で見るのだ。

現金を財布にしまい、空腹のまま夜の道を行く。自宅のそばには公園があった。大通り沿いには背の高い植え込みが並び、中が目に付かない。そこには寢心地のいいベンチがあるのだ。もしかしたら自室よりも多くの夜を過ごしたかもしれない、その寢床へと向かっていく。

頭の中で、これまでに貯めたお金を數えてみる。それは大きな金額になりつつあった。

學校の誰よりも計算と記憶は得意である。なかでも、お金を數えるのは好きだった。

(いつか、あれを使おう)

考えごとをして、自然と歩幅がせばまる。

(あれを、まずは全部両替をして札束に変えよう。そして大通りのブティックへ乗り込んで、店の真ん中に飾ってある服を上から下までいちどに買ってやるんだ。おれのぶんと、かあさんのぶんと)

(それを著たら、學校に行こう。みんなに自慢してみせるんだ。おれのことを臭いといったやつらに)

(かあさんのことを汚いっていうあいつらに――)

妄想しながら歩くのは、生きていて一番楽しい時間だった。

夜の公園は暗く、靜まり返っていた。靜寂に安堵を覚え、ベンチのほうへと歩み寄っていく。

ガツッ――

突如、頭蓋骨を襲う衝撃。

後頭部から脳を揺さぶられ、一気に視界が暗転する。前日の雨でかすかにぬかるんだ地面へと前のめりに倒れ込む。

なに? だれ?

問うこともできないまま、意識が遠のく。暗転していく世界に、下卑た男の笑い聲。

同時に、自分のが芝生の方へ引きずられていく音を聞いた。

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