「大丈夫か！　リム！」

ヒロが駆け寄るより先に、エルテがリムを抱き抱える。応急の回復魔法を試みる。

永久の火の燭臺を斬ることで、多のマナが補給されたとはいえ、まだまだマナがないこのホールで掛ける回復魔法はささやかなものだったが、リムが気を取り戻すには十分だった。

「う……」

リムがうっすらと目を開ける。覗き込むヒロの顔をみて微かに微笑んだ。

「ヒロ様、無事だったのですね。よかった」

エルテが回復魔法の強度を上げる。リムの顔にみるみる気が蘇ってくる。よかった。大事には至っていないようだ。

「アークムは？」

リムは獣がどうなったのかと、ヒロに金の瞳を向けた。

「君リムに噛みついた後、急に上を向いて、そのまま消えてしまったよ。何が起こったのかさっぱりだ」

「……そうですか」

リムはを起こした。驚くべき回復力だ。リムはヒロの制止も聞かず、ゆっくりと起きあがると、その辺りを歩き始めた。やがて、小悪鬼騎士ゴブリンロードから切り飛ばしたペンダントを見つけると、しゃがみ込んで拾った。

「リム？」

リムは、それを両手で包んでに抱くと、ヒロの元に戻ってきた。顔を上げると金の瞳からぽろぽろと涙が溢れていた。

「……リム」

リムはヒロの前で両手を広げてみせた。その可らしい手の平には、沢のある白地に茶の斑模様をしたがあった。

「巻き貝？」

ヒロが驚きの聲を挙げる。小悪鬼騎士ゴブリンロードが付けていたペンダントは三角錐だった筈なのだが、今、リムが手にしているのは形は似ているが唯の巻き貝だ。何故、山奧の地下迷宮にこんなものが。困するヒロに、リムが靜かに口を開いた。

「ヒロ様、エルテさん。これが……黃金水晶です。いえ、黃金水晶だったものです……」

「？」

「先程のモンスターの名はアークム。神リーファが巻き貝これに封じた霊獣です」

「！！」

突如、ヒロの脳裏にウオバル図書館から借りたレーベ王の語の一節が思い浮かんだ。神リーファが自分の形見として黃金水晶をレーベ王に託した場面だ。

「あれは、ただの伝説じゃなかったのか」

「ヒロ様、前に……申し上げませんでしたか？　あれは本當の話だったと」

「しかし、これはどうみても唯の貝だ。黃金にも水晶にも見えないが」

「はい。あの時、神リーファはこの巻き貝を拾って、霊獣アークムを封じてから、黃金水晶に錬変化させました。でも、アークムがいなくなった今、元の巻貝に戻ったんです」

リムの説明にエルテが口を挾む。

「リムちゃん、これが黃金水晶だったという証拠はあるの？」

エルテの顔には困のがありありと浮かんでいた。無理もない。エルテはラクシス家の再興をにレーベの寶を探し求めていたのだ。それなのに、この巻き貝がそうだと言われても、簡単に納得する訳にはいかない。彼のし尖らせた口がその気持ちを表していた。

「先程のモンスターが霊獣アークムだということが一つ。そしてもう一つが寶箱の中に」

「どういうことなの？」

「寶箱の底に、黃金水晶が納められた経緯いきさつが書いてありました」

リムが寶箱を指さし、説明しますと言った。ヒロ達が寶箱に集まり、底を覗き込む。リムが金貨を脇に除け、底面を手で払うと、そこに古代文字が刻まれているのが見えた。

「此処フォーの神殿に黃金水晶が納められたのは、霊獣アークムを治療し、目覚めさせるためだったんです」

リムは古代文字を見つめ、その容を語り始めた。