ゾーンの練習を始めてからから１週間ほどの時が過ぎた。

「シンシアちゃんはもう完璧だね！」

「ふっふっふっ……」

アイリ達よりも先にゾーンを使いこなす事ができるようになった俺は、練習に勵む３人をドヤ顔で見つめていた。

「くっ、悔しい……けど可いから許せる……」

「自分の意思でとか無理だろ……」

「アデル君ならできるよ！」

アデルの弟分のような存在のシェフィは、既に自分の事は諦めてアデルの応援に徹している。

俺はゾーンの発に何らかのキッカケとなるきや言葉を決めて、自在に発できるようになった。

そもそもゾーンというのは究極的に集中した狀態の事を言う。つまりは心を無にして一點集中、某ラグビー選手のあのきもゾーンにるキッカケとなる。

俺の場合は、目を瞑ってに手を當てる。そのまま2回程意識的に深呼吸をする事でゾーンにれるようになった。雑念がある時はできない事があるが、無心になる事ができれば完璧に発できる。

「じゃあシンシアちゃんがゾーンを習得した事だし、実踐的な戦闘指導を行うよ〜」

「えっ先生私達はどうするんですか？」

アイリ達３人はゾーンを使えていないのだが、どうやらサラは俺さえ長すればそれで良いらしい。

「やり方は教えたから個人練習あるのみ！ 私はシンシアちゃんの指導に専念するから頑張ってね」

「じゃ、じゃあ私は指導の様子を見學しています」

アイリはゾーンの訓練を中斷し、俺とサラの様子を見學する事にしたようだ。

「それじゃあシンシアちゃん、結界にって」

「分かった」

今まではをかす事がなかった為結界にる必要はなかったが、久しぶりにることになった。いよいよ自分のを守る為の技を教えてもらう時が來たのだから、気合をれるか。

「最初は、おつかいで果を買いに籠を持ってルンルンスキップしているシンシアちゃんの前に武を持った怖い大人の人が現れた時。の対処法ね」

「その大人……許せない」

なんで訓練なのにシチュエーションが凝ってるんだ。それに俺はルンルンスキップするような格ではない。

アイリも乗っかるな。

「普通に武を持った大人相手の対処法で良いだろ」

「良くない！ いつ大人が現れるか分からないんだから」

だからっておつかい中には出てこないだろ……。

「じゃあ〜アデル君！」

「んぁ……？」

座禪を組んで訓練しているのかと思ったら居眠りしていたアデルを呼ぶと、サラは木製の剣を渡した。

「ん？ これで何するんだ？」

「アデル君が危ない大人役。シンシアちゃんに剣を當てて」

サラが相手してくれるんじゃないのか。

「シンシアちゃんはゾーンにった狀態で、アデル君の剣に當たらないようにいてみて」

「分かった」

「……シンシアちゃんに怪我させたら許さないから」

「わ、分かった……」

アデルに対し大きなプレッシャーを與えたサラは、結界の外に出ると何かを呟いた。すると広い範囲だった結界がグングン狹まってきて、最終的に小さなコンテナの中程度の狹さになった。

この中で避けきれ、という事だろう。

「あ、シンシアちゃん！ シンシアちゃんはアデル君の背中にタッチしたら勝ちだから！ 好きなタイミングで始めていいよ！」

ふむ、俺にも勝利條件があるなら早めに決著を付けるとしよう。

アデルは背中にれられたら負け。俺はアデルの剣にれたら負け。簡単なルールだ。

「よし始めるか」

「待って。ゾーンにるから」

目を瞑り、に手を當て深呼吸をするとあっという間にゾーンにった。アデルの細かな作、どこを狙っているのかがはっきりと分かる。

「OK」

「よし、手加減はしないぜ」

アデルも先輩として負ける気はないようだ。戦闘経験のない後輩に負けるなんて有り得ないと思っているのだろう。

「ふんっ！」

早速俺の腰元を狙った攻撃が飛んできたが、冷靜に後ろに下がって避ける。

しかし移できる範囲が狹い為、どこかのタイミングで後ろに回り込まないとな。

「い、今の避けるか……」

何故かアデルが驚いている。

「掠らせでもすれば俺の勝ちだ！！」

今度は様々な方向から何度も切りつけ始めたが、ゾーンにっている今の俺は慌てることなく確実に避ける。

ん、今なら背後に回れるっ！

「おわぁっ！ 危ねぇっ！！」

アデルのが右側に向いていた為、がら空きの左側から背後に回るチャンスだと思ったのだが流石特別クラス。すぐに勢を戻して背後に回られるのを防いだな。

「シンシアちゃんゾーンにると喋らないから怖いなぁ」

「そう？ 集中してるシンシアちゃんも可いと思うなぁ」

突然、観客席でアイリとサラの変な話が聞こえてきて、ほんの一瞬集中が途切れる。

「今だっ！！」

「危なっ──」

ほんの一瞬の事だった。アデルの剣先は俺の橫腹スレスレを通り抜け、咄嗟に避けた俺のはそのままバランスを崩し後ろへ仰け反る。

「貰ったぁっっ！！」

それを勝機と見なしたアデルは、再び剣を振った。

しかし、バランスを崩した瞬間再びゾーンにった俺は背後の地面に手を當てる。このままだと剣が當たってしまう為、両足を地面から離しバック転のように飛んで避ける。

軽なに謝だな。

「マジかよっ……！」

地面に著地した瞬間アデルの方を見ると、俺のきに驚いて直していた。その隙にアイリに犬みたいだと言われたき、四足歩行で姿勢を低くしたままアデルの下を通り抜ける。

「やべっ」

そんな聲が聞こえてきたが、その時には既に背中にれることに功していた。

「…………よっしゃぁっ！！」

自分でもビックリするきで勝利した俺は、その場でガッツポーズを取る。

「はい2人ともお疲れ様〜！ 」

「くそぉぉ〜っ！ そんなき見たことねぇよ」

「シンシアちゃんの今のき、まるで獲を狩る白狼みたいだった！」

「ありがとう」

観客席にいた3人が結界にやってきた。サラは満足したように嬉しそうな笑顔で抱きつこうとしてきて、アイリはアデルと同じく俺のきに驚いていた。

「シンシアちゃんもしかしたら戦いのセンスあるよ」

「そんなに褒められるとは思わなかった」

サラにセンスがあると言われて素直に喜んだ。

「もうこれくらいけるなら１人で外に出ても大丈夫だね。それに途中、意識だけでゾーンにったでしょ？」

「あぁ〜……確かに。キッカケのきしなくてもれた」

始めてゾーンにった時と同じシチュエーションでゾーンにったな。コケそうになると集中するのか。

「もう今日からシンシアちゃんは危ない場所以外は１人で行ってもOKって事にします！」

「ん？ 剣と魔は？」

外に出れるようになったのは良いのだが、出來れば武の扱い方や魔なんかを教えてしいのだが……。

「剣と魔も教えていくつもりだよ。でも一先ずこれで合格」

「よしっ！ じゃあ今日はアイリと一緒に帰れるぞ！」

「いぇ〜い！！」

やっと１人で外に出れると喜んだのも束の間。サラの口からは……。

「あっ、今日は私と早めに帰ってお風呂にるんだよ！ それでしっかり休まなきゃ」

「えぇ〜……」

サラの過保護はいつ治るのだろうか。