宙に浮き、そして落ちてくる短剣。

目を見開き悔しそうな顔をするシャルルと私の前に立ってシャルルを睨んでいるディルク。

靜寂に包まれている會場。

そして、その沈黙を破ったのは彼だった。

「シャルル・ストレイア男爵令嬢殿、貴は我らインディゴ王國からの留學生のリリアーナ嬢、つまりニヶ國の友好の証に刃を向けた。その意味がお分かりか？」

ディルクは氷の刃をシャルルに向けながら冷たくそう言い放つ。

その底冷えするような聲は向けられている対象が自分でないと分かっていても、鳥が立ってしまう程だった。

「…我は霊にされしもの、その輝きを我に託せ」

それでも怯むことなく詠唱をシャルルは始める。

ディルクは再び私に攻撃をしてくると踏んだのか軽く舌打ちをしながら私を抱きすくめ防魔法を展開した。

瞬間、周りに木々が生えてくる。一瞬で育っていく木たちに周りが目を取られている時にシャルルはどこかへ走っていった。

それを見ていたディルクが氷の剣を水蒸気に戻し、詠唱を始める。

「…我は氷の悪魔との契約者、そのより濃い盟約に従い汝の力を分けろ。…凍結せよ、結合せよ」

低い聲でそうディルクが言った。

すると長を続けてシャルルを追うのを邪魔していた植が一瞬で凍りつく。

そしてその冷気は辺りに広まって溫度がガクッと下がる。初夏でありながら震えるほどだ。

出しているを手で覆う人が増えていく。

「自壊せよ」

その言葉が冷え切った會場に響くと同時に凍りついていた木々が破れてなくなった。

キラキラと氷の結晶が降り注ぐ。今思うには相応しくないだろうが、幻想的でそれはとてもしかった。

「近衛騎士、彼を追ってくれ」

口を開けて混し、何の行もしないアルザックとは違いディルクに変わりクロードがそう騎士に命令する。

唖然としていた騎士がハッとし、アルザックのことを気にしながら出ていった。

「リリア、一旦戻ろう」

殺人を犯そうとしていた犯人がその場からいなくなった安心からか騒ぎ始めた周り。

それを気にしてかディルクが優しく聲をかけてくる。

「ええ、申し訳ありません」

魔法陣を解除すると何かの酔いが取れたように気分が悪くなった。超級魔法は初めて使ったが、思っていた以上に力と魔力を吸い取られる。

強烈な吐き気が襲ってきた為、口元を抑えるとディルクが優しく背中をでてくれた。

先ほどの魔法のせいか冷んやりとしたその手は今はとてもありがたい。

けれどこの姿を周りの生徒には見せたくないので早歩きで休憩室に向かった。

休憩室に著き、ディルクに禮を言ってから扉を開ける。

そこにはテトラと髪の短い綺麗ながいた。

「流石はテトラですね、とても綺麗ですわ」

「 …なぜ僕が裝をしなければいけないのかな」

くるりとこちらを向いたは私の友人にとても似ている。勿論、同一人だからなのだが。

「あら、総合テストの賭けで復讐に協力すると言っていらしたでしょう？ガル様」

そう。彼、いや彼はガルデなのだ。

つまり、彼が今日夜會にいなかったのはテトラに彼の化粧やらをお願いして々されていたからなのだ。

もともと可らしい顔立ちに男子にしてはし低めと言える長のガルデは、テトラの技でもはや完璧な令嬢となっていた。

聲が低いのが難點だが喋らなければバレないだろう。

「…お似合いですよ、ふふっ」

「なんで笑いながら言うかな？」

なんかいってるガルデは置いといて、目を瞑り中に魔力を回していく。

その覚をじながら目をゆっくり開けるとリリアーナより背の高いガルデが小さくじれた。

「テトラ、服を頼む」

ライルになったので早々に著替えを要求し、服をぎ始めた。その一言だけでテトラは俺の著替えの手伝いを始める。

その様子を見てガルデが子のように思いっきり目をそらした。

