《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》3-027.カダッタの道

――ゴンゴン。

部屋の扉をノックする音が響く。目が覚めたヒロはゆっくりと起き上がった。窓から朝日が差し込んでいる。隣のベッドでは、まだリムが橫向きの姿勢で、すやすやと寢ている。

「あたいだ。起きてるか」

扉越しにソラリスの聲がする。扉を開けるとソラリスの巨がヒロを見下ろしていた。

「今、起きたとこだよ」

ヒロがソラリスを部屋に招きれる。ソラリスは部屋の奧へと進んだ。ヒロが目線で促したのを確認して、ソラリスは昨日の夜と同じテーブルの椅子にどっかと座る。

「寢れたか? ヒロ」

蔭様で」

ヒロとソラリスの會話が聞こえたのかどうかは分からないが、むくりとリムが起き上がり寢ぼけ眼をっている。

「あ、ヒロ様、ソラリス様、おはようございます」

「こっちは、沢山寢たようだね。お・姉・ち・ゃ・ん・」

ソラリスが茶化す。

「リム。早速出発するが大丈夫か?」

「は、はいぃ」

まだ半分寢ぼけたリムはむにゃむにゃとベッドを下りて、コートハンガーに掛けたローブを羽織る。

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「ヒロ、昨日も話したとおり、お前の服と最低限の裝備を此の街ここで揃えておく。いいよな?」

「勿論だ」

ヒロも立ち上がり、ナップサックを手にする。

「じゃあ、行こうか」

ヒロ、リム、ソラリスの三人は、揃って宿を後にした。

◇◇◇

ヒロとリムはソラリスに先導され、エマの街のメインストリートに出る。建の中の店以外にも道の両脇には様々な天商が立ち並び、活気を見せている。野菜や果を売る店が目立っているのはきっと朝市だからなのだろう、とヒロは勝手に憶測した。

ソラリスはそんな天商に目もくれず、ドンドン先を進む。歩幅が広いため、多速足にしないとついていけない。リムに至っては、時折小走りまでしている。

店で詰め盡くされた大通りを抜けて、ソラリスは脇道にる。続いたヒロとリムが見たのは、古惚けた木の看板をぶら下げた店だった。

「ここだよ。ヒロ」

ソラリスは左腕を上げて肘を九十度に折る。手の甲を見せて親指で店を指した。店の看板は黒ずんでいて、何が書かれているか判読できなかったが、店先に服やフライパンなどの生活用が吊るされている。道屋だ。

「カダッタのおっちゃん、いるか?」

ソラリスが店の奧に聲を掛ける。

「お、その聲は……」

奧から出てきたのは、筋骨隆々の大男だった。

――デカい。大男という表現ではまだ足りない。背丈はソラリスよりさらに頭ひとつ大きい。二メートルは余裕で超えている。年齢は五十歳くらいだろうか。肩の筋が異常に発達し、瘤のように盛り上がっている。やや赤みがかった髪をオールバックにして、後ろで束ねていた。良く日焼けした顔が健康的に笑う。

「おぉ、やっぱり嬢ちゃんか。久しぶりだぁな」

満面に笑みを浮かべた大男は、がばっとソラリスをハグした。

「その言い方はやめろ。カダッタ」

ソラリスが大男を引き剝がす。大男はししょげた顔をしたが、ヒロ達に気づくとソラリスに尋ねる。

「こちらさんは?」

「客だ。ひょんなことで知り合った。遠い異國から來たらしく、こっちのことはあまり知らんらしい。恰好もヘンチクリンなので、一通り揃えたいんだ。適當に見繕ってくんねぇかな」

大男は、そうでしたかと破顔し、ヒロに近づき手を差しべた。

「カダッタの道屋にようこそ、お客さん」

ヒロも手を出して握手したが、大男に圧倒され、彼の顔をぽかんと見ていた。

「おや、お客さん。巨人族を見るのは初めてですかな」

「あ、あぁ」

やっと聲が出た。リムのような霊がいるのなら、巨人がいてもおかしくない。此処は異世界だ。ヒロは我に帰った。

「このおっちゃんは、カダッタといってな。あたいの知り合いだ。ちょっとしたものなら、ここで全部揃うし、価格も良心的だ。あたいの贔屓だ」

ソラリスがヒロに説明した後、カダッタに注文する。

「カダッタ。こいつの名はヒロ。これから一緒にウオバルまで行くんだ、他所者よそもんと思われない程度の服はないかい?」

「なるほど」

カダッタは、親指と人差し指をピンとばした拳を作って、自分の顎にあて、ヒロを上から下までじろりとみる。

「一著、使えそうなのがありますな」

カダッタは店の奧にっていき、直ぐに一著の服を手に戻ってきた。服を広げてヒロの肩に當てる。カダッタが用意した服は、襟の無い前ボタンが三つついた白いチュニックと黒のズボンだ。腰を幅広の黒ベルトで絞るようになっている。

「多大き目ですが、いけそうですな。どうですか」

「ありがとう。大丈夫。これでいい」

著心地を確かめたヒロは即決した。カダッタは靴も替えたほうがいい、といって、いくつかのブーツを用意した。いずれもなめし皮の仕立てで、踝くるぶしの辺りで裾シャフトが折り返されている。

ヒロはいくつか履いてみて、一番ぴったりするものに決めた。革紐で足の外側を絞り上げていき、裾シャフトの折り返しで結ぶタイプだ。

「ま、そんなもんか」

ソラリスはヒロの恰好を前と後ろからじろじろと點検したのだが、発した言葉はそれだけだった。ヒロが今まで來ていた、サラリーマンスーツの上下と革靴はカダッタに引き取って貰うことにした。代金は、引き取り価格で大分相殺されたのか、銀貨二枚で事足りた。尤も、ソラリスに言わせれば、防や剣を揃えるとなると目の玉が飛び出る程値が張るのだそうだ。

ヒロの服を引き取ったカダッタは珍しい生地だと喜び、ヒロが剣の類を一切持っていないことを知ると、小振りのサバイバルナイフとホルスターをサービスだと言って付けてくれた。

――気持ちのいい人だ。

ナイフを収めたホルスターを腰のベルトに付けたヒロは、ようやくこの世界の住人になったような気がした。

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