《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》0-002.知らない部屋のルイージ
「あ~。カカミさん、そんなに張しなくていいよ。此の部屋にいれば大丈夫。ドラゴンあいつらはってこれないし、壊すことも出來ないから」
「これは一……」
「順番を追って話すから。こっち來て、まぁ座んなよ」
タガミは部屋の真ん中で胡座を掻いて座り、ヒロを手招きする。しだけ落ち著きを取り戻したヒロは、タガミの真向かいに座って胡座を掻いた。やっぱりこのおっさん、『ルイージ』に見えて仕方がない。
タガミがヒロの顔を伺っている。完全に落ち著くまで待っているようだった。ヒロはもう大丈夫だ、と言う代わりにタガミに問いかけた。
「さっきパラレルワールドって言ってたけど、それと関係あるのか?」
「あ~。やっと話を聞いてくれる気になったな。パラレルワールドの概念は分かる? その名の通り、自分達の世界とよく似た別の世界のことだけど……」
ヒロが頷いたのを確認してから、タガミは続けた。
「パラレルワールドは一つだけじゃない。ほぼ無數にある」
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タガミは先程の紙のように薄いタブレットを取り出して、ホログラムを映し出した。真四角の薄い板が縦にいくつもスリット上に並べた映像だ。
そのスリットを赤い點が突き抜ける形で移し、端までくると、反対側に折り返して、またスリットを突き抜けていく。赤點は並べられたスリットの端から端まで何度も往復する。赤い點がスリットを突き抜ける度に、その地點の周りがほんのり赤くった。
「この薄い板一枚が一つの世界。赤い點が神因子。神因子がスリットを抜ける度に周りが赤くなるのが質波。俺達は神因子がスリットを抜けるときに出來る質波で出來ていて……」
「ちょっと待ってくれ。田上さん、あんたが何を話しているのかさっぱり分からない。此処が何処で、あんたは誰で、それをまず教えてくれないか」
ヒロは困していた。世界がどうの、質がどうのという話が出てくるとは思わなかった。そんなことより、今自分が置かれている狀況が知りたかった。
「あ~。そうか、そうか、ついてこれないか。すまんな」
タガミは襟首に手をやって、またばつの悪い顔をした。
「カカミさん、まず此処は何処かなんだけど、簡単に言えば、汎宇宙の管理所だ。俺達は『枝』って呼んでる」
「管理所?」
「うん。パラレルワールドはな、一つの世界が枝分かれして出來たものだ。それは時間が経つ度にどんどん増えていくんだけど、枝分かれしたばかりの世界同士は、よく似ていて、違いなんてほとんど分からない。それくらいそっくりだ。だけど枝分かれしてから時間が経つとその世界同士の違いはどんどん大きくなる。だが、最初の枝分かれもな、いつもしの違いしかないとは限らなくて、何かの大きなイベントがあった時は、大きく違った枝分かれをしてしまうことがある。……そう例えば、大きな隕石が衝突するとか、大陸が沈沒したときとかな。大陸が沈沒した世界と、しなかった世界ではその後の歴史は全然違ってくるだろうくらいは分かるよな。その大きく枝分かれした枝にまた、しだけ違ったパラレルワールドがぶら下がっていくんだな。俺達はその大きな枝を見守って、監視している存在だ」
「……田上さん、要するにあんた神様なのか?」
手近なことを聞いた筈なのだが、タガミの話のスケールが大きすぎて、やっぱりついていけない。
「あ~。元神様といったほうがいいのかな。俺も昔はパラレルワールドの一つで神様みたいなものをやっていたんだけど、その世界でやることがなくなったと思ったら、もっと偉い神様に呼ばれて此処にきた。それだけ。別に俺は偉い訳でも何でもないな」
タガミは何の気負いも衒いもなく、當たり前のように自分を元・神様だと言った。どうも胡散臭い。
「その割には神様っぽくないね。神様ってのは、こう杖を持って白いぞろっとした服を來た爺さんじゃないのか」
