《鮫島くんのおっぱい》黃金草原の戦闘②

梨太は防弾機能付きのフードをかぶり、目から上だけ窓から出した。

軍仕様の雙眼拡大鏡はすこぶる高能だ。きまで見えるほどズームアップし、急転換しても畫面がブレない。倍率を何度も切り替えながら、梨太は妻と友人の戦闘を観ていた。

――初撃、戦闘の皮切りとなったのは虎の刃だった。麻酔等より一回り小さい短剣ダガーであるが、刃が厚く、ほとんど金棒のよう。それを両手に駆ける。地を這うほどに低くから、巨人の足元を斬りつけた。

警告も宣戦布告もない。

背後からの不意打ちに、倒れこむ巨人。その背中を踏みつけて、彼は次の獲へ飛び掛かっていった。

速い。ズームを下げてもきが追いきれず、上下左右にフレームアウトする。獣のように駆け、飛蝗バッタのように跳ぶ。巨人のに飛び乗って、首元を肘で打った。それで二人目が崩れ落ちた。

「虎ちゃん、強っ」

でこれがベストコンディションというのは真実らしい。かつての記憶よりはるかに速い。

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高速で飛び回る男の合間をって、一條の弾道が疾はしる。虎にすこし遅れ後方から、鮫島が撃ち込んだものだ。

左手の籠手から、パチンコの要領で鉄弾を放っている。騎士とて、特別な任務がなければ銃火を持てない。拳銃の代わりなのだろう、しかし鮫島が使えば何も不足が無かった。

もしかすると銃以上のさで、巨人の両足スネを撃ち抜いた。

盜賊の悲鳴が梨太まで屆く。

彼らはそこで、ようやく襲撃を理解したようだった。

だがその時點で手遅れだった。

「なんだぁきさまら、ああっ、らときあきしだん。なんでこんなところに。……かな?」

が出來るわけではない。ただ狀況から、そのようなセリフをあててみる。大あっているだろう。対面する鮫島は後ろ姿しか見えないが、そのセリフも想像で補完してみる。

「えーと、手をあげろっ、大人しく従えば――っえ!?」

朗読は悲鳴じみた聲で中斷された。それだけのセリフを言える間もなく、鮫島はさらなる銃弾を放ったのだ。虎のきも止まらない。

おそらく彼らは全くの無言で、何の渉もせず、ひたすらに盜賊を攻撃している。

それは、正しい行だと理解できた。

鮫島と虎、二人は一般平均より大柄である。しかし相手はそれ以上の巨人。武格差をカバーしても、圧倒的戦闘力とはいえない。それが十人だ。不意打ちで人數を減らさないと、敗けてしまう。

巨人たちが襲撃を理解する前に、四人。武を持つ前にさらに二人、構える前に二人。

そうしてようやく「戦闘」が始まった。直後、すっかりが溫まり気勢の乗った虎の膝が、巨人の顎を打ち上げる。それでノックアウトはできなかった。「構える」というのは、これほどの防力を持つ。

虎はそのまま、巨人の背後に回った。細長い足を使い、用に首を締め上げる。巨人はきながら、虎を捕まえようともがいていた。一対一の勝負は、もうしかかりそうだ。

鮫島に対峙するのは、もう一人だけ。

「――てめえら、ちくしょう。このガキがどうなってもいいのか、絞め殺すぞ。……」

巨人は、すぐそばにいたハーニャを捕まえた。獣人族バルフレアの娘が、悲鳴を上げる。

鮫島は、やはり間を置かなかった。

白い手を突き出し、弦を引いて、すぐに離す。

鉄弾は見事、ハーニャを絞める巨人の腕に當たった。落下するハーニャ。

鮫島が駆ける。一瞬で距離を詰めながら、麻痺刀を右手に持つ。どうやらずっと口にくわえていたらしい。ああ、それじゃあ喋れないはずだよなと、妙な納得があった。

強制睡眠効果の麻酔刀よりやや軽く、そのぶん威力に劣る麻痺刀。

鮫島はその武で、巨人を三度、斬りつけた。

巨人のがビクビクと震える。

そして、崩れ落ちる。真下にいたハーニャを鮫島は毬玉みたいに蹴り飛ばした。直後、そこへ巨人の膝が落ちた。

土埃が上がる。隣で同じく。倒れ伏した巨人の上で、虎がフウと息をついていた。

鮫島と虎は顔を見合わせ、視線で確認。足を傷つけ這っている盜賊たち全員に、改めて麻痺刀を當てて回った。

――あの武に、刃はついていない。決して、トドメをさしているわけではない。

おそらくは死者はいない。どの攻撃も急所を外していた。しかし腳の腱や利き腕を破壊しているのだから、慈悲深く平和的制圧とはとてもいえない。日本ではありえない、暴力による暴力の終結であった。

の、ものいわぬ者が転がる真ん中で、鮫島は振り返った。梨太に向かって、大きく手を振る。

梨太は黙ってハンドブレーキを解除し、車をUターンさせた。ほとんどペーパードライバーなうえ異國の軍用車だ。作は危うい。

だがそれを差し引いても、車の進みが悪い。車が悪いのではない、自分がアクセルを踏み損ねているのだ――そう自覚してもやはりゆっくりと、梨太は鮫島のもとへ合流していった。

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