裝しているとはいえ男同士なのに、何がダメなんだ。

「…なんでそっち向いてるの」

「うっさい！なんで著替えるんだよ！そこで！」

本當に子みたいだ。

手で顔を覆っているところとががもう。

「流石にピンクの服著てる男はないだろう、気が悪い」

「それはそうだけど…」とブツブツ小さな聲で文句を言っている。

それを無視して黙々と著替えた。

新しく新調した黒と紺のシュッとしたタキシードにを包む。

「終わったよ、ちょっとこっち來て」

「はいはい」

數分待たせたせいもあり、めんどくさそうにぼやきながらガルデが近づいてきた。

直ぐそこまで來てピタッと止まったのでこちらもめんどくさくなり、裝男子を抱きしめる。

「テトラ、行ってくる」

「行ってらっしゃいませ、刺されないようにお気をつけて」

困しながら子みたいに顔を赤くさせているガルデを強く抱きしめながら転移魔法を発させる。

シャルルとの待ち合わせの場所と今立っている場所との座標を計算し、頭の中で組み合わせていた。

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「…突然なんの前れもなく転移しないでくれない！？」

怒りながら睨んでくるが顔がとにかく可いのでそれすらも無意味になっている。

「あら、化粧や髪型を崩さないようには気をつけましたわよ」

そう笑顔で返したら明らかに顔をしかめられるた。

「言葉気持ち悪、桃の服よりダメじゃないの」

無意識だった。

確かに大の男が言葉とか冗談でまとめられないほど気持ちの悪い。

「…それより、早く行こうか。…軽いね」

明らかに適當に話をそらしたことか、重のことを口にしたことか、ずっとお姫様抱っこをしていることのどれかが気に障ったのか思いっきり舌打ちをされた。

「どこ向かってるの、お姫様抱っこされてるこっちのにもなってよ」

「もうそろそろだから、」

座標がしずれたのか、待ち合わせの場所から外れた路地裏に転移していた。

だからし歩かなければいけないのだ。

まあ、その方が々と都合がいいから良かったといえば良かったのだが。

「…あっ、ここからは喋らないで」

目的の人を見つけたのでガルデの顔を見られないように顔を自分の側に向ける。

これで、茶髪のショートカットのの子にしか見えないはずだ。

路地裏を抜けると、噴水が中心にある綺麗な広場が広がる。夜のため王都なのに人気のないここに、たった1人ドレスを著たシャルルが立っていた。

下手したら戦爭になるかもしれないという行為をしたにも関わらずワクワクしながら待っているように見える彼がとてつもなく馬鹿らしく見えてくる。

「疲れたでしょ？そろそろ家に著くから」

なので、俺はわざとシャルルに聞こえるような聲でガルデに話しかけた。

それに気がついたシャルルが嬉しそうな顔をしたこちらを見るが、それはほんの一瞬ですぐに表が固まった。

それを見て、そのまま立ち去るふりをした俺の服がぎゅっと引っ張られた。

その方向に顔を向けると案の定、シャルルがいる。

「誰？その」

そのシャルルは睨みながらそう言った。

「…婚約者だけど。君、誰？」

そう口にした瞬間、シャルルの目元がさらに厳しくなる。

「先週、夜會で會ったでしょう！？今日言う通りしてきたのよ！？」

早口で詰め寄ってきたので、し後ずさりしながら考えて思い出したかのような顔をした。

「ああ、あれか。…本気にしてたの？」

その顔に合うように、間抜けな聲でそう答える。

それと同時にシャルルの顔は驚きと絶で染まっていった。

「…え？」 

「…え…本當にやったの？…めんどくさ」

「…なんで？！ずっと一緒にいようっていってくれたじゃない！だから、私…」