ヒロはつい思ったことを口にしていた。タガミは不思議そうな顔でヒロを見つめる。
「あ~。神様っていったら、この格好が標準なんだがな。カカミさん、あんたの世界はどれだけ田舎なんだ?」
「田舎かどうかなんて知らないよ。それで、田上さん、その神様のあんたが何故俺をこんなところに連れてきたんだ?」
「ん? 連れて來てなんていないぞ。あんたの方から迷い込んだんじゃないのか」
どうも話が食い違う。ヒロは戸った。
「田上さん、相変わらず言ってることが分からない。あんたが連れてこないなら、何故、俺はこんなところに居るんだ?」
「あ~。パラレルワールドの住人はな。基本、その世界を抜け出す事は出來ないんだが、ごく稀れにパラレルワールドを抜け出しちまう『迷子』が居るんだよ。そいつらは、大概此処に來ることになってる。俺達はな、そんな『迷子』を元の世界に帰してやる仕事もしてるんだ」
「程。じゃあ、俺は何故だか分からないがその『迷子』とやらになって、此処に來た、そう言うんだな」
およそ信じられるような話ではなかったが、言っている容は筋が通っている。ここで信じる信じないで押し問答をしても仕方ない。ならば、その前提で話をしたほうがまだマシだ。ヒロは念を押した。
「と思ってる」
タガミはあっさりと答えた。
「なら、話は簡単だ。俺を元の世界に帰してくれ。迷子になった積もりも、そんな記憶もないが、さっきのドラゴンといい、ここが俺の知っている世界じゃなさそうなことだけは分かった。アンビリーバボーな験はもう十分、お腹一杯だ。とっとと元の世界に帰してくれ。神様なんだから簡単に出來るんだろう?」
ヒロは吐き捨てるように言った。もしこれが、どっきり企畫だったとしても、もうそんな事はどうでもいい。視聴者サンプルだろうが何だろうがいくらでもなってやる。そんな気持ちだった。
「そんな簡単な話ならいいんだけどな」
タガミは上を向いて一息ついた。その表はし曇っていた。
「どういうことだ?」
ヒロの問いかけにタガミはを乗り出した。
「カカミさん。當たり前の事だが、元の世界に帰すには、沢山のパラレルワールドの中で、どの世界の住人かが分からないといけない。でないと帰しようがない。それはいいよな?」
タガミの言葉にヒロが頷く。
「勿論、俺達はそのための名簿を持ってる。さっき、あんたの名前を聞いたのは、あんたがどの世界の住人かを検索するためだ」
「それで?」
「……あんたの名前は名簿にないんだよ。カカミさん、あんた一、どの世界から來たんだ?」
そんな馬鹿な。ヒロは思わずんでいた。
◇◇◇
それからヒロは有らん限りの言葉を盡くして、タガミに自分の世界の説明を試みた。文明、文化、社會、歴史さえも、およそ知っている事は全部話した。ヒロは説明しながら、自分がどのパラレルワールドから來たのかを判別してくれるものと期待した。
タガミはヒロの説明を黙ってふんふんと聞いていたが、ヒロが説明を終えると一言だけぽつりと言った。
「……こ・の・枝・じゃないな」
「どういうことだ? 田上さん、説明してくれ」
ヒロはタガミに食いつかんばかりに迫った。自分の世界の目安がついたのかどうなのか。知りたいのはその一點だ。
「あ~。カカミさん。この枝はな、大分昔に枝分かれしたパラレルワールド群なのさ。今からざっと一億年以上も昔だ。あんた、さっき外に出ようとして、ドラゴンを見たと思うけど、當時はな、恐竜もドラゴンも普通にいたんだ。他にももっとんな生きがいた。この枝はそんな生き達がずっと生き殘っている枝なんだ。あんたの話だと、あんたの世界には恐竜もドラゴンもいないようだ。だから、もしかしたらこの枝にぶら下がっているパラレルワールドの住人ではないんじゃないかと思ったんだ」
絶句するヒロを橫目に、タガミはポケットから攜帯電話のようなものを取り出して、誰かを呼び出した。
「カカミさん、ちょっと確かめてみようか」
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