《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》0-004.ロシアンルーレットで異世界へ
「上手くいく保証がないって?」
ヒロは噛みつかんばかりにタガミに迫った。
「あ~。カカミさん。最初に斷っておくけど、俺達は、此処で管轄しているパラレルワールドの全てを知っているわけじゃない。それでも、俺達が知る限り、ここで管轄している『八階の枝』にぶら下がっているパラレルワールドは、恐竜やドラゴン、その他沢山の怪が生き殘ってる世界がかなりある。勿論、人が住んでる世界もあるがそれだって、モンスター達と共存してる世界だ。中にはモンスターに人間が滅ぼされた世界だってある。もし、あんたが行った先が人のいないモンスターだけの世界だったら、そこで生きていくのは容易じゃない」
「なら、人が住んでる世界に送って呉れればいいじゃないか」
「簡単に言うなよ」
タガミは首を竦めた。
「こちらから、転移先のパラレルワールドを指定することはできない。送る対象の振數を使うからだ。これまでは元の世界に送り返すだけだったから、何の問題もなかった……」
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タガミはし間をおいてから続けた。
「カカミさん。あんたの振數は、この枝のパラレルワールドの振數とは掛け離れ過ぎてるんだ。あんたの振數を使って転移を掛けても、何が起こるか分からない。下手をしたら転移を掛けた途端に消滅するかもしれない。行った先の世界がどうこう言う以前の問題だ」
ヒロはを噛んだ。折角、僅かな希のが見えたと思ったら、それすらも保証できないなんて。ヒロはくそっ、と床を拳で毆りつけた。そんなヒロを心配気に見ていたメノウがある提案をした。
「あのぅ、タガミさん。エレベータを使ったらどうでしょう。あれには確か、振數共振機能オーバートーンがありましたから、無理に転移させるよりはよいかもです」
「そうか、あれか。でもまだくのか?」
「はい。大分使ってなかったですけど、メンテナンスはしてましたから、多分」
タガミはメノウの言葉に頷くと、ヒロに告げた。
「カカミさん。小さい可能に賭ける積りがあるなら方法がある。パラレルワールドに送り屆ける裝置エレベータがある。振數測定が出來なかった古い時代のものなんだが、乗った人の振數と共振するパラレルワールドに繋がる機能を持っている。昔はそれで『迷子』を帰したこともある。これを使えばいけるかもしれない」
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「本當か」
を乗り出したヒロに、メノウが付け加えた。
「固有振はその整數倍の振數と同期することが出來ます。振數が異なる世界よりは共振周波數を持つ世界のほうが安全な筈ですよ」
「それは、自で見つけてくれるのか?」
ヒロの言葉に、タガミが勿論、と首肯したが、注意を促すのを忘れなかった。
「あ~。カカミさん。まだ最初の問題は解決していない。見つけた先が、天國なのか地獄なのかは行ってみないと分からない。チャンスは一回きり。下手したら人が住んでいないモンスターだけの世界に繋がるかもしれない。それでも行くか?」
「……田上さん。なら確認させてくれ。此処から行けるパラレルワールドの中で、人が住んでる世界はどれくらいあるんだ?」
何処に繋がるか分からなくても、人の住むパラレルワールドに行けるかどうかは確率の問題だ。五分五分でも十分チャンスがあるとヒロは考えていた。だが、タガミの答えはそのヒロの期待を大きく裏切るものだった。
「さっきも言ったが、俺達は管轄しているパラレルワールドの殆どは知らないんだ。分かっているのは『迷子』がやってきた元の世界だけだ。だが『迷子』は人だけじゃないからな。これまで人の『迷子』の面倒をみたのは全の一割もなかったな……」
「一割?」
「そう、一割。だから、エレベータを使って、あんたの共振周波數を持つ世界が見つかったとしても、そこが人の住む世界とは限らない。それでもやるか?」
――ロシアンルーレット。ヒロは心の中で呟いた。
タガミの提案は、掻い摘んでいえば、ロシアンルーレットによる異世界転移と同じだ。ロシアンルーレットは、リボルバー式拳銃に一発だけ弾薬を裝填し、適當にシリンダーを回転させてから自分の頭に向け引き金を引くゲームだ。生き殘る確率、つまり実弾を引かない確率が五分の四、あるいは六分の五はある。しかし、こちらの異世界転移のロシアンルーレットは、生き殘る可能が十分の一以下になる。とても分の悪い賭けだ。だが、ヒロは自分に選択の余地はないことは分かっていた。
「……やろう。このまま此処にいてもどうにもならない。なら、しでも殘ってるチャンスに賭けるよ」
◇◇◇
ヒロは、元の世界ではない異世界に転移することに決めた。このまま此処にいても、生きていける見込みがないからだ。無論、転移先の異世界が、自分にとってましい世界でない可能もある。いや、この『ルイージ』のような格好をしたタガミがいうには、そちらの可能の方が高いらしい。しかし選択の余地がないことも事実だ。ヒロはしでも可能のある方に賭けた。
「カカミさん。私が案いたしますね」
メノウが扉を開ける。ヒロは、ドラゴンが居るのにどうするんだとちょっと引いていたが、メノウは平然としていた。メノウはヒロの顔をみて、その訳に気づいた。
「あ、ドラゴンなら大丈夫ですよ。もう居ませんから」
ヒロが恐る恐る覗くと、確かにドラゴンの姿は見えない。
「ではこちらへ」
メノウが先に立って、ヒロを扉の外へ案した。
