《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》2-019.スキルと則事項
――蓮の月が中天にさしかかった真夜中。
ヒロはアルバに禮をいって、屋裏の寢床に向かった。眠りこけたリムを抱っこして部屋にる。屋裏は意外と広く、六、七人は寢れそうだ。アルバは十五人くらいは余裕だぜ、と言っていたが、流石に壽司詰めにしないとそれは無理だ。
堅い床にはベットの類は無かったが、薄っぺらい布が隅に積まれている。一度、リムを床に下ろして布を取る。大分くたびれてはいるが、マメに洗濯をしているのだろう。変な臭いはしない。商売柄なのかアルバが見かけに寄らず幾帳面なのか。そんなことを考えながらヒロは、布を三枚重ねにして床に敷き、リムをその上に寢かせ、お腹の辺りまで更に一枚布を掛ける。ヒロは、自分も同じように布を引き、床についた。
一つしかない木枠の窓から、蓮の月のが差し込んでくる。ヒロは先程シャロームから得た王國正金貨を一枚取り出して、しげしげと眺めた。
金貨は星の紋様で縁取りされ、真ん中には、二本足で立ち前足を上げたライオンの絵柄が描かれている。たてがみの質といい、細かさといい、中々巧にできている。ヒロは、月明かりにかした金貨の角度をし傾けた。流石に五百円玉のような潛像は浮かび上がらないが、模様の凹凸がはっきりと分かる。もう一枚取り出して見比べる。二枚の金貨の大きさは勿論のこと、模様もピタリと同じだ。この世界にもそれなりの鋳造技があることは明らかだ。
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ヒロは何かを思い出したのか、リムの皮袋を引き寄せて、八千年前の古金貨を取り出した。王國の金貨と比べる。リムが持っていたレーベン金貨は、大きさこそ王國正金貨より一回り小さかったが、重さの方はずっとあった。金の含有量が違うのだろうか。シャロームがレーベン金貨一枚につき王國正金貨六枚といったのも、妥當な換レートのように思えてきた。五枚でいいといったのはちょっと失敗だったかもしれない。
金貨を見つめていたヒロは、なぜリムがこんな貴重な金貨を大量に持っていたのかと不思議に思った。リムもこの辺りは詳しくないと言っていたが、一、どこの國から來たのだろう。あるいは霊だから決まった國はないのかもしれないが、貨幣を持っているということは、人間社會と何らかの繋がりがあるということだ。
モンスターでも討伐して寶箱をゲットしたのか。それとも何処かから盜んだのか。しかし、どうみても小學生にしか見えないリムの外見からは、モンスターを撃退する姿も、盜みを働く姿も想像できない。時折見せる霊の力を目の當たりにしなければ、そうだと言われても信じられなかっただろう。
――不思議な子だ。
ヒロは指先で摘んだリムの金貨をくるくると回しながら、リムとの巡り合わせを思い出していた。よくよく考えてみれば、今日會ったばかりなのだ。なのに、もう何年も一緒に旅をしているような気がする。それに気づいたヒロは自分で自分に驚いていた。
突然、ヒロはあることに思い至った。リムが金貨を持っている理由だ。
――錬変化。
晝間の落としから出するとき、リムは金屬棒を出した。石を錬変化させて金屬にしたと言っていた。ポケットに手をつっこんで金屬棒を探って取り出す。五寸釘にも見える金屬棒は、鈍い銀の輝きを放っていた。
(まさか、どこかの石ころか何かを錬変化させて、金貨を作ったのか?)
ヒロはリムが石から金屬を作り出すところを直じかに見た訳ではない。しかし、リムの力なら出來てしまうのではないかと思えた。手にした金屬棒の重みがその仮説に真実味を與えていた。これがもし本當であれば、錬金という他ない。リムさえいれば、お金の心配は要らなくなるのだ。
「そんな訳ないじゃないですか」
「え?」
ヒロが聲のした方をみると、上半を起こしたリムが眠い目をっている。
「いつから起きていたんだ?」
「今です。ヒロ様の心の聲テレパシーで起こされました」
聞かれていたのか。どうやら一つの事に思考を集中すると、リムに伝わってしまうらしい。念話テレパシーは便利でもあるが不便でもあるな、との思いが頭を掠めた。いや、今は錬変化のことだ。
「そんな訳ないって?」
「錬変化はただ組を変化させるだけで、形や大きさまで変えられるものではないんです。あの金貨はさっき戴いた金貨と模様も大きさも違う筈です。そもそも、あんな複雑な模様をした石ころがあるとお思いですか?」
「……る程、あるわけないな」
「ですです」
リムの返答にヒロはふとした疑問をぶつけた。
「じゃあ、たとえば、割ったり削ったりして、後で形を変えたは、錬変化出來ないのか?」
「あ、いいえ。錬変化だけなら加工していても、していなくても関係ありません。私が見た時にどんな形になっているかですから。る必要もありません」
「そうか、なら一手間かければ出來るということじゃないか」
だが、そのヒロの素・敵・な思いつきを、リムは即座に否定した。
「でも、錬変化させたものは未來永劫そのままという訳ではないんです。霊が宿っている間だけなんですから。しばらくすれば元に戻ります」
「暫しばらくって、どれくらいなんだ?」
「ん~~。例外はありますけど、早くて七日。長くても半年くらいです」
「じゃあ、この金屬棒は?」
ヒロは、『五寸釘』をリムに見せた。
「はい。そのうち元の石に戻ります」
「その時間はばせないのか? さっき例外もあるって」
「えと、霊と特別な契約を結べば……、でもそんなの大地母神リーファ様くらいしかできませんよ」
この世界の神様でないと無理なのか。やはり世の中そんなに甘い話は転がっていない。お金がなくなったら、片っ端から石を金に変えてしまえばいいというのは夢語だったようだ。
「あ、ヒロ様、駄目ですよ。金にした石が元に戻る前に何かと換してしまう、というのは。悪い事のお手伝いはできませんから。魂を汚す行為は許されていません」
リムはヒロに釘を刺した。
「そうか。悪かった。そんなことはしないよ」
ヒロはリムに約束したあと、おもむろに口を開いた。
「ところでリム。君にこんな事を聞くのは失禮に當たるのかもしれないが……」
ヒロは、し躊躇ためらいながらも、レーベン金貨がったリムの皮袋を持って、一番気になる事を訊ねた。
「何故、君がこんな何千年も前の金貨を何枚も持っているんだ?」
「それは、皆さんのおさい……、あ、いえ、あの、則事項です。お答えできません。でっ、でも、決して盜んだりしたものではないんです。ほんとです」
リムは懇願するかのような表をヒロに向けた。
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