《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》6-041.杜の魔法使い

小屋の中は丁度三等分に仕切られており、ヒロ達は玄関って左の部屋に案された。部屋は広く、なく見積もっても二十畳以上はあった。

部屋の中央に、一枚板の大きなテーブルが五腳並べられていたが、どのテーブルにも本が山と積まれ、のついたフラスコが散していた。中には毒々しい紫の怪しいったフラスコもある。

窓は小さいものが三つ。一面の壁にだけ平行に並んでいる。先程みた木の板のひさしがついているものだ。窓からはそう多くはなかったが、部屋の中は意外に明るかった。四面の壁の上部にランプらしきものがずらりと並べられ、煌々と明かりを燈している。窓の部分以外の壁には天井まで屆く作り付けの書棚があり、びっしりと本で埋まっていた。如何にも魔法使いが使いそうな部屋だとヒロは思った。

老人は向き直り、ヒロ達が部屋にったことを確認すると、ゆっくりと自らのローブの中に手をれ、白い皮袋を取り出した。皮袋の下半分がパンパンに膨らんでいる。相當重量があるものがっていることが窺えた。老人は皮袋を近くのテーブルの僅かな隙間に置く。金屬同士がれる合う音がチャリと鳴った。

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ソラリスのがぴくりと反応したのがヒロにも分かった。それでもソラリスがすぐさま取り返しにかなかったのは、老人に話があるといったヒロの言葉が頭にあったからかもしれない。あるいは、この得の知れない老人を前に無防備にくのは危険だと判斷したのかもしれない。

「ほれ。、お主の金子きんすじゃ。無斷で借りて悪かったの」

盜んだ癖に老人は、無斷で借りたとヌケヌケと言った。ソラリスはちっと舌打ちすると、ズカズカと老人に近寄り、皮袋を取り返す。老人を見下ろすソラリスの眼は苛立ちと怒りに溢れていたが、老人に手を出すことはなかった。ヒロはソラリスが暴を働くのではないかとしハラハラしていたが、ソラリスが自制したことにほっとしていた。

、お主、巨人族のを引いているかの」

老人はソラリスを見上げ、ぽつりと言った。

――巨人族。

ヒロの頭に、エマの街の道屋の景が甦る。たしかカダッタという道屋の親父は自ら巨人族だと言っていた。ソラリスも巨人族の一人だったのか。ならば、彼の雲突くような格も、カダッタと懇意にしていたことも説明がつく。老人がソラリスの格だけを見てそう判斷したのかどうかは分からない。もしかしたら、この世界の住人であればこそ分かる何かがあるのかもしれない。

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「けっ、それがどうしたい、爺じじぃ、余計なお喋りを止めねぇとその首引っこ抜いてやんぞ」

ソラリスが凄んで見せたが、老人はしもじる様子を見せない。ヒロの止めろの聲に、ソラリスは素直に従い、ヒロの傍に戻る。

「爺さん、そろそろ訳を教えてくれないか。どうして俺達を此処まで連れてきたのかを」

「ほっ、ほっ。若いの。若いのは気が急いていかんのぅ。まずはお主達の名前を教えてくれんかの」

「人に名を訊くときは、自分から先に名乗るのが禮儀じゃないのか」

ヒロの言葉に老人は嬉しそうに笑った。

「そうじゃの。儂の名は、モルディアス・ロイ・ラボーテ・クリンダリル。モルで良いぞ。見ての通りしがない魔法使いじゃ」

モルディアスは笑みを消さない。ヒロの反応を楽しんでいるかのようだ。

「俺の名はヒロ。こっちの赤髪はソラリス。こっちの小さいのはリム……」

ヒロは一瞬、リムを霊だと言おうかと迷ったが、それより早くモルディアスが答えを口にした。

霊じゃな」

リムが吃驚した顔でヒロを見る。ヒロは大丈夫だとリムの頭をで落ち著かせた。

「それで、爺さ……いや、モルディアス。俺達に何の様だ?」

モルディアスは、ヒロの問いに直ぐには答えず、くるりと背を向けると、壁際の本棚に行った。本の隙間から一つの水晶玉を取り出して戻ってくる。冒険者ギルドで代理人と名乗った紫のローブを著た、エルテが持っていたのと同じき通ったアクアマリンの水晶玉だ。モルディアスは、テーブルの本の山を片手で押しのけて隙間を作ると、端に置いてあった小さな座布団を引き寄せ、そこに水晶玉を置いた。そして自分もテーブル脇の椅子にゆっくりと腰掛ける。