途中でその話を遮り、俺が口開いた。

「出會ったばかりの相手と婚約とかあり得ないでしょ、何勘違いしてるの。それに君、似たようなこといろんな人にやってるようだったし」

今度は、こちらがシャルルを睨んだ。

「僕の婚約者も怖がるから、もういいかい？」

そのまま唖然と口を開けているシャルルを確認してから後ろを向き歩き始める。

今、気を緩めたら笑いが止まらなくなりそうなので必死にを噛みながら歩みを進めた。

「…酷い奴」

「君もだろ」

ガルデの小さなつぶやきに小さく返す。

顔を近づけて何かを話している2人を見せつけられているであろうシャルルの心境を考えただけで満足がやけに気分を高揚させた。

しかし、その考えは微かだが確かな殺気を帯びた魔力をじたので消えていった。

「…我は神々に忠誠を誓った者。主君の永遠なる力を一時、我に授けたまえ」

足を止め、彼の方を向くのと同時にこれまた超級防魔法を発させるための詠唱をシャルルに聞こえないような小聲で言う。

全く、二回連続で超級魔法は力と魔力にくるのでやめてもらいたいものだ。

心の中でため息をつきながら詠唱を終えると完璧に魔法が発し、足元に青の魔法陣がうっすらと浮き出ててくる。

「全てを消し去り、全てを裁く霊の輝きを！放て！」

それと同時に、シャルルの高位霊に加護された者のみが使用できる魔法が発し始めた。

目がくらみそう程の眩いがいくつも出現し、ガルデと俺を取り囲む。

「やばいって！死ぬって！ねえっ！」

聲を出すなっていってたのに混してぶガルデの口を手で塞ぐ。その作をしている間にもの輝きが増していった。

高位霊の絶対審判魔法。天災級の代でこれを喰らったら優秀な魔導師でも瀕死狀態になるのは確実だろう。

それより上をいく魔力を持っていなければ、の話だが。

「はははっ！私を騙した罰よ！人諸共死んじゃえ！ざまぁみろ！」

自分のこの魔法を絶対に防げないとおもったいるのか完全に調子に乗っている。

まあ、これはこれで後が面白いのだが。

「…隨分と愚かだな、たかが霊に加護された低級貴族の分際で」

完璧に神が崩壊して笑っているシャルルに嘲笑うようにそう言った。

「ははっ……え、なんで、…なんで生きてんの」

笑いが消え、表が一気にくなったシャルルを冷たく睨む。

「…なんで、なんで無傷なの！？！」

あり得ないとでも言いたげな目で此方を見て來る。

「彼に傷でもできたらどうするつもりなの？」

ずっと抱いていたガルデを丁寧に顔が見られないようゆ下ろし、魔力をわかりやすく放った。

そのままシャルルにゆっくりと無表で近づいていくと、泣きながらけない悲鳴をあげ、ゆっくりと後ろに後ずさりしていった。そして、終いにはの力が抜けたかのように地面に座り込んでしまう。

「さて、どうしよっか？」

ころっと表を変えて笑いながらシャルルの目線に合わせてしゃがむ。

「いや、…やめて…許して…」

すると震える聲でそう祈願して來るのだ。

許すわけ、ないじゃないか。

無言を決め込んで手のひらを彼の方に向け、魔力を流し込む。

「…ひっ」

小さくこまり、震えながら目を瞑るシャルルに向けてある魔法を使用した。

ディルク程ではないがヒンヤリとする冷気が広場に広がり、噴水の水が凍りつく。

「え…」

「命があるだけ、彼よりマシだろ」

シャルルの足と手を地面と氷で繋げてそこから一歩もけないようにしたのだ。

手と足を拘束されて、地面にひたいをつけて許しを請うかのようなその稽な姿。

そのままガタガタと震えているシャルルの姿が、ひどく愉快に思える。

私の格なんて、歪みまくっているだろう。

しの罪悪もなく、その姿を嘲笑っているのだから。