《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》7-047.異形の魔

――ギガァァァアァ。

突如、ヒロ達の背後でび聲とも鳴き聲ともつかぬ大音響が鳴り響いた。ヒロが聲のした方をみると、巨大な怪が鎌首を擡げていた。

まだ、距離があるので良く分からないが、周りの木々と比較して、おそらく長十メートルは下るまい。頭は蛇のようだが、口には牙が生え、煌々と紅くる両目の間から後ろに反り返った一本角がある。長い首の背には、海老の尾のような甲羅が幾重にも折り重なってずんぐりとしたにまで続いている。山椒魚のように太く短い足が三対。首よりも太い尾がズリズリと地を削りながら近づいてきた。

は白に近い銀をしているが、背中側だけ濃い藍をしており、そこから茶が、ハリネズミのようにピンと尾の方にびている。その姿は異形というしか形容しようのないものだった。

「爺さん、まだ続きがあるのかよ!」

まだ終わってなかったのか。魔法の様子を見るにしては、ちょっとばかりしつこいのではないのか。ヒロがモルディアスに非難の視線を浴びせた。

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「あんなものは召喚しておらん!」

「何だって!」

「下がっておれ!」

モルディアスが張の面持ちで杖を片手に構える。ヒロはリムにモルディアスの小屋に隠れていろ、とぶと、再び炎粒フレイ・ウムを発させようと手をばした。隣を見るとソラリスが短刀を抜いて構えを取っている。

異形の魔は、頭を地に伏せ、背中を丸めた。背のたてがみがピンと天を突くかのように逆立った。

と、次の瞬間、そのたてがみの何本かが打ち出された。天高く舞い上がった魔は、自由落下してヒロ達の二十歩程前の地面に突き刺さる。

は真っ直ぐの形を崩すことなく屹立していた。その姿は、およそ・などというらかいそれではない。地面に深々と刺さっているところをみると、鋼鉄並の度があるに違いない。その長さは長剣程もあり、太さはそれ以上だ。これでは天から槍の雨が降ってくるようなものだ。幸いヒロ達まで屆かなかったものの、矢よりも遙かに危険なことは明らかだ。ヒロの顔が強ばった。

モルディアスが杖を掲げると、魔の左右と後ろに半明の壁のようなものが出現した。壁は魔高の一倍半くらいの高さがあり、異形のモンスターを三方からすっぽりと覆い隠していた。魔を逃がさないためなのだろうか。ヒロには、その半明の壁がバリアか何かのように見えた。

「ラクスーファエルセルィラファーゴ・エスアーバルダェ……」

モルディアスが続けて詠唱を始める。モルディアスの杖に填めこまれた石が輝きを増した。

「大炎槍ラ・フレイム・ソージェ!」

モルディアスの杖からいくつもの巨大な炎の槍・が出現し、異形の怪に向かって放たれる。形狀こそ槍であったが、枝の太さは丸太を三つほど合わせたくらいある。その炎の熱量は凄まじく、周囲の空気が揺らめき景がゆがむ程だ。槍の周囲が炎の紅に染まる。

炎の槍は真っ直ぐに魔に向かい、全弾命中した。

バシィィィィィ!

耳をつんざく大音響が杜に木霊する。あちこちの梢からバタバタと鳥達が飛び立った。

が居た場所は炎に包まれ巨大な炎球と化していた。だが壁の外に炎が出ることはなかったし、周りの木々にも火が燃え移ることもなかった。あの半明の壁・は、延焼を防ぐためのバリアだったのだ。ヒロは単に攻撃するだけではなく、その後のことまで配慮したモルディアスに目を見張る。

を焼き盡くす炎の勢いがし弱まってきた。炎の塊が小さくなっていく。流石にあの炎で焼き盡くされたのだろう。炎が小さくなったのは、燃えるものが無くなってきた証拠だ。

――!?

炎が消えたあとに現れたのは、焼かれる前としも変わらぬ異形の魔だった。

◇◇◇

ヒロは発しかけた自分の炎粒フレイ・ウムを止めた。モルディアスの大火力魔法でも焼くことができなかったのだ。自分の炎粒フレイ・ウムをぶつけたところで同じ結果に終わるだろう。

は大口を開けた。紅い両目が怪しげなを帯びる。ヒロは魔がドラゴンのように炎でも吐くのかと思ったが、それはなかった。

――ピュィイイイイイイイイイイイイイイイイ。

は、その代わりに音を発した。鳴き聲ではない。人の耳にかろうじて聞こえるか聞こえないかという可聴域ギリギリの超高音だ。だが現実は、超音波分が遙かに多く含まれていた。

が発した音波は、周囲の全てを襲った。モルディアスの小屋は震え、地面の小石が宙を舞い々に砕けていく。鼓が破れそうだ。ヒロと両手で耳を塞いだ。これは、攻撃なのか。確か、元の世界でも、ソマリアの海賊退治に音響兵LRADを使われたことがあると何かのニュースで見たことをヒロは思い出した。だが、あれは指向があって、狙ったポイントだけに効果を発揮するものだ。だが、この魔の音波攻撃は、學校のグラウンド程もある空き地全部に及んでいる。こんなに広範囲を効果を與えるのなら、どこかの軍隊だって丸ごと相手に出來るだろう。

の音波はまだ続いている。時間にして十秒にも達していないが、十分以上にもじられた。耳を塞いでも、音が小さくなった気がしない。気休め程度だ。魔の発する音波はこれでもかというくらい鼓を振させ、その奧へと進し脳をシェイクする。額に脂汗が滲む。気持ち悪い。

ちらりとソラリスを見る。ソラリスは歯を食いしばり、音波攻撃に耐えていた。手にした短刀はとうに落としていた。両耳を手で塞いではいるが、その表は苦し気だ。

(くそっ、このままだと……)

ヒロは奧歯を噛みしめた。リムは大丈夫だろうかとの思いが過ぎったが、とても様子を見に行けるような狀況ではない。しでも気を緩めれば、自分が意識を失ってしまいそうだ。ヒロは、込みあがってくる吐き気を懸命に押さえた。

「モルディアス! どうするんだよ。これ!」

力を振り絞って、ヒロはモルディアスにんだ。しかし、その聲がモルディアスに屆いたかどうかは分からなかった。

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