《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》2-020.こいつは餞別だ

――翌朝。快晴。

「ここを真っ直ぐ四半日も歩くと三叉路にでる。そこを一番右だ」

ヒロとリムはウオバルの街へと旅立つ前に、アルバから道中の説明をけていた。アルバが布の切れ端にチョークの様なもので図解している。

「三叉路を曲がったら、あとは一本道だ、そこからウオバルまで普通に歩いて、また四半日の行程だ。頑張れば此処からでも一日でいけなくもないが、それには夜中のに出なくちゃいけねぇ。もう無理だな。途中で一泊していけ」

ウオバルは城塞都市だ。この辺りを領地とする、ウォーデン卿の居城がある。ウオバルは王國の中でも學問が盛んなことで有名で、剣や魔法を學ぶことができる大學もあるそうだ。

アルバによると城塞都市の周辺の街道には、ここアラニスのような村や街が都市を取り囲むように點在しているらしい。城塞都市といえば、外壁の中に住居があり、その外には何もないように思われがちだが、現実はそうではない。周辺の村の人々は農耕や牧畜をして生計を立て、次男坊や三男坊は都市に出るのだそうだ。要するに口減らしだ。ウオバルなら、ヒロがとりあえずの仕事を見つけられる可能があるとアルバはいう。

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「泊まれるところはあるのかい?」

「三叉路の手前にエマってえ街がある。アラニスここよりは開ひらけたところだ。道屋なんかもある。そこで必要なもんを揃えればいい」

「手持ちの金貨で足りるかな?」

「正金貨がたんまりあるんだろう? 贅沢言わなきゃ十分だ。そうだ、渡して置かなくちゃな」

アルバはそう言って、思い出したように皮袋を取り出し、中をカウンターに開けた。銀貨數枚と沢山の銅貨がじゃらじゃらと音を立てた。

「昨日の酒代と宿代の釣りだ。シル銀貨五ヘイス枚にパム銅貨三十ラーメ枚。道の説明料は負けといてやる」

ヒロは宿代として王國正金貨一枚を出したのだが、あれだけ飲んで、二人で泊まって、尚、これだけのお釣りがくるとは。ヒロは金貨の価値を思い知らされた。

「リム。釣りをし使いたいんだが、構わないか?」

「はい。どうぞ」

リムの承諾を得ると、ヒロは、目の前の貨の山の中から銀貨をかき分けて人差し指を乗せ、アルバの目の前にスライドさせた。

「道中、何か飲みを持って行きたい。水はないか?」

「はぁ。水だぁ。腹ぁ壊すだけだぞ。悪い事は言わねぇ。止めとけ。……そうだな、その代わり」

アルバはしゃがみ込んで、カウンターの裏をしばらく探った。やがて、土で焼いた一本の水筒を取り出す。

「これにとびっきりの葡萄酒をれといてやる。水はすぐ腐るが、葡萄酒なら、そんな心配は要らねぇ。旨い酒だからって、調子に乗って飲み過ぎんなよ」

「分かった分かった。じゃあその『とびっきり』という奴を頼むよ」

アルバは任せとけ、といってカウンター奧にある焦茶の樽から葡萄酒を水筒に詰め始めた。

ヒロは、カウンターに殘った銀貨と銅貨を王國正金貨のった皮袋に仕舞うと、リムに返そうと手をばした。が、リムはそっとヒロの手を押し戻した。

「ヒロ様が持っていてください。私が持っているより安全ですし、必要な分は自由に使って下さい」

「それは、できないよ」

「無駄遣いする方でないことは今ので分かりましたから。これから一緒に旅をするんでしょ。遠慮は無用です」

ヒロは屈託なく笑うリムに、有難うというと、アルバに別れの挨拶をした。

「じゃ、そろそろ行くよ。アルバ」

「道中気をつけろよ。ヒロ、リム。また近くに來たときにはうちに寄ってってくれ」

「ありがとう。そうするよ」

水筒を片手に戻ってきたアルバは、水筒の口をコルク栓で蓋をしていたが、突然、思案顔で目線を上にやった。

「ヒロ、ウオバルまでは、モンスターに出食わすことはねぇと思うが……」

「なんだい?」

「エマで泊まるときは場所を選べ。俺みたいに優しい奴ばかりじゃねぇからよ」

「どういうことだい?」

「引っ手繰りには注意しろってことさ。エマはそこそこ人も金も集まる街だ。ぼんやりしてるとやられちまうぜ」

「……そんなに危ないのか?」

「だから場所を選べって言ったろ。ちゃんとした宿ならまだ大丈夫だがよ。特に賭場には喧嘩っぱやいのが多いからな。行かないに越したことはねぇ」

「ギャンブルなんてやる積もりはないよ」

「それならいいけどよ。ほら『とびっきり』だ」

アルバが葡萄酒の詰まった土瓶をヒロに渡す。ヒロは土瓶をナップサックにれると、土瓶の首に巻き付けてある麻紐をナップサックのベルトにくくりつけた。

「あと、こいつは餞別だ。持ってけ」

アルバはパンを二本、ヒロに渡した。

「ありがとう。世話になったね。アルバ。じゃまた」

「店主アルバさん、お世話様でした」

ヒロがパンをナップサックにしまう。その橫でリムが両手でアルバに握手を求めた。

「おう。嬢ちゃん。ヒロあいつから離れんなよ」

アルバも応じて、カラカラと笑う。その大音聲にリムは出した両手を引っ込めて自分の可らしい耳を塞いだ。その景にアルバがまた笑う。

(エマの街には、アルバのような男がいるだろうか)

ヒロはしの不安としの期待をに、アルバの店を後にした。

 

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