《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》24-194.封印

レイムの言葉にラメルが立ち上がり、両手を広げる。彼の右の親指には金の指、左の親指に銀の指っていた。

「天空世界を駆ける神々の使い、リーとセレスより賜りし廻レンガスの力、此処に臨まん。天空と大地より命の源を集め復活の力となさしめ給へ……」

ラメルの指から金が迸る。

「永久の火エナジー・フレイ・ドレイン!」

大ホールの燭臺の白い玉が消え、代わりに青白い炎が燈る。

「レイム殿」

ラメルの言葉をけ、レイムが寶箱の黃金水晶に向かい、黃金の錫杖を向ける。

「大地母神リーファ、天空神エルフィルの名の下に命ず。霊獣アークムの命の源、此処に臨まん。霊界へ戻るその日まで深き眠りにつきなさい」

レイムが錫杖を天に掲げる。

「聖復アライ・アラ・エリアル!」

黃金の錫杖が白く輝き、復活の力を與える。レイムはラメルの魔法が生み出した青白い炎からマナが細い糸のように、黃金水晶にびていくのを確認すると、ほっと息をついた。

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「神域魔法は功しました。これで大導師ラメルが神殿と神殿を取り巻く山々からしずつ集めるマナが黃金水晶に注がれ、アークムを回復させる力となるでしょう。しかし、それでもアークムが復活するには時を待たねばなりません。アークムの傷が癒え、霊界に戻れるようになるとしても、數千年は掛かりましょう。その間、此処を護る必要があります」

「黃金水晶を納めた寶箱と、この祭壇の部屋を封じるのですか? レイム様」

フレイルが寶箱と扉に鍵を掛けるのかと問うた。レイムは靜かに首を振る。

「いえ、それではアークムが復活しても、此処から出られなくなりましょう。守護者を……」

「はっ。畏まりました」

フレイルがラメルに視線を送る。

「先生、召喚してよいでしょうか?」

ラメルが靜かに頷く。フレイルはエルフィートに合図すると、その場で立ち上がり、懐から革袋を出した。中に手をれ、小さな黒瑪瑙をいくつか取り出す。エルフィートも腰にぶら下げた革袋からき通った石英を取り出した。

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エルフィートは石英を大ホールに、フレイルは黒瑪瑙を祭壇付近に撒いた。二人は右手の人差し指をにあて、同時に召喚と開封の呪文を唱えた。

「大地母神リーファ、天空神エルフィルの名の下に命ず。不滅の魂は大地に留まり、破邪の番人此処に來たれり。これよりのち、我が立ちたる場を何人も立らぬ神域となさん。我の呼びかけに答え、聖なる務めを果たせ……」

フレイルとエルフィートは口に當てた指を天に掲げた。

「守護者召喚!」

宙から稲が生まれ、先程撒いた寶石の中に吸い込まれていった。一呼吸置いて、寶石から煙のようなものが立ち上ったかと思うと、臺座には巨大なガーゴイルバッサーシュパイが現れ像となり、祭壇を包んだ煙が一瞬死霊アンデッドの姿となり、再び消え失せた。

フレイルはレイムに深々と禮をした後、自分の師匠ラメルに報告する。

「祭壇に死霊アンデッド、大ホールにガーゴイルバッサーシュパイを召喚開封しました。これで剣士からも魔法使いからも守れましょう」

「うむ。マナを吸い取られるエナジードレイン神殿だとの噂が広まれば、此処に近づく者もいなくなろう。だが、この地下大聖堂に僅かな日數で辿り著く勇者が今後數千年の間に出てこないとも限らぬ。故に守護者は置いておかねばならぬ。この永久の火のマナ吸引エナジードレインの力は、一瞬で命を奪える程ではない」

ラメルが満足そうに頷くのを見てレイムは、靜かに付け足した。

「大導師ラメルの言葉の通りです。全てのマナを一瞬で奪う程のマナ吸引エナジードレインを掛けてしまっては、フォーの神殿ここを取り巻く山々は枯れ、死の世界となりましょう。そうなれば、黃金水晶に注ぐマナも枯れ果て、霊獣アークムの復活は未來永劫ありません」

