「これなら馴染の方も喜んでくれますよ！」

ガルデが自信ありげにそう言いながら手に持っている先ほど屋臺で買っていた飲みを全員に配る。

「ああ、いいものが買えた」

それをけ取りながらふんわりと微笑み、先ほど買ったアクセサリーの袋に視線をやるディルク。

ガルデが私にもその飲みを差し出したのでそれをけ取り口を付ける。

「味しい…！」

瞬間、口の中に広がるのはフルーツの爽やかな酸味とそれに合うほのかな甘み。

普段このように出店のものなんて飲めないのでそれが新鮮で気分が高揚した。

「冷えてればもっといいんだけどね」

ガルデがカップをゆらゆら揺らしながらボソッと呟く。

確かに、このフルーツジュースは微妙にぬるい。まあ氷は冷凍する技が魔法のみしかないこの國では氷は貴重品で魔法で作るか冬に作ったものを保存するかしかない。ただ氷屬を持った人は僅かであり、贅沢は言えないのだ。

「確かにな、」

ガルデのつぶやきを聞いたのかディルクがそれに返し、ガルデのカップの上あたりに手を持っていく。

するとガルデが「わあ」と歓喜の聲をらす。

それを見て、此方のカップにも手をかけてくれたので不思議に思い覗き込む。

「すごい…！」

すると、カップの中にはいくつかの氷が涼しげにいていた。

「流石だね〜」

無邪気で綺麗な笑顔をしながらそうカップに口をつけるアトレーテ。

「…そういえば何故ガル様は、買いに慣れているのですの？」

その様子を見ながらふとした疑問を口に出す。何故、時期宰相と言われている彼が、屋臺での買いにここまで手馴れているのか。

「…ははは、気のせいじゃないかな…」

「…あっ、あれノアルさんじゃない？」

ガルデの頬がひきつり始めた頃、アトレーテは話を変えようと辺りを見渡す。

そして見つけたのが王都の大聖堂の前で立っているの聖、ノアル・ガーデントレイ。

「あっ、本當だ。ノアだ」

それを好機と言わんばかりに飛びつくガルデ。しため息が出たが、ディルクを含めそちらを見ている３人の顔が険しいものだったので私も視線を同じ方向に向ける。

そこには、あってはならない景が広がっていた。

「助けてくださいっ…！娘が！」 

「ごめんなさぁい、先約があるの。さ、行きましょウルヴァリィア騎士団長っ」

見るからにやせ細り泣く力も殘っていない子を抱いた母親。

しかしそれに見向きもせずウルヴァリィア騎士団長、デュークスの父親にノアルはすりついていた。

「お願いします…助けてください…っ」

それでもノアルの足元まであるスカートにしがみつき助けを求める。

「騎士団長は今お怪我をなさっているのです。この方はこの國を支えているお方なのですよ」

その様子に、冷たく摑まれた部分を睨みながら言う。

今にも倒れてしまいそうな母子がいるのに人々を平等に扱う聖職者とは思えない対応だった。

「そうだ、その汚い手を離したまえ」

それに調子に乗ったのか母親の手をグリッと踏みつける。

その瞬間、私たちはその前に飛び出した。

「その様に民を扱うのは王に忠誠を誓い、國の為に盡くす騎士の行いか？」

ウルヴァリア騎士団長の肩に手を置き

冷淡にアトレーテは笑った。

「アトレーテ王太子殿下…？」

非常に困した表を浮かべる騎士団長はその周りの面々を見てさらに固まって行った。

「違います！騎士団長様は肩に怪我をされているのです！そのため私はそちらを優先しようと…！」

見えいた噓をつくものだ、と一部を除いて他の面々は思っただろう。

王都の教會は市民の支援などを目的としているため騎士団長がここに來る理由はどこにもない。例え怪我をしようと専用の魔道士や魔法を使うものだ。

「そうだぞ、さあいこうか聖殿」 

「ええ」

「仕方ありませんわ…すみません、お手をお借りしてもよろしくて？」

ささくさと教會の中にっていこうとする2人を見ながら橫にいる母子の手を借りる。

「我は全知全能の神にされし者。今その聖天の力を持って人々に癒しを…」

神級回復魔法を大勢の前で堂々と使うわけにもいかないので小聲で最小限になるよう努力した。

その詠唱を言い終えると同時に私の手とその手で握っている母子が淡いに包まれはじめる。

その景はさぞかし神的だろうが殘念ながら治癒のため集中しているのと魔力の抜けて行く力が重なり見れない。

「…ふぅ…終わりました」

「有難うございます！！謝しきれません…！」

痩せ細って所々怪我をしていた2人はその面影もなく綺麗に健康的になっていた。

「リリアーナ様、何ですか、その魔法」

その景をありえないとでも言いたげに見ていたノアルが口を開く。所々途切れているのは揺のためか。

「なにとは？今見えたとおりですか」

當たり前だ、だって回復魔法の使い手は世界で見ても數人しかいない。

その為、彼はの聖と崇められていたのだ。

「なんで、屬を…」

それなのに一番敵視していた私が使えた、それも同時に2人分の高位回復を。

この希はだれよりも彼が分かっているだろう。

「他國に適正魔法の報告をしなければいけないなんて、言われてませんわ」

今まで魔法、特に屬では適のないであろう私に負けるはずがないと思っていたノアルの余裕がなくなった瞬間だった。

「の聖とは慈悲深い者だと聞いていたけど、それほどでも無いようだね」

リリアの方が余程いい、と冷淡に言うアトレーテの言葉がさらにノアルの傷を抉る。

「リリアーナ様でしたか、初めてお目にかかります。デイリオル・ウルヴァリアです」

先程の姿勢とは打って変わりニタニタとこちらに敬禮をする騎士団長。

ディルクの眉間にシワがよっている事が見なくてもわかるくらい騎士とは言い難い型と姿勢だった。

「リリアーナ・アイラライトです。先程はお見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません」

それを悟られないように一禮するとその視線が一層気持ちの悪いものになる。

全を舐めまわさせているかのような、そんな視線だ。

「素晴らしい魔法ですね。ぜひ、私の治療もしていただきたいな」

その途端、馴れ馴れしく肩に手を置かれ教會の中に引きずり込まれそうになる。

全員が固まった瞬間だ。

「離してくださいません？」

完全な想笑いをしながらそう言っても聞き耳をもたない騎士団長は、気持ち悪い。

「リリアーナ嬢は噂通りしいですな、デュークスの伴となっていただきたいくらいだ」

デュークスと婚約とかするのであれば死んだ方がまだましだ。

「まあ、し教會で話そうじゃないか」

荒い息が肩にかかり鳥が立ってくる。

これは、やばい。

どうやって抜け出そうか々考え、理的に魔法で気絶させようと手に魔法陣を発させる。

「リリアは先程の魔法で疲れたようなので、失禮いたします」

あとしで騎士団長に魔法が直撃する寸前のところでディルクが肩に乗っている手を払いのけて私を摑む。

それだけでが高鳴った。