《鮫島くんのおっぱい》鮫島くんの落下
コンロの口とフライパンは一つしかなかった。
一枚のお好み焼きをシェアしてつつきながら、二枚目を焼いていく。塩ダレと、すこしフルーティで甘辛いソースを並べて、「お好みでどうぞ」と出してみた。
「おっ、味い。野菜ケーキみたいなのかと思いきや、ちゃんとゴハンってかんじだな」
「良かった。けっこう手探りのナンチャッテレプリカだから、正直不安があったんだ。ラトキアにダシっていう概念があってよかった……」
「オレはラトキア星から出たことないんだけど、地球の食事はどんなものなんだ?」
「えっと、地球っていうか、とりあえず僕の住んでた國では――」
雑談混じりの食卓。
ちいさな四人掛けのテーブルの、廚房の一番近くに梨太、その隣に鰐、向かいに鮫島と言う席である。鮫島と二人きりではありえない、にぎやかさだ。鰐はオシャベリであり、同時に聞き上手でもあった。
ついつい會話に乗ってしまい、箸が止まる梨太。対して鮫島は、いつも以上に黙々と食べ進めていた。
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「……リタ」
呼ばれて、鮫島の方を向く。何? と尋ねるより早く、鰐が塩ダレを手渡した。鮫島は無言でけ取ると、手前の皿にそれを追加していた。要通りのだったらしい。
「ああ、ソースがしかったのか。そっちの味のほうが味しかった?」
鮫島は一度口を開きかけ、すぐにつぐんでしまった。
「――ん?」
何か言葉を模索している。それはほんの二、三秒の間であったが、彼のが開くより一瞬早く、
「別にこの味が好きなわけじゃなくて、量が余ってるようだから消化しようとしただけだよ。どちらかというともう一つのほうが口に合う。もしも追加分があるなら出してほしい、それなら遠慮なく使うから」
と、長臺詞をはいたのは鰐である。鮫島も頷き肯定する。また正解らしい。梨太は違和を覚えながらも、反論せずに呑み込んだ。
そのまましばらく食事がすすみ、二枚目のお好み焼きも消化するころ、梨太はふと思い出した。鮫島の方を向いて尋ねる。
「そういえば虎ちゃん、うまくやってるのかな? バルフレアの村にひとり、置き去りにしちゃったけども」
「いやあ、あいつなら大丈夫だろ」
答えが來たほうへ向き直る――やはり、鰐である。
「たぶんバルフレアの民と気が合うぜ。あいつらはたいてい王都の貴族が嫌いで、それでいて人懐っこいからな。虎みたいなのは歓迎されるはずさ」
「……。なんで鰐さんが言えるんです? 虎ちゃんと會ったことはないですよね」
「會ったことはないが話したぞ。さっきバルフレアから連絡が來たんだよ。商隊はお前らよりだいぶ遅れて村に著いたからな。一応確認のためって電話がかかってきた。傭兵として友人として、ちゃんと聞くべきことを聞いてきたよ。いいねえ、あのキャラは。一見野だが真面目で賢い。敵も作るが親友も量産するだろう。思わず従業員にスカウトしてしまったぞ。あれはいい部下だ」
「……はあ」
「聞けば元騎士で、クゥにとっての部下だったという。だったらクゥも同じ印象、同意見だろ。俺の言葉はクゥの言葉と同じだよ。なっ?」
「……うん。まあ……合ってる」
「ほら、こういうところはやっぱり雙子のシンパシーかねえ。しかもオレの言葉のほうがわかりやすいだろ? クゥは口下手だからな。クゥの考えてることは、オレに聞いた方が早いぞ!」
けらけらと笑う鰐。
(……それは、きっとその通りなんだろうけど……)
黙ってお茶を流し込む、梨太の裾がクイと引かれた。鮫島が、テーブルの下でそうしてきたのだ。何の合図かと思ったら、彼は獨り言のような聲でぽつりと言った。
「リタ、帰ろう」
「……うん?」
「帰ろ。ここから出よう……」
梨太はじっと、鮫島の橫顔を見つめた。相変わらずの無表――でも、その言葉が、心からの願いであることは察せる。居心地が悪そう、ではない。むしろ自分の意思を片っ端から代弁してくれる鰐は、彼にとって便利な相棒に違いはないはずだが――。
梨太は頷いた。
「うん、わかった。もうちょっとだけ待ってね」
それだけ諭して、居住まいを正し、鰐の方へと向き直る。
「――鰐さん、すいません。僕たちやっぱり宿泊はせず、食べ終わったらここを出て、バルフレアの村へ行こうと思います」
「えーそう? もっとゆっくりしていけばいいのに」
「ごめんなさい。でも、お話だけは済ませてから出ます。――鰐さん、そろそろ、ちゃんと話をしましょうか」
「話って?」
問い返されて、梨太は本気でコケそうになった。首を傾げる鰐。どうやら本気で、とぼけているわけではないらしい。
「政治の話ですよ、あなたも星帝候補、僕らはライバルになるんでしょ!? 話があるから泊まっていけってあなたが言ったんじゃないですか!」
「話をしようとはいったけど『政治について』なんて言ってないぞ。オレはただ、弟の婿と雑談したり猥談したりしたかっただけだし」
あっけらかんと言われ、口をぱくぱくさせる梨太。兄をよく知る鮫島は予想の範囲だったのか、靜かにお茶を飲んでいたが、
「――で? クゥはこのリタのどこに惚れたの」
問われて派手に噴き出した。ゲホゲホ咳き込む弟に、同じ顔をした兄はを乗り出す。
「第一印象が好みだったってのはわかるよ。でもそれだけで結婚まで突っ走ったわけじゃないだろ? どういうイベントを経てここにきたのか、おにーちゃんに聞かせてくれよなあ、なあなあ」
「ばっ、ば、か、ルゥ。そういうことは……そんなに特に、は」
「特には無い? いやーさすがに騎士団長のお前が職も分も捨て別まで変えて、年下の異星人と結婚しようって言うのになんのイベントもなかったってわけがないだろう。お前が意外と惚れっぽくて、求められたらのぼせる分なのは知ってるけど。でもそれだったら、あの烏にプロポーズされたときにあいつと――」
「へっ?」
「わあ!!」
梨太の疑問符は、鮫島の悲鳴にかき消された。彼はびながらフライパンを振りかぶり、いっぺんの容赦もなくフルスイングで鰐をぶっとばし、倒れたところを踏みつけ、扉に向かって走り抜ける。あっという間に家を飛び出し――
「うわああっ!?」
――と、いう悲鳴が響く。
「鮫島くん!?」
慌てて家を飛び出すと、扉口のすぐそばに、巨大なが開いていた。覗き込むと二メートル底に鮫島がいる。
「……えーと。鮫島くん、大丈夫?」
「…………ちがう…………ちがうし……」
彼はそんなことを呟いていた。
「あーあ、なんでこんなわっかりやすい、泥棒よけの罠にお前が引っかかるんだよ。何をぼーっとしてたんだか」
梨太の後ろから、タンコブひとつこさえた鰐がひょいと顔をのぞかせた。鮫島はもう反論すらしない。真っ黒い泥に腰まで埋もれてどうしようもなく、じっとしているだけだ。
梨太はとりあえずケガがないことを確認すると、胡な目つきで鰐を振り向いた。
「鰐さん、星帝候補うんぬんの話ももういいです。僕たち一刻も早く帰ります」
「おう。……でもフロだけっていったら?」
「そうさせてやってください」
「もうココ二度と來ない……」
消えるような鮫島の聲が、の底からぽつりと聞こえた。
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