「レイム殿、もう一つよろしいか」

ラメルはレイムが承諾したのを見ると、手を天に掲げ、短く呪文を唱えた。ラメルの両手から赤いが広がり、大聖堂の天井に吸い込まれていく。

「念の為、崩壊の魔法を施した。これでフォーの神殿は激しい戦闘は出來ぬ場所となる。本來は此処に匿った人々の間で爭い事を起こさせないための魔法なのだが……」

レイムは皆が首肯するのを確認すると、黃金の錫杖を掲げて宣言する。

「これより後、フォーの神殿の地下聖堂へのり口を封印し、何人たりとも室をじます。數千年の長き時、霊獣アークム復活のその日まで、大地母神リーファの加護のあらん事を」

皆が一斉にレイムに頭を下げる。アークムが眠る黃金水晶が、フォーの神殿に封じられた瞬間だった。

レイムが宣言を終え、錫杖を降ろすと、エルフィートに視線を戻した。エルフィートの銀の瞳が何かを訴えていたからだ。

「エルフィート?」

「レイム様、今日のこの日を、我が筋に伝える事をお許し下さい。數千年の時は、フォーの神殿ここに黃金水晶を奉じた事など押し流してしまいましょう」

「どうされるのです?」

「フレイル」

「はっ」

エルフィートはフレイルに命じ、部屋の隅に積み上げられていた石板狀の化粧石を二枚持って來させ、床に置かせる。

エルフィートは懐から固い繊維で編んだ紙のようなものを取り出し、ハートの形に折ると、それをにあて、囁くように呪文を唱える。折られた紙に、エルフィートの言葉が宮廷文字で焼き付けられた。

エルフィートは紙を元通りに広げて化粧石に乗せると、別の呪文を唱えながら、手でなぞった。紙は溶け込むように化粧石に吸い込まれて消えた。

エルフィートがフレイルにアイコンタクトする。フレイルは二枚の化粧石の一枚を手に取り、レイムの目の前に歩み寄った。レイムに深々と頭を下げ、片膝をついて、化粧石を捧げる。

「レイム様。この石板に霊獣アークムをここに奉じたことを記しました。一枚をフォーの神殿に捧げ、もう一枚は私達ラクシス家が子々孫々伝えていきたく存じます」

ラメルがその意図をレイムに説明した。

「レイム殿。石板を厳重に保管したとしても、一枚だけでは長い年月の間に失われ、紛いとして打ち捨てられることもあろう。ならば、同じ石板を二枚作って、別に保管するがよい。石板が示すフォーの神殿に同じ石板があるとなれば、その容も擔保されよう」

師の言葉をエルフィートが補足する。

「この処置は、私達が大導師ラメルせんせいと相談して決めさせていただきました。何卒、お許しいただきますよう……」

エルフィートとフレイルがレイムに頭を下げる。

「その日に備えて証を殘したということですね」

「はい」

「その証は誰にでも分かってしまうものなのですか?」

レイムが気品ある顔をほんのしだけ歪めた。証を殘したばかりに心なき者に奪われてしまっては元も子もない。

「いいえ」

エルフィートは自分の左手の甲に右手の人差し指と中指を揃えて當て、呪文を唱えた。するとそこにオレンジのハートが浮かび上がった。

「私の紋章印ケイデンシーです。石板には宮廷わたしの文字でこの折り型に記したものを展開して刻んでおります。これが鍵の役目を果たしましょう」

「レイム様。私の手にも同じ紋章印ケイデンシーを施してあります。これを我がラクシス家の子孫に代々施し、鍵として継承させたく存じます」

フレイルの答えにレイムが念を押した。

「では、あなた方のけ継ぐ者でないと解けないということですね」

「はい」

レイムは目を閉じてしばらく考えていた。やがて目を開け、エルフィートの申し出を許可すると告げた。

「分かりました。この一枚はフォーの神殿で保管しておきます。エルフィート、フレイル、もう一枚はあなた達が責任をもって子孫に伝えてください」

「ありがとうございます、レイム様」

エルフィート達が頭を下げる。

レイムは靜かに頷いてから、寶箱に向き直る。黃金の錫杖を両手に持ち、そっと呟いた。

「リーファ様、貴方が殘された先帝レーベの証。目覚めの時のその日まで、大いなる加護の在らんことを……」

ホールを照らす青白い永久の火がそれに応えるかのようにゆらりと揺れた。

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