《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》5-038.今日はどういったご用件でしょうか

「こんにちは。今日はどういったご用件でしょうか?」

冒険者ギルドの付嬢が挨拶をする。付嬢は、年の頃十七、八歳。若干青みがかった見事な銀髪をボブっぽいショートカットにしている。大きな目が人懐っこく、誰にも不快を與えない。小さな脣には紅の類は一切なく、頬を含めてほぼスッピンだ。けれども、その白い理キメは細かく、しっとりとした潤いがある。分より可らしい分の方が倍くらいあるように見える。この娘を目當てに、用もないのに通う男もなからずいるだろうとヒロは思った。

「ラルル、さっきも話したとおり、ヒロこいつの冒険者登録をしたい。あと、魔法力の測定も頼む」

「承りました。まずはお名前を」

ソラリスがラルルと呼んだ付嬢はカウンターの下から、葉書大の板を取り出して、鉄筆を手にする。

「ヒロ、カカミ・ヒロだ」

ラルルにヒロはフルネームで答えた。フルネームにしたのは、登録だからというだけで、特に深い意味はない。

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「はい。ファーストネームは、カカミでよろしいですか?」

「いや。済まない逆だ。ヒロがファーストネームだ。俺の國ではファーストネームが後ろにくるんだ」

「承りました。ヒロ様ですね。今はどちらにお住まいでいらっしゃいますか?」

ラルルは鉄筆で板を引っ掻いていた。板の表面には薄い蝋のようなものが塗ってある。い鉄筆が文字の形に蝋を削っていく。どうやら紙の代わりに使っているようだ。

「まだ、こちらに來たばかりでね、宿を取っているんだ」

「ヒロは遠い異國から來たんだ。ここを拠點にしたいんだとよ」

ヒロの答えにソラリスが補足する。ラルルはにっこり微笑んだ。

「左様で座いましたか。冒険者として登録でよろしいですか?」

「うん。よろしく頼む」

登録職種は何になさいますか? 魔法力測定ということは魔法使いで宜しいですかね?」

ラルルは人懐っこい笑顔を見せる。こんな顔で尋ねられたら何でも喋ってしまいそうだ。

「正直、よく分からないんだ。因みに職種には何があって、それぞれ條件とかあるのかい?」

「はい。登録職種は、剣士、魔法使い、神、盜賊、狩人、フリーと座います。クエストを斡旋するときの參考にさせていただいているだけで、どの職種でも特に條件は座いません」

「フリーってのは何だい?」

「はい。まだ職種が決まってない方のための暫定職種です。ただし、フリー以外の職種には斡旋できる専門的なクエストは紹介できなくなりますが」

「そうか。フリーでお願いできるかな?」

ヒロは魔法使いは選ばなかった。リムに気を使ったというものあるが、魔法を使える訳でもないのに魔法使いを職種とするのは気がひけた。

「魔法使いにはしないのかい?」

ソラリスが怪訝な顔を見せる。ヒロは當然に魔法使いを選ぶと思っていたようだ。

「いや、今の俺にはフリーで丁度いい。お願いするよ」

ヒロはソラリスに目線を送ってから、ラルルに申請した。

「かしこまりました。印章をお持ちですか?」

「いや。持ってない」

「はい。では……」

ラルルはカウンターの下から、小さな木片と、刃が付いた丸い棒を取り出した。刃はV字型をしており、彫刻刀によく似ていた。

「こちらの木片に、署名サインを刻んでくださいますか。ヒロ様の國の言葉で構いません」

何をするのだろうと多疑問に思ったものの、ヒロは言われたとおりにする。々時間が掛かったが、カタカナで『ヒロ』と刻んだ。

「ありがとうございます」

ラルルはそういって、け取った木片の刻んだ面を、先程、自分が鉄筆で書き込んだ蝋板ワックス・タブレットの下半分に殘っているまだ書いてないツルツルの蝋面に押し當てた。板にヒロと刻んだ文字が反転して映った。印章か何かの代わりにするようだ。

次にラルルはカウンターを立って、ヒロ達のいるフロアに出ると、付橫の壁を覗いた。その壁は一面を掲示板か何かに使っているのか、先程メモに使った板と同じように、表面を蝋でコーティングされた三十センチ四方くらいの板がきちんと並べられて掛かっていた。それぞれの板は一枚ごとに取り外せるようになっており、板には何やら文字が書かれている。ラルルはそれらの板と一枚一枚丹念に見ていたが、やがて落膽した顔で戻ってきた。

「ヒロ様。大変申し訳有りません。冒険者ギルドへの登録なのですが、本日は仮登録とさせて頂きます。その後、簡単なクエストを行って頂くことになっておりますが、そのクエストの完了を以て、正式に冒険者ギルドに登録させていただきます」

「クエスト?」

ヒロの言葉にラルルが軽く頷いて見せた。

「はい。このクエストは『承認クエスト』と申しまして、分証明と冒険者としての最低限の資格を有しているかを確認するためのものでして、新たに冒険者を希された方には全員行っていただいております」

ラルルはここだけは、真面目な顔つきでピシャリと言った。

ラルルによると、冒険者として登録申請しに來る者は、多種多様で、元も定かでない者もなくない。中にはクエストをしたと稱して、偽の戦利品アイテムを持って來たり、報酬の前払いを要求して前金をけ取ると、そのまま行方を眩ます者もいるらしい。そうした悪質な者を事前に排除する仕組みとして、このような仮登録の制度を設けているのだそうだ。

ヒロがソラリスを見ると、彼ソラリスは當たり前だという顔でウインクした。どうやら拒否権はないらしい。

「分かった。それで何をすればいいんだい?」

ヒロがクエストの中を確認すると、ラルルは申し訳ない、という顔をした。

「大変申し訳ありません。それが今日は斡旋できるようなクエストが無くて……ごめんなさい」

「?」

ラルルは、要領が摑めないといった顔をしているヒロに説明する。

「通常『承認クエスト』は、配達や薬草採取といった、危険度が低いもので行うんです。ギルドにれて問題無い人なのかを見極める為だけなので難しいクエストは必要ありません。功報酬も高額ではありませんから、金目當ての輩や、本気で冒険者になろうと思ってない人の中には、それだけで登録を諦めるのもいます。こちらとしましても、難易度の高い危険なクエストを斡旋して怪我をされても責任問題になりますしね」

言われてみれば當たり前のことだ。仮登録とは要するに試用期間のことだ。その間にギルドの仲間にれていいかを見極めるやり方は合理的だ。だが、たとえ、そこで仲間に相応しくないと判斷されたとしても、そこで終わりではない。後日、再び冒険者登録しに來るかもしれないし、クエストを出してくれるお客様になってくれるかもしれないのだ。『承認クエスト』で怪我をさせたという評判が立つのはギルドとしても合が悪い。ラルルの説明は納得がいくものだった。

ふんふんと頷くヒロにラルルは続けた。

「今日は、配達クエストも薬草採取クエストもないんです。その他に簡単なクエストがないかも確認したんですけど、其れも無くて。すみません。手頃なクエストを探しておきますので、明日、また冒険者ギルドこちらに來ていただけますか?」

明日か。別に急ぐ用事もない。ヒロは承諾した。

「分かった。そういう事なら仕方ない。明日だね」

「はい。すみません」

ラルルは謝罪した後、思い出したようにテキパキとカウンターの下から水晶玉を取り出してヒロの前に置いた。

「あの、魔法力マジックポイント測定をさせて貰ってもいいですか?」

ラルルは元の人懐っこい笑顔に戻っていた。

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