《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》1-011.これでは如何でしょうか
ヒロはリムに自分の事を部分的に話した。全部話したところで、理解して貰えないだろうと思ったからだ。自分は遠い異國の地から來たことにした。この世界に不案であること。この世界を知りたいこと。できれば、生きていける算段をひとまずつけたいことなどだ。
「じゃあ、私達似た者同士ですね。――もぐもぐ」
リムは最後の団子キビエを食べながら、あっさりとヒロの言をけれた。見た目や振舞いはいのだが、言う事は妙に大人びている。ヒロはリムに不思議なギャップを覚えた。
「さて、どうするかな」
互いの事を一通り話し終えた後、ヒロは立ち上がった。ここからの出する方法をなんとか考えなくてはいけない。改めての周りの石壁を確認する。僅かな出っ張りを探して足を掛ける。だがし重をかけただけで、出っ張りは割れて崩れてしまう。やはり壁をよじ登るのは無理だ。
「駄目か……」
ヒロが頭上を見上げていると、後ろからリムが聲を掛けた。
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「何かお手伝いできることありますか?」
「ふむ。そうだ。リム、君は霊なんだろう。霊の何か凄い力でここから出することはできないのか。羽が生えて空を飛べるとか、地面を盛り上げて地上に出すとか」
「そんなこと出來るのなら、とっくにやってますよぉ」
それもそうだ。余りにも常識的な答えにヒロはしがっかりした。霊というだけで普通の人間と変わらないじゃないか。いや、念話テレパシー能力はあるのか、と思い直して苦笑する。そんなヒロをリムは不思議そうに眺めている。
「……それもそうだね。じゃあ、リムの念話テレパシーで他の助けを呼ぶというのはどうだろう。さっき念話テレパシーを聞ける人は滅多にいないといってたけど、実際どれくらいなんだい?」
「えっと、詳しくは分からないですけど、千人に一人か、一萬人に一人くらいです。多分……」
リムはまた、下顎に人差し指を當てて天を仰いだ。
そんなにないのか。この世界の事は分からないが、こんな山の中で煩雑に人が行き來するとも思えない。ましてや、千人も人が通るには何日かかるやら想像もつかない。事実上、助けを呼んでも來てくれることはないと言っていいだろう。
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「じゃあそれも無理そうだね」
「すみません……」
「……大丈夫、なんとかなるよ」
ヒロはシュンとなるリムの頭をでた。別に當てがあるわけではなかったが、空元気でも無いよりはマシだ。
そういえば、とヒロはさっきまでリムが隠れていた橫を思い出した。取りあえず調べられるものは調べておこう。出の手掛かりが何かあるかもしれない。
「リム、君が隠れていた橫はこれだよね」
指さすヒロにリムは無言で頷いた。
「ちょっと調べてみようか」
橫は高さも幅も一メートル程で、橫になれば大人でも十分れる大きさだ。ヒロはナップサックを背負ってから、うつ伏せになり匍匐前進で、橫にをれた。
「暗くて良く見えないな」
そう呟きながら、手で回りの壁を探る。ヒロは手のから、側の壁は、先程と同じ脆い材質の石壁で囲われていると判斷した。
「の霊ヴァーロよ、大地母神リーファの名に於いて命ず。集いなさい……」
後ろからリムの聲が聞こえたかと思うと、ヒロの周りが急に明るくなった。ゴルフボール大の白いの球たまがいくつも浮かんでいる。
「これで見えますかぁ」
ヒロが窮屈そうにを捻って橫のり口を見ると、両膝を揃えてしゃがみ込んだリムがこっちを覗き込んでいる。
「ありがとう。ばっちり見えるよ」
ヒロは禮をいうと、更に奧に進む。二メートル程進んだところで、行き止まりになった。の奧も石壁で覆われている。ただ周囲の石壁と違うのは、一枚の石で出來ていることだ。ってみる。表面は完璧に平坦で、ツルツルと磨き上げられていた。明らかに人工だ。
