《鮫島くんのおっぱい》教會の試練②

騎士団長の試練、と、電気椅子モドキはナレーションした。星帝の試練ではない。

それに合格すれば、推薦狀をやるという兎の言葉に違和があったが、考えてみればこの教會は政治不可侵である。そして、ラトキア騎士団の総本山。ならば、最も難しい試験はこれしかない。

「……なんだかわからないけど、がんばってみましょうかね」

呟き、梨太はとりあえず、電気椅子モドキに腰かけた。指示通り、腰と肘掛けにベルトを回し、格子狀のヘルメットをかぶる。気分はまるきり拷問である。

しかし、騎士と言えばみな貴族。そこから団長となるための試練なら、無なことはされないだろう。心を穏やかに、梨太は手元のボタンを押した。

とたん、腰と肘掛けのベルトが締まる。

「うわっ!?」

思わず悲鳴をあげてしまう。いたいけな一般人の揺などなんの慮りもなく、ナレーションが流れた。

『それでは質問を開始します。準備はよろしいでしょうか』

「え……は、はい」

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『心拍、脈拍は平常ですか? 呼吸はれていませんか?』

「……なんとか大丈夫です」

こちらの音聲を認識しているのかはわからないが、とりあえず會話してみる。ナレーションはさらに続けた。

『部屋の気溫は快適ですか? 拘束ベルトは苦しくありませんか?』

「平気です」

『トイレは済ませましたか? おなかは空いていませんか?』

「大丈夫です――って、さっさと質問してよ、妙なとこ過保護機能いらないから!」

『では第一問。あなたのお名前は?』

「まずはそこからかよっ!? ――栗林梨太!」

梨太がぶと、機械はしばらく沈黙。三秒のち、ピンポーンと軽薄なベルが鳴った。

『正解です。では第二問』

「クイズなのこれ。もうなんでもこい」

『あなたは騎士団長になりたいのですか?』

梨太はふと、眉を寄せた。騎士団長――もちろん、そんなものは目指していない。だがこれは、會手続きにおける確認のようなものだろう。これにイエスと言わなくては、この先に進めない。し迷いながらも、梨太は頷いた。

「はい」

その瞬間。

ばぢっ! ――ふくらはぎに鋭い痛み。梨太は悲鳴を上げて悶絶した。ブブーッとこれまた安っぽいベルが鳴り、ナレーションが警告してくる。

『あなたは噓をつきました。警告一回目です』

「や……やっぱり電気椅子かよっ……」

『警告三度になると、不誠実な人格の持ち主として騎士団長就任への挑戦権を永遠に剝奪されることになります。では次の問題に移ります』

何問まであるのか教えてくれ、という切実な願いは、人のをもたぬ機械によって無視された。

『第三問。あなたには妻がありますか』

これも、梨太はやはり迷った。妻――といえば鮫島しかいない。彼は自分の妻である、そう確信しているが、まだ正式に婚姻したわけではないのだ。どう答えるのが正解なのか、本當にわからず戸う。

梨太が黙っている間、電気椅子は早く答えろと急かすことはなかった。時間制限はないらしい。遠慮なく、じっくり悩む。

(……騎士団長試験なのに、なりたいという噓を見破られた後も質問は続いてる。答えの容自は正否に関係ないのかもしれない)

(……やっぱり、これは噓発見なんだ。僕の脳派だか脈だかから、僕の心理狀況を見ている。正直者かどうか――だから、答えは、僕の心のままでいいんだ)

梨太は顔を上げた。

「あります」

ピンポーン。軽薄な音にホッと息をつく。自分の認識で正解らしい。ならばもう迷うことはない。梨太はその目に力を湛えて、まっすぐにを張った。

ただただ正直に、己の心を言語化する――それは、元來とても難しく、できる者は限られていて、そして梨太が最も得意なことである。二度と間違うわけがなかった。

『第四問。妻をしていますか』

「はい」

『第五問。妻に多くの子を産ませ、己の伝子と財産を反映させ土地をかにしたいと考えますか』

「いいえ」

『第六問。未來永劫、妻をし続けると誓えますか』

「誓えません。お互いがその努力をするべきと思ってます」

不誠実と言われるかもしれないことも、梨太は正直に回答していった。やはり機械はそこで判斷をしない。

それにしても、質問が結婚関連に偏っている。それは子孫繁栄を第一の教義としている教會ゆえなのか、あるいはこの先、質問の趣旨が変わるのか。

(なんでもこいだ。……この音聲は、どこかで教主様たちも聞いてるっていってたけど、ここで噓ついてつくろったって落第だろ。僕の本心を、そのまま見せてやる……!)

『第七問。あなたは二をかけたことがありますか』

「……ありません」

『第八問。妻と付き合っているときに他のに目移りしたことはありますか』

「え。ちょっと待ってなにこの俗な質問。ないです」

『第九問。妻にをしてからまだ付き合ってないときに、他のに目を奪われたことはありますか』

「だからなんなのこの質問。え。そんなの別にどっちでもよくない? 答える必要なくない? 黙でよくない?」

『第九問、早く答えてください』

「中にヒトってないですかこれ。あ、ありませ――んぎゃああっ痛い!」

ブブーッ。高らかにベル音が鳴ったのを、梨太はウルセエと怒鳴りつけた。

「だってしょうがなくない!? 鮫島くん最初に會ったとき男だったし! 再會してすぐに別れてからも五年経ってるし! 十九歳から二十四歳までの男子だよ、それに僕けっこうモテるんだよ、出會いも多い職場なんだよ、付き合いで合コンくらいいくさメルアド換くらいしちゃうともさ。でも実際に手を出したことは一度もないし、そこにチョット罪悪もってて電流食らっちゃうあたり、むしろ誠実な男だと褒められてもいいと思うな!」

『警告二回目です。次で失格となります。では第十問』

「聞けやこのやろぉおおっ!」

『第十問。國のために、妻子との生活を犠牲にできると誓いますか』

梨太は再び、沈黙した。そしてすぐに答える。

「いいえ」

ピンポーン。その音を聞きながら、正解を喜ぶよりも、梨太は別のことを考えていた。これは騎士団長を選ぶための試練。鮫島も、かつてここに座ったのだろう。

質問は同じものだったのだろうか。

そうだとしたら、鮫島はなんと答えたのだろうか――

十問目を終えたところで、なにやらピロピロリンと軽妙なメロディが流れる。

やっと終わったのかと息を吐いたところで、ナレーションが聞こえてきた。

『おめでとう、第一ステージクリアです。続けて第二ステージの質問に移ります』

「……どんだけあんのさ……」

梨太はげんなりし、肩を落とした。

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