「ヒロ、お主は冒険者かの」

モルディアスは鋭い眼をヒロに向けた。當たり障りのない質問だがその眼は笑っていなかった。

「いや。冒険者になった積もりはない」

ヒロは否定した。冒険者の仮登録をしたとはいえ、それはんな便宜を図って貰えるとソラリスにアドバイスをけたからだ。正直、冒険者になってどうこうという気持ちは持っていなかった。

「冒険者ギルドあそこに居おって、冒険者じゃないと言うかの。ヒロ、お主は冒険者ギルドあそこで、紫のローブを著たが持っていた水晶玉をったの、あれは何じゃ?」

冒険者ギルドでエルテに勧められた魔法力マジックポイント測定のことだ。モルディアスはヒロの対面に座って、その一部始終を見ていた。

「あれはただ勧められたからだ。特に意味はないよ」

「そうかの。心の何処かに、魔法使いの素質がないかと思わなかったかの」

「それは……」

確かに実際に魔法が使えれば、冒険者ギルドが斡旋する報酬の良いクエストもこなせるようになるかもしれない。そんな淡い期待がなかったといえば噓になる。ヒロは見抜かれたのかと言葉に詰まった。

「もし、お主に本當に魔法の才能があったらどうする? その才能を使わぬまま埋もれさせておく積もりかの」

モルディアスは、そんなヒロの心を見かすかのように靜かに告げた。その口振りはヒロの本心などとうに知っておると言わんばかりだった。

「それは……、使えたらいいと思うさ。だけど、俺には魔法力はない。あの時もその後もどっちも駄目だったんだ」

ヒロはエルテの水晶玉による魔法力測定と、冒険者ギルドの付での測定とどちらも魔法力がないと判定された事をモルディアスに話した。ならば、なぜ魔法使いの素質があるなどと考えたのかと、モルディアスに嗤われるのではないかと思ったが、モルディアスは何も言わず平然としている。無論、ヒロはヒロでウオバルにくる途中、黒曜犬に襲われたときに無意識のうちに炎の魔法を使ったことが原因であることは言わなかった。敵か味方かも分からないこの老人に余計なことをペラペラと喋る訳にはいかない。ヒロはモルディアスの次の言葉を待った。

「そうかの。事の本質が見える者がそう多くないのは世の常じゃ。これでもう一度測り直してみるとよいの」

そう言って、モルディアスはテーブルに置いた、青緑にき通る水晶玉に目線を落とした。

「モル、あんたもまた冒険者の代理人とかしているんじゃないのか?」

ヒロは警戒を緩めなかった。冒険者ギルドでソラリスから紹介された魔法使いのロンボクは、冒険者から契約を取りたいが為に、冒険者をヨイショすることがあると言っていた。このモルディアスという老人も同じ類の輩ではない保証はない。

「ほっ、ほっ、ほっ、こんな爺ぃを代理人にするくらいなら、もっと若くて活きの良いのが沢山おろうて。無駄なことじゃよ」

「測り直して俺に何の得があるんだ?」

こんなことをするためだけに、わざわざソラリスから金貨を掠めとるリスクを冒す筈がない。もっと別の目的がある。ヒロはそう推測していた。

「得にするもしないもお主次第じゃ。じゃが、何もしなければ何も起こらん。お主は何かあると思うたからこそ儂についてきたんじゃろ。のう?」

モルディアスはしばかり挑発的なまなざしをヒロに向けた。それ程人生経験がある訳ではないが、こんな場面には何度も遭遇してきた。チャンスは一度切り。それを摑むか摑まないかでその後が大きく変わることをヒロは知っていた。失敗も數多くしてきたが、その一歩を踏み出してきたからこそ、今の自分がある。ヒロは奧歯を噛みしめた。

「分かったよ。何もしなければ何も起こらない、その通りだ」

ヒロはモルディアスに近寄った。ヒロについてこようとしたリムをモルディアスが止めた。

霊よ、そこからくでない!」

モルディアスはピシリと言い放つ。それまでの靜かな雰囲気から、空気が一変する。リムはびくりとして直させた。

リムがその場からかなくなったことを確認すると、モルディアスは何やら小さく呪文を唱えた。ヒロを含め、リムにもソラリスにも何が起こったのか分からなかったが、部屋の空気の流れがピタリと止まったことだけはじ取ることができた。ヒロ達に不安が過ぎったが、特に何の変化もない。モルディアスは平然とした顔でヒロを見やり、右手の人差し指で水晶玉を指さした。

「そこに手をかざすのじゃ、ヒロ」

ヒロは言われた通りに手をかざした。その途端、水晶玉は強く輝きだした。

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