ヒロはドアをノックするかのようにコンコンと壁を叩いた。そのはこれまでの石壁とは全く違ってく、重いものだった。まるで大理石だ。
(――ここだけ違う)
ヒロはその場でし考えた。どう見てもこの石は意図的に置かれているようにしか見えなかった。
(もしかしたら……)
ヒロは、石の周囲を注意深く探った。ざらざらとした橫の壁との接面に僅かな隙間があるのを見つけた。何とかズラせないかと指を掛けてみたが、指先のほんの數ミリくらいしからない。とても無理だ。
ヒロは手元に落ちていた、石壁から崩れたであろう石の欠片を拾って隙間に突っ込んでみる。上手く隙間にった。更に奧まで押しこもうと力をれる。だがその途端に、欠片はパキンと中程から割れてしまった。
続けてヒロは、背負っていたナップサックからボールペンを取り出して同じことを試みた。だが所詮はプラスチックだ。どんなに押しても芯がしるくらいで、とてもきそうにない。ボールペンのボディがミシミシと嫌な音を立てる。このまま無理にやっても折れるのが関の山だ。
ヒロは、チッと舌打ちをして一旦橫から這いずり出ると、周囲の地面を丁寧に探り始めた。あの隙間に差し込んで押し広げても割れないくらいの強度を持ったい何かがないかと探した。だが、期待も虛しく、それらしきものが見つかりそうな気配は微塵もない。
「あのぅ、何をしているのですか?」
リムが不安そうに訊ねる。
「うん。何かくて尖ったものがないか探しているんだ」
振り向きもせずヒロが答える。
「これでは如何でしょうか?」
ヒロの前にやってきたリムが両手を広げた。彼の可らしい小さな手の中に、五寸釘のような金屬片があった。だが釘にしては太さが均一ではない。の部分も丸くなくて所々四角い所があったり酷く不格好だ。但し先端部は削り取ったような鋭角をしている。
「リム。何処でこれを?」
「そこに落ちていた石の欠片を錬変化させて金屬にしただけですけど」
リムは、出過ぎた真似をしているとでも思ったのか、し肩を竦めてビクビクしている。リムによると、霊の力で鉱の組を変化させ、石を金屬に変えることができるらしい。
「こりゃあ凄い。いけるかもしれない」
そういって、ヒロは再び橫にった。先程リムが魔法で作った白い球が出迎えてくれる。ヒロは一目散に奧に向かうと、突き當たりの大・理・石・の橫の隙間に金屬片を差し込んだ。上手く刺さった。ぐいと押す。先端部が隙間にゆっくりと食い込んでいく。ヒロは落ちていた小石を、差し込んだ金屬片のの部分と橫の石壁の間に挾んだ。梃子の要領で指し込んだ側の反対側の端を圧す。ギリギリと小石が軋み、それに合わせて、奧の壁がしずつ橫にズレていく。
リムが石を錬して作ったという金屬片は驚く程頑丈で、渾の力を込めているにも関わらず曲るどころか撓たわみさえしない。挾んだ小石がパキンと鳴って、皹ひびが走ったころ、丁度指がるだけの隙間ができた。
(よし!)
ヒロは出來た隙間に指をれて引っ張った。重い。石はほんのしだけジリッといた。やはり固定されてはいない。ヒロは橫の中で用に勢をれ替える。隙間のある方の橫壁に足を掛け、前屈の姿勢を取って、石壁と大・理・石・の隙間に両手の指をれた。
――ふぅ。
ヒロは一度深呼吸をしてから、オールを漕ぐように一気に全を使って大・理・石・を引く。石はガリガリという音を響かせ、奧の壁はようやくその口を開けた。
ヒロが開いた口を覗きこむより早く、白球はまるで意志でも持っているかのように、奧に踴り込んだ。ヒロが覗いたときには、珠が中の様子を余すところなく照らしていた。見たところ誰もいないようだ。
ヒロは向きを変えて、橫から這い出ると、ずっと見守ってくれていたリムにサムズアップして見せる。
「抜けだ。地上そとに出られるかもしれない」
ヒロの言葉にリムは顔を輝かせた。
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