メノウの後について外に出たヒロは、辺りを見渡した。薄暗い通路だ。ヒロは壁をろうとしたが、思い止まる。迂闊な真似をして、ドラゴンがやって來たら事・だ。
「メノウさん。一此処は何処なんだ? 君達はパラレルワールドの管理をしているそうだけど、ここもどこかのパラレルワールドの一つなのか?」
「いえ。ちょっと違います。次元が違いますので。此処は、管轄しているパラレルワールド全てと繋がることができますけど、固定した場所はないんです。『迷子』が現れたら、そこに移するだけで……」
やっぱり理解できない。深く考えても仕方ない。ヒロはし話題を変えた。
「そういえば、さっきの田上さん、元・神様だと言ってたけど、もしかして君も神様をやってたのかい?」
「はい。ローカルな世界でしたけど、神の真似事をしてましたです。これでも結構人々から崇拝されていたんですよ」
メノウは屈託無く答えた。さっきのタガミといい、神様ってのはこんなに気さくなものなのか。ヒロの神に対するイメージがし変わった気がした。
「でも、タガミさんは沢山の世界で神様やってましたから、私なんかよりも全然凄い人なんですよ」
「もしかして、タガミってのは沢山の世界で神様やってたという意味なのか? 田上じゃなくて多・神・?」
「そうですよ」
――グガアァァァァ。
突然、耳をつんざくび聲が響いた。聲がした方をみると、頭に角をつけ牙を生やした怪が遠目に見えた。魔としか表現しようのない異形の怪だった。びくっとを強ばらせるヒロにメノウは安心するように言った。
「カカミさん。大丈夫ですよ。私が結界を張っていますから、彼らは近づくことはできてもることはできません」
「そ、そうか」
ヒロは気を取り直して、メノウに続く。やがて、二人は目指す場所についた。
「これが『エレベータ』です。これで、カカミさんを異世界に送り屆けます」
それは、どうみても、そこらのデパートにあるようなエレベータだった。オレンジの扉が襖のように両端に引くタイプだ。未來的なじは一切しない。ヒロはこんなので、と思ったが、今はそんな詮索をしている時ではない。
「これに乗ればいいのか?」
「はい」
メノウは『エレベータ』脇のボタンを押して、扉を開ける。ヒロはメノウのどうぞという案に従って、乗り込んだ。
『エレベータ』の中は意外と広かった。デパートのエレベータの四つ分くらいは軽くある。ヒロは此の後どうすればいいのか分からず、所在なげにきょろきょろした。
「カカミさん、扉の正面右にボタンがあると思うんですけど、見えますか?」
メノウが扉の外からヒロに聲を掛けた。ヒロが見ると、普通のエレベータで階を指定する位置にボタンが並んでいた。だが、そのボタンは指一つがやっとるくらいの、酷く小さなサイズだ。その代わり、數が恐ろしく多かった。橫に三十、縦に百は優に超えている。ざっと計算しても三千以上はある。
それらのボタンには文字や數字の類のものは何もついていなかったが、青く點燈しているものと點燈していないものがある。ただ、點燈しているボタンはほんの數える程で二十個程しかない。
「ああ、あるけど、これは何だい」
「三千世界パラレルワールドの行き先選択ボタンです。青いランプが點いてるボタンはありますか?」
メノウが確認する。ヒロは直ぐに答えた。
「あぁ、あるよ。二十個くらいしかないが」
「よかった。ランプがついているのは、カカミさんの振數と同期が取れてる世界です。その中から選んでいただければよいかもです」
「……ふむ」
ヒロはランプがついているボタンの數を數えてみた。二十一個あった。この中から選ぶのか。タガミは、人が住む世界は一割もないといっていた。それからすると、この二十一個のボタンで行ける世界の中で、人が居る世界は一つか二つしかない計算になる。果たして自分は當たりを引けるのだろうか。ヒロは張のあまり、自分の乾いたを舐めた。
と、ヒロは二十一個の點燈しているボタンのり方が微妙に違っていることに気づいた。いくつかは強く輝き、いくつかはぼんやりとっている。
「メノウさん、ボタンが強くってるものと、そうでないものがあるんだが、これは何だい?」
「は、はい、それは、同期の強度です。カカミさんの振數にぴったり同期しているものほど強くります。ですから、強くるボタンほど危険がなくなりますよ」
「……でも、強くっているからといって、人の世界に行けるとは限らないんだよな?」
「……はい。申し訳ありません。そこまでの機能はないんです。私達も全部の世界は知らないですし。あとはカカミさんで判斷頂くしかありません」
メノウは申し訳なさそうに言った。眉をし寄せて、人差し指をピンと立て、下にそっと當てる。その仕草は、ヒロの別れた彼にそっくりだった。別れる時あのときもあんな表かおしてたっけ。ヒロは彼アヤが別れ話を切り出した時の事を思い出していた。
――綾あいつが居てくれたらな。
ヒロは天を仰いで元カノの名を呟いた。生死が掛かる重大な選択だ。もし、彼あやが傍に居てくれたらどんなに心強かったろうか。彼なら、自分が選ぶべきボタンはこれだと導いてくれただろうか。ヒロはその思いを振り払うかのように頭かぶりを振った。
ヒロは、一つ深呼吸をして、青くるボタン群を目に焼き付けた。
――!
「メノウさん。ちょっと」
ヒロは突然、エレベータの外で待っているメノウを呼んだ。
「どうかしましたか? カカミさん」
何か事故でも起きたのかといわんばかりの顔をしてメノウが駆け寄ってきた。ヒロは手招きをして、メノウを待っていた。
メノウがエレベータの中を覗きこんだ瞬間、ヒロはメノウの手を摑んで、彼をぐいとエレベータの中に引っ張り寄